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第三話

最後の力

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「わっ、やっぱり里奈さんの作るオムライスやばいな。玉子とろふわで美味い」

「そりゃそうだよ。お母さんの一番得意な料理だもん。いつも美味しいよね」

「俺じゃ、こうはいかないよなー」

「千尋が作ったオムライスも美味しいよ」

「加那…ありがとな」

夕方、二人は自宅のあるマンションに帰ってきていた。
加那太の母親が二人のために作ってくれたオムライスを夕飯に食べている。

それは、とろとろの玉子の上に長時間煮込んだデミグラスソースがかかっている力作だ。
「喫茶・里奈」の一番の人気メニューである。
ほとんどのお客がこれを目当てにやってくると言っても過言ではない。

「でさぁ、千尋」

「ん?」

加那太は食べる手を止めて千尋を見つめた。

「なんかおかしくない?」

「お前もそう思うんだな」

千尋も加那太の言葉に頷いてくれる。
加那太はホッとした。
千尋がそういえば、と呟いた。
椅子から立ち上がって、自室から通勤用の鞄を持ってくる。

「俺、さっき変なの見つけてさ」

「え、怖いから見せなくていいよ」

「俺と同じだけ恐怖を共有してくれ」

「恐怖を共有なんて、絶対やだ」

加那太の言葉など気にせず、千尋は赤い背表紙の本を取り出した。文庫本のようだ。
千尋がそれを加那太に差し出す。

(また不思議な力か…。もういいよ)

加那太は渋々それを受け取った。
中を捲ってみると、加那太は気が付いた。

(ここは…)

✣✣✣

「ハルカ!!ハルカ…無事だったんだな」

加那太は周りを見回した。
辺りにはがれきの山。寺院だったものだ。
自分はまたこの世界、アドリアーレに戻ってきた。

足元ではレオがハルカを抱えながら嗚咽を上げている。
視線を上げて、千尋を見ると頷かれた。
彼もまた分かっているようだ。

「ハルカ?なんで目を覚まさない?
ハルカ!!」

レオが焦っている。
加那太はそっと彼の隣に座った。
自分が現実世界からここに戻ってきた理由に、ようやく気が付いた。

(僕に残っている最期の力をハルカさんに返さなくちゃね)

加那太は彼女の小さな手を優しく握った。

(ハルカさん、起きて。君に力を返すよ。ずっと助けてくれてありがとう)

加那太は力を込めた。
しばらくしてハルカが目を開ける。

「ハルカ!!よかった!!」

レオがぎゅうと彼女を抱き締めている。
加那太はそっと彼らから離れた。
自分と千尋の体が薄れてきている。
もうこの世界に自分達はいられない。

「加那、そろそろ俺達も帰らないとな」

「そうだね、まだオムライスも食べないとだし」

「だな」

レオが振り返る。
加那太は彼に手を振りながら言った。

「二人共、またね!」


✣✣✣

加那太が気が付くといつもの部屋にいた。目の前には食べかけのオムライス。
赤い背表紙の本。相変わらず出処はわからない。

「終わったんだな」

千尋が向かいで言う。
加那太は笑った。

「大丈夫。またねって言ったじゃない」

「俺はもう闘いはごめんだからな」

「千尋、めちゃくちゃ強かったもん。びっくりした」

二人は話しながらオムライスを食べた。
今日も幸せだ。加那太は笑った。

「で、旅行のことなんだけどさ。宿の予約はしてあるから昼間何する?」

「そうだねえ」

二人の日常は続いていく。

おわり
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