花嫁に憧れて〜王宮御用達の指〜

はやしかわともえ

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8・新居

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グレイがユウイの手を引いてくれている。この状況がなんだか温かくて、ユウイは嬉しくなった。道のりからして、新居になるはずの家に向かっているようだとユウイは判断する。ドキドキしながらも黙ってついていくことにする。

「ユウイ殿が喜んでくださるといいのですが」

グレイはなにやら不安気だ。新居の鍵をグレイが開け、中に踏み込むと、既に真新しい家具が置かれている。今日からでも暮らせそうなくらいだ。

「わぁ、素敵なお家になってますね!」

ユウイが素直に喜ぶと、まだです、と固い返事が返ってくる。一体なんだろう?とユウイはグレイの後を追い掛けた。

「ここがユウイ殿のお部屋です。雪まつりの服も用意してあります」

ユウイは驚いて声が出せなかった。大きなベッドに机と椅子。それらにはこれでもかとプレゼントと思われる包みが置いてある。

ユウイが呆気に取られている間もなく、グレイは部屋の奥にあるものに近付いた。布が被せられており、何かは分からない。グレイが思い切り布を剥ぎ取る。ユウイは息を呑んだ。

「ミシン…しかもこれ一番性能がいいやつ!」

「貰い受けたものです」

ユウイはミシンに近付き、あちこちを見ながら確認のため触った。元の持ち主は相当大事にこのミシンを使っていたことがよく分かる。部品にも不備はないようだ。

「ユウイ殿、どうですか?」

「グレイ様、色々ありがとうございます!嬉しいです」

ユウイが満面の笑顔で言うと、グレイはホッとしたように笑った。

「あ、プレゼントも…その、こんなに頂いてしまっていいんでしょうか?」

「国王陛下からも預かったものですから」

ひえ、とユウイは慌てた。国王からプレゼントをされるなど平民の自分からすれば有り得ない話である。ユウイの百面相をグレイは優しげな顔で見つめている。

「開けてみてはいかがでしょうか?」

「え!」

「ユウイ殿の気に入るものがあればいいですね」

グレイは茶を淹れるからと台所に向かった。残されたユウイはプレゼントを開けている。中身は上等な革靴だったり、衣類だった。

「こ…こんな素敵なもの…」

「ユウイ殿、お茶です。焼き菓子もありますよ」

グレイが呼びに来たのでユウイはプレゼントを綺麗に並べて置いて向かった。食卓に着き、温かいお茶を冷ましながら飲む。焼き菓子はふわふわで甘い。

「ユウイ殿、今日はここに泊まってみませんか?」

「いいんですか?」

「ここはあなたのお家ですよ。もう少ししたら城に荷物を取りに行きましょう」

「わぁ…!」

グレイの言葉が嬉しくてユウイの心はほこほこと温かくなる。お茶のお替りを注いでもらい、ユウイはグレイとのんびり雑談をした。グレイの仕事のことや、日々の訓練の話。ユウイは騎士の多様な仕事に驚いた。

「騎士になるってやっぱり大変ですね」

「皆、自分の誇りを大切にしています。血の気の多い奴もいますが、いい奴らばかりですよ」

グレイがそういうのだから間違いないのだろう。

「グレイ様とこうしてお話出来て嬉しいです」

「私もです。ユウイ殿と一緒にいるのは楽しいですよ」

夕方、ユウイは城に荷物を取りに行った。グレイは訓練があるからと途中で別れた。

「ユウイ様ー」

ミユがとたたと駆け寄ってくる。

「新しいお家に行くの?」

「今日だけね」

ミユはどことなく寂しそうだ。

「なんだか変な感じ。ユウイ様がここにいるのが当たり前だったし」

ユウイは彼女の頭を撫でた。

「大丈夫。お休みになったら遊びにおいで」

「うん!!」

パアッとミユの表情が明るくなる。仕事をしているとはいえ、まだまだ子供だ。

「じゃあね!ユウイ様!」

「うん、また明日ね!」

ユウイはるんるんしながら新居に戻った。
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