上 下
8 / 29
第一話

お仕事の契約

しおりを挟む
(眩しい)

目を開けると陽の光が窓から差し込んできている。さっそく暑い。どちらかといえば涼しい泰ではこんなこと考えられない。

(そういえば僕、ラキタにいるんだった)

昨日困っているところを、あさみさんに助けてもらったんだ。
ベッドからおりて部屋を出ると、あさみさんが冷蔵庫に食料を入れているところだった。

「あら、クーちゃん。起きたの?」

「うん、おはようございます」

あさみさんがにこりと笑う。

「おはよう。今、ご飯作るわね。シャワー浴びてきたら?この部屋の奥にあるわ。着替えもあるから」

「ありがとう」

あさみさんは本当にお母さんみたいだ。
いつも優しいいつかに会いたくなってきて、泣きそうになった。鼻の奥がつんとしてくる。
でも泣いている場合じゃない。
僕は、いつかを助けに来たんだから。

浴室はすぐに分かった。
すごく広くて、大きな浴槽もある。
洗い場も3箇所ある。子供たちを沢山保護できそうだ。
あさみさんのお仕事の邪魔になってないといいんだけど。

僕はそんなことを思いながらシャワーを浴びた。
タオルで体の水気を拭き取って、服を着たら落ち着いた。
さっぱりした。

「あの、ありがとうございました」

そうっと戻るとテーブルに朝ご飯が並んでいる。

「クーちゃん、ご飯食べなさい」

「はーい」

昨日と違って、全部手作りだった。
美味しそうなにおい。あぁ、お腹空いた。

「いただきます」

バターがたっぷりのったトーストを一口かじるとカリカリのもちもちだった。

「うまぁ!」

「いっぱい食べてね」

「うん!」

ハムエッグも美味しそー!
黄身が半熟だし、ハムがぱりぱりしている。
ソーセージも美味しかった。幸せだ。
サラダも忘れずに食べる。

「クーちゃんは美味しそうに食べてくれるから作り甲斐あるわ」

「あさみさん、お料理上手なんだね」

「私もお母さんになってみたかったの」

あさみさんがふと遠くを見て言った。何かがあったんだろうな。

「クーちゃん、お母さんも探してもらえるのをきっと待ってると思う。
なにもなくてもいい。ここを拠点にしたらどうかしら?」

それはありがたいけれど。
あさみさんはやる気満々のようだ。

「でも僕、あんまりお金を持っていないの」

トキからもらったお金があるけど、沢山はない。

「大丈夫。ここで私の仕事を手伝ってくれれば」

仕事、という響きに僕は惹かれた。
僕にも仕事ができるのかな?できるならやってみたい。

「クーちゃん、私と一緒に働いてみない?お給料もちゃんと出すわ。
まずお父様に許可を頂かなきゃだけど」

「本当に僕でいいの?」

あさみさんは頷いてくれた。
僕は早速端末で電話をかけた。

「もしもし」

トキの眠そうな声が聞こえる。
そっか、時差があるんだ。向こうはまだ明け方だろう。
僕はトキに事情を説明した。
トキもずっと心配してくれていたらしい。

「クー、お前の端末に金を送る。
お前の生活に必要なものを買うといいよ。
逸花のことは無理するな」

「トキ、ありがとう」

「気を付けて帰ってこいよ」

「うんー!」


それから僕はあさみさんと簡単に契約を結んでもらった。
お皿洗いやトイレなどの水回りのお掃除の仕事をさせてもらえるらしい。
もし体調の悪いときはあさみさんにすぐ言うようにと約束もした。

(頑張るぞ!)

「クーちゃん、神殿の行き方を教えるわ」

そうだ、氷漬けになった神殿に行くんだった。なにかわかればいいんだけれど。
あさみさんが地図を僕の端末に送ってくれた。

「クーちゃん、もしかしたら危ないかもしれないわ。くれぐれも気を付けてね!」

「ありがとう、あさみさん!」

僕は氷の神殿へ歩いて向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

母娘丼W

Zu-Y
恋愛
 外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。  左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。  社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。  残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。  休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。  しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。  両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。  大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。  ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...