花嫁に憧れて〜王宮御用達の指〜

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
15 / 20
2

5・母娘

しおりを挟む
「ユウイ、邪魔をする」

もう夕方になっている。姫はあの後ユウイの作業を穴が開くほど眺めて帰って行った。今度やって来たのは国王と王妃である。本来であればユウイが出向く場面なのだが、国王は特に頻繁に作業場にやって来る。

「国王陛下、妃殿下、わざわざ来てくださるなんて」

ユウイがしきりに恐縮すると二人は笑った。

「聞いたぞ。グレイと式を挙げると」

「え」

どうやらあの時の会話は皆に筒抜けだったらしい。ユウイは顔が熱くなった。

「グレイは頼りになる男だ。ユウイ、お前をきっと守ってくれるだろう。して、結納はいつだ?」

国王、気が早い!とユウイは焦った。

「陛下、ユウイ様が困っていますわ」

隣りにいた王妃に窘められ、国王が白くなった顎髭を撫でながら唸る。

「グレイはワシの息子のようなものでな。すまなかった、ユウイよ」

「い、いえ、そんな…」

国王の謝罪にユウイは縮こまることしか出来ない。平民の自分にはもったいないどころではすまないからだ。

「ユウイ様、素敵なドレスを作ってくださってるのね」

王妃が話題を変えようとしてくれたのか明るい口調で言ってくれた。

(王妃様、何でも出来る才媛って聞いてたけど本当だな)

ユウイは感謝の気持ちいっぱいで頷いた。

「はい、妃殿下の淑やかさや、凛とした立ち居振る舞いを現わしてみました」

「まあ」

王妃が照れくさそうに笑う。

「うむ、お前にぴったりのデザインだ」

「お待たせして申し訳ありません。もう少しお時間を頂きたいのですが」

「ならばユウイよ。間もなく開催される雪まつりに間に合うようにしてみせよ」

「はい。頑張ります」

雪まつりは約半月後に行われる。隣国の山の中で行われる祭りで温かい果実酒や肉料理などが振る舞われるのだ。

「その間にグレイと式のことを決めるのだ。ワシは楽しみにしている」

はっはっはと国王は笑う。

「ユウイ様、お願いしてよろしいですか?」

「はい、必ずや間に合わせて見せます」

ユウイは胸に手を当て頭を下げた。

***

夜になっている。ユウイは眠気を振り払おうと外の空気を吸いに部屋を出た。もう真夜中に近いが、もう少し作業を進めたかったのだ。ふと人影を見つけてユウイは立ち止まる。

「妃殿下」

「あら、ユウイ様。奇遇ね」

ユウイは彼女のそばに駆け寄り頭を下げた。

「眠れないのですか?」

「ふふ。一人を楽しんでるの」

王妃の横顔はどこか寂しそうだった。

「あんなに騒がしかったのに、いざ娘がいなくなると寂しいわね」

「妃殿下・・・・」

王妃はユウイを見て笑う。

「私と娘は口を開けば喧嘩ばかりしていた」

「そうだったんですか?」

驚いてしまったユウイである。王族もやはり人間なのだとユウイは初めて思い知った。

「でもすごく愛してたの。大事な娘だった」

「可愛らしい方ですからね」

「そうなの。今になってあの子が小さかった頃のことを思い出して感極まったりして」

「妃殿下は戦っておられるのですね」

「そうね、その通りだわ。寂しさと戦ってるの」

ユウイはそうだ、と妃殿下にあることを提案していた。明日、姫が来たら話してみようということもだ。

「あの子ったら・・・ユウイ様のお邪魔になっていない?」

「いえ。村でも誰かと話しながら作業をしていたので慣れています」

「ユウイ様、あなたを村から連れ出してしまってよかったのかしら?」

ユウイは笑った。

「多分俺が生涯で出来る事ってすごくわずかだと思うんです。でもこうしてドレスを作らせてもらえてすごく光栄です」

「ありがとう」

「妃殿下、もう冷えます。お休みになってください」

「ユウイ様も無理をしないでね」

「はい。気を付けます」

王妃を見送ってユウイは作業部屋に戻った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

処理中です...