上 下
21 / 29
第二話

赤ちゃん

しおりを挟む
「あつー」

世界統一事件からもう、数週間が経っていた。
また穏やかな日が戻ってきて、本当によかったなぁ。

「クー、休憩にするぞ」

「はーい!」

トキに呼ばれて、僕は立ち上がった。
今、トキと一緒に畑の草むしりをしている。
泰ねぎの苗を植えるためにだ。泰ねぎは煮るとトロっと甘くてとても美味しいねぎだ。他にもおすすめの調理法が沢山ある。

暑くて汗がふきだしてくる。腕で汗を拭う。

いつも僕達は、畑の隅に生えている大きな木の下にブルーシートを敷いて、休憩している。

「クー、はいお茶」

いつかがコップを渡してくれた。
冷たい泰茶がなみなみ入っている。
僕は一口それを飲んだ。小さい頃から飲んでいる味だ。

「おいしーい!」

「クー、午後は苗を植えるからな。よく休憩しとけよ」

「はーい」

「トキもお茶どうぞ」

いつかがお茶をトキにも渡す。トキの表情が緩む。

「ありがとう」

いつか大好きすぎかよ。

「あのね」

いつかが笑って言った。

「僕のお腹に赤ちゃんがいるの」

「赤ちゃん??」

びっくりして聞き返したらいつかが頷く。

「逸花、本当なのか?」

トキも知らなかったらしい。
いつかがお腹を撫でながら言う。

「安定期に入るまで油断できないけどね」

「いつか、その赤ちゃんて?」

「そう、クーのきょうだいができるんだよ」

僕はいつかに産んでもらったわけじゃない。
血のつながりもない。
でもいつかは僕を娘だって思ってくれている。
すごく嬉しくて、涙がこぼれてきた。

「クー、もうお姉さんなんだよ。生まれてきたらいっぱい遊んであげてね」

「うんー!」

僕、いつかがお母さんで本当によかった。

「よし、クー。草取りするか。
逸花、無理しないようにな」

「はい、トキ」

いつかが頷く。赤ちゃんを産むのって大変そうだ。僕もなにかできることあるかな。


いつかがお昼を作るからと家に戻ったのを見送る。草取りもラストスパートだ。

「泰ねぎが出来るの楽しみだね!」

僕は野菜を市場に売りに行くのが好きだった。
お客さんが直接美味しいって言ってくれるからだ。
モチベも自然と上がる。

「なぁ、クー。お前に頼みたいことがある」

トキが真面目な顔をして言う。
なんだろう?

「もうすぐコーナがここに来るんだ」

「へ?コーナって?あの?」

「そうだ」

コーナは泰の有力者の息子さんだ。
真面目でかっこいいと女性から人気がある。
剣技も得意だ。

「クー、コーナの面倒を見てやってくれないか?」

「いいけどさー」

コーナは時々天然だから心配だ。

「あ、あとな」

トキがポケットから手紙を出す。
誰からだろう?

「あさみさんから今朝、手紙が来たんだが、アレクもここに来るからな」

「え?そうなの?」

「ダンジョンチャレンジに挑むために修行がしたいんだそうだ。クー、頼むな」

「ええ?僕なの?」

「お前はもう修了してるんだし、いいだろ?」

相変わらずトキは、僕に無理難題をふっかけてくるなー。

「わかった。二人は僕に任せて」

そう言うと、トキがニヤリと笑う。

「クー、お前なら出来るよ」

それから僕達は泰ねぎを畑に植えた。
あとは土寄せをしたり堆肥をまく。

(コーナとアレクかー。喧嘩になりそう)

僕は一人、身震いをするのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

処理中です...