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5・母娘
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「ユウイ、邪魔をする」
もう夕方になっている。姫はあの後ユウイの作業を穴が開くほど眺めて帰って行った。今度やって来たのは国王と王妃である。本来であればユウイが出向く場面なのだが、国王は特に頻繁に作業場にやって来る。
「国王陛下、妃殿下、わざわざ来てくださるなんて」
ユウイがしきりに恐縮すると二人は笑った。
「聞いたぞ。グレイと式を挙げると」
「え」
どうやらあの時の会話は皆に筒抜けだったらしい。ユウイは顔が熱くなった。
「グレイは頼りになる男だ。ユウイ、お前をきっと守ってくれるだろう。して、結納はいつだ?」
国王、気が早い!とユウイは焦った。
「陛下、ユウイ様が困っていますわ」
隣りにいた王妃に窘められ、国王が白くなった顎髭を撫でながら唸る。
「グレイはワシの息子のようなものでな。すまなかった、ユウイよ」
「い、いえ、そんな…」
国王の謝罪にユウイは縮こまることしか出来ない。平民の自分にはもったいないどころではすまないからだ。
「ユウイ様、素敵なドレスを作ってくださってるのね」
王妃が話題を変えようとしてくれたのか明るい口調で言ってくれた。
(王妃様、何でも出来る才媛って聞いてたけど本当だな)
ユウイは感謝の気持ちいっぱいで頷いた。
「はい、妃殿下の淑やかさや、凛とした立ち居振る舞いを現わしてみました」
「まあ」
王妃が照れくさそうに笑う。
「うむ、お前にぴったりのデザインだ」
「お待たせして申し訳ありません。もう少しお時間を頂きたいのですが」
「ならばユウイよ。間もなく開催される雪まつりに間に合うようにしてみせよ」
「はい。頑張ります」
雪まつりは約半月後に行われる。隣国の山の中で行われる祭りで温かい果実酒や肉料理などが振る舞われるのだ。
「その間にグレイと式のことを決めるのだ。ワシは楽しみにしている」
はっはっはと国王は笑う。
「ユウイ様、お願いしてよろしいですか?」
「はい、必ずや間に合わせて見せます」
ユウイは胸に手を当て頭を下げた。
***
夜になっている。ユウイは眠気を振り払おうと外の空気を吸いに部屋を出た。もう真夜中に近いが、もう少し作業を進めたかったのだ。ふと人影を見つけてユウイは立ち止まる。
「妃殿下」
「あら、ユウイ様。奇遇ね」
ユウイは彼女のそばに駆け寄り頭を下げた。
「眠れないのですか?」
「ふふ。一人を楽しんでるの」
王妃の横顔はどこか寂しそうだった。
「あんなに騒がしかったのに、いざ娘がいなくなると寂しいわね」
「妃殿下・・・・」
王妃はユウイを見て笑う。
「私と娘は口を開けば喧嘩ばかりしていた」
「そうだったんですか?」
驚いてしまったユウイである。王族もやはり人間なのだとユウイは初めて思い知った。
「でもすごく愛してたの。大事な娘だった」
「可愛らしい方ですからね」
「そうなの。今になってあの子が小さかった頃のことを思い出して感極まったりして」
「妃殿下は戦っておられるのですね」
「そうね、その通りだわ。寂しさと戦ってるの」
ユウイはそうだ、と妃殿下にあることを提案していた。明日、姫が来たら話してみようということもだ。
「あの子ったら・・・ユウイ様のお邪魔になっていない?」
「いえ。村でも誰かと話しながら作業をしていたので慣れています」
「ユウイ様、あなたを村から連れ出してしまってよかったのかしら?」
ユウイは笑った。
「多分俺が生涯で出来る事ってすごくわずかだと思うんです。でもこうしてドレスを作らせてもらえてすごく光栄です」
「ありがとう」
「妃殿下、もう冷えます。お休みになってください」
「ユウイ様も無理をしないでね」
