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第三話

やきもきアレク

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(クーのやつ、大丈夫かな?)

昼、アレクは自分の端末を操作しながら考えていた。
今日はクーが初めて護衛の仕事をするのだと話してくれた日だ。
クーなら心配はないと思ったが、一応と思い、メッセージを送ってみた。

いつもクーはすぐメッセージを返信してくれるが、今日は既読が付いてもなかなか返事が返ってこない。

(まぁ忙しいんだろうな)

少しモヤモヤしたが、アレクは自分の仕事に戻ることにした。
あれからアレクはクー、コーナと共に泰でトキに戦い方についてみっちり教わった。
トキは幼い頃から世界中を旅していたらしい。まだ30歳と若いが、経験が豊富だった。
もしクーに出会っていなければこんな経験をすることもなかっただろう。
アレクはクーにすごく感謝していた。

そして、彼女を守れるようになりたいとも思うようになっていた。

お互いに告白をした日を今も鮮明に思い出すことができる。
アレクは堅気な男なので、少し照れ臭かったが、悪くないと思っていた。

「アレク、休憩にしましょう」

あさみが書類の束を抱えてやってくる。おそらく昼休みを利用して済ませてしまおうということだろう
アレクはその書類を半分つかんだ。

「俺もやるよ」

「ありがとう」

あさみのことは大事だ。でも女性というより、彼女は姉というような感覚だった。

「クーちゃんお仕事どうだったのかしらね」

あさみが言う。アレクは聞かなかったことにした。
あさみもそれ以上はなにも言わなかった。

にこにこえがお園は虐待を疑われている家庭から子供を保護したり、家出をして、行く当てのない子供を預かっている。
アレクも子供の世話をしたり、また保護をしに警察に出向いたりしている。
今日も夕方に三人ほど少年を保護した。
彼らは明日、そのまま保護施設にいくことが決まっている。
孤児院から逃げ出してきたということだった。こんな時でも彼らは明るい。

「ねえねえアレク兄ちゃん。この人だれ?」

アレクが夕飯の支度をしていると、少年の一人にそう声をかけられた。
すっかり懐かれている。
彼はアレクの端末を掲げて見せる。

「ちょ、勝手に触るなよ」

「ねえこの美人なお姉ちゃんだれ?恋人?」

子供らしい無邪気な行動にアレクは思わず力が抜けた。

彼が見ているのはまぎれもないクーの写真だ。
クーが今日の朝、ドレス姿の写真を送ってくれていたのだ。

「恋人みたいなもんかな」

「へえー、兄ちゃんやるー!この人お姫様?」

「いや、違うけど」

「へえー。なんか、メッセージ来てるよ?」

「え」

アレクは少年から端末を取り返して操作した。

「逸花です。クーは疲れて眠っているの。
明日返事をするように言っておくね。
写真を撮ったから送ります。おやすみなさい」

メッセージの下にファイルが添付されている。
アレクはそれを開いた。

数枚の写真が現れる。スクロールをして写真を見るとある一枚に目が留まった。
アレクは固まった。

その写真はクーの手を握っている男の写真だった。
クーは顔が引きつっている。

(こいつ誰だ)

「兄ちゃん?大丈夫?」

アレクはハッとなった。
今は夕飯を作らなければ。

「なんでもない。すぐ飯を作るからな」

「うん」



「アレク、さっきからなにを怒っているの?」

シャワーを浴びてテレビを見ていたら、心配そうにあさみに聞かれた。
彼女はやはり鋭い。

「ん、これ」

アレクは素直に彼女にさきほどの写真を見せた。

「まあ、かわいい男の子ね。クーちゃん困っているみたい」

あさみが笑いながら言う。

「俺よりそいつのがいいのか」

ぽつりと呟いたら、あさみが吹き出した。

「アレクってばおかしい子ね。
クーちゃんがこんな男の子選ぶわけないでしょ」

「そうなのか?」

あさみは頷く。アレクは少し泣きそうになった。

「アレクはいい男よ、自信もって」

あさみはいつもこうして自分を励ましてくれる。

「泰に行って来たら?」

あさみがそう言ってくれるのは嬉しかった。
クーに会いたい気持ちがないわけじゃない。
でも自分はあさみを手伝いたい。
甘えている場合じゃない。

「明日、クーと話すよ」

「ええ」

アレクはその夜、なかなか寝付けなかった。
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