花嫁に憧れて〜王宮御用達の指〜

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
17 / 20
2

7・確執

しおりを挟む
姫のドレスを作り終え、ユウイは最後の調整にかかっている。

「お腹苦しくないですか?」

「大丈夫だ。昔はコルセットとかいう物で無理やりウエストを締め上げたのだろう?そんな物聞いただけでゾッとするわ」

今でもコルセットを使っている婦人もいるがユウイは笑って流した。

「これで雪まつりに無事に出られるな。ユウイ、お前も来るのだろう?」

「はい、王妃殿下にお誘いを頂いています」

ユウイは王妃のドレスも仕上げていた。これから最後の調整が待っている。姫の要望通り、時間が被るようにした。

「父上も母上にもこの祭はきっと楽しんでもらえる」

姫は前よりも穏やかになった…気がする、とユウイは密かに思っていた。隣国での暮らしを楽しんでいるようでユウイはホッとしている。結婚相手である王子や周りの者も姫に優しくしてくれているらしい。だからこそここに遊びに来られるのだろう。国王も王妃も特に咎める様子もない。ユウイはとうとう調整を終えた。

「わー!可愛い!さすがユウイだな!」

姿見を見ながら姫がはしゃいでいる。

「姫様、外に出る時は何か羽織ってくださいね」

「分かっておる!妾の可愛さは無限大だからな」

自信満々な所は全く変わっていない。ユウイは心の中で苦笑した。
そこに部屋をノックする音が聞こえる。もちろん王妃だ。

「妃殿下!お待ちしていました」

「は、母上」

姫が気まずそうにもじもじしているのを見て、王妃は笑った。

「可愛らしいドレスね、ノア。似合っているわ」

ぱぁっと姫が嬉しそうに笑う。

「では妃殿下、調整をしますね」

侍女たちの力を借りて、王妃も着替える。ユウイは最後の仕上げをした。

「これで完了です。お二人共、いかがでしょうか?」

「ユウイ様、素敵なドレスを本当にありがとう」

「ユウイ、礼を言うぞ」

ちょっとお茶でもとなり、ユウイは姫と共に茶会の席にいる。カリカリのスコーンに上等なケーキ、ユウイは一口食べてその美味しさに驚いてしまった。

(さすが料理長)

城の食事もさることながら、スイーツまでこのレベルなのかと改めて感激する。茶葉も相当上等なもののようだ。

「んむ、美味いな」

姫ももりもり食べている。

「ノア、ゆっくり食べなさい」

王妃が姫の口の周りをナプキンで拭ってやっている。18歳?とユウイは心の中で笑ってしまった。

「は、母上。ノアは悪い子でした。いつも母上になにかと逆らい…」

姫がしょんぼりとしながら言う。

「いいのよ、ノア。私も母として至りませんでした」

姫と王妃がお互いを見て笑い合う。ずっとあった確執が消えた瞬間をユウイは見た気がした。

「よし、ユウイ!雪まつりでは妾が案内をしてやろうぞ!」

いつもの調子に戻った姫にユウイは頷いた。

「して、式に妾は呼んでもらえるのだろうな?」

式?とユウイは首を傾げ、結婚式であることに気が付き顔が熱くなった。

「い、今準備中です」

「花嫁衣装を作っているのじゃろ?ユウイのデザインだ。きっと可愛らしいのだろうな」

姫に脇腹をツンツンされて、ユウイは照れ笑いをした。グレイとの式の日取りもだんだん具体的なものになってきている。本当に花嫁になれるのかと思うと緊張が上回ってしまうが、グレイと生涯を支え合っていこうとユウイは思っている。

「ユウイ殿!ここにいらっしゃいましたか」

グレイが颯爽とやってきた。そして姫と王妃に頭を下げる。

「妃殿下、姫様、お騒がせして申し訳ありません」

「ユウイ、行ってやると良い」

「では失礼致します」

姫と王妃は二人で話したいのだろうとユウイは席を外した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...