「はい。気を付けます」
王妃を見送ってユウイは作業部屋に戻った。
もう夕方になっている。姫はあの後ユウイの作業を穴が開くほど眺めて帰って行った。今度やって来たのは国王と王妃である。本来であればユウイが出向く場面なのだが、国王は特に頻繁に作業場にやって来る。
「国王陛下、妃殿下、わざわざ来てくださるなんて」
ユウイがしきりに恐縮すると二人は笑った。
「聞いたぞ。グレイと式を挙げると」
「え」
どうやらあの時の会話は皆に筒抜けだったらしい。ユウイは顔が熱くなった。
「グレイは頼りになる男だ。ユウイ、お前をきっと守ってくれるだろう。して、結納はいつだ?」
国王、気が早い!とユウイは焦った。
「陛下、ユウイ様が困っていますわ」
隣りにいた王妃に窘められ、国王が白くなった顎髭を撫でながら唸る。
「グレイはワシの息子のようなものでな。すまなかった、ユウイよ」
「い、いえ、そんな…」
国王の謝罪にユウイは縮こまることしか出来ない。平民の自分にはもったいないどころではすまないからだ。
「ユウイ様、素敵なドレスを作ってくださってるのね」
王妃が話題を変えようとしてくれたのか明るい口調で言ってくれた。
(王妃様、何でも出来る才媛って聞いてたけど本当だな)
ユウイは感謝の気持ちいっぱいで頷いた。
「はい、妃殿下の淑やかさや、凛とした立ち居振る舞いを現わしてみました」
「まあ」
王妃が照れくさそうに笑う。
「うむ、お前にぴったりのデザインだ」
「お待たせして申し訳ありません。もう少しお時間を頂きたいのですが」
「ならばユウイよ。間もなく開催される雪まつりに間に合うようにしてみせよ」
「はい。頑張ります」
雪まつりは約半月後に行われる。隣国の山の中で行われる祭りで温かい果実酒や肉料理などが振る舞われるのだ。
「その間にグレイと式のことを決めるのだ。ワシは楽しみにしている」
はっはっはと国王は笑う。
「ユウイ様、お願いしてよろしいですか?」
「はい、必ずや間に合わせて見せます」
ユウイは胸に手を当て頭を下げた。
***
夜になっている。ユウイは眠気を振り払おうと外の空気を吸いに部屋を出た。もう真夜中に近いが、もう少し作業を進めたかったのだ。ふと人影を見つけてユウイは立ち止まる。
「妃殿下」
「あら、ユウイ様。奇遇ね」
ユウイは彼女のそばに駆け寄り頭を下げた。
「眠れないのですか?」
「ふふ。一人を楽しんでるの」
王妃の横顔はどこか寂しそうだった。
「あんなに騒がしかったのに、いざ娘がいなくなると寂しいわね」
「妃殿下・・・・」
王妃はユウイを見て笑う。
「私と娘は口を開けば喧嘩ばかりしていた」
「そうだったんですか?」
驚いてしまったユウイである。王族もやはり人間なのだとユウイは初めて思い知った。
「でもすごく愛してたの。大事な娘だった」
「可愛らしい方ですからね」
「そうなの。今になってあの子が小さかった頃のことを思い出して感極まったりして」
「妃殿下は戦っておられるのですね」
「そうね、その通りだわ。寂しさと戦ってるの」
ユウイはそうだ、と妃殿下にあることを提案していた。明日、姫が来たら話してみようということもだ。
「あの子ったら・・・ユウイ様のお邪魔になっていない?」
「いえ。村でも誰かと話しながら作業をしていたので慣れています」
「ユウイ様、あなたを村から連れ出してしまってよかったのかしら?」
ユウイは笑った。
「多分俺が生涯で出来る事ってすごくわずかだと思うんです。でもこうしてドレスを作らせてもらえてすごく光栄です」
「ありがとう」
「妃殿下、もう冷えます。お休みになってください」
「ユウイ様も無理をしないでね」
「はい。気を付けます」
王妃を見送ってユウイは作業部屋に戻った。
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