花嫁に憧れて〜王宮御用達の指〜

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
14 / 20
2

4・花嫁に憧れて

しおりを挟む
姫君の結婚式は盛大に行われた。ユウイはその様子を後ろから眺めていた。自分が作ったドレスを王族が着ているかと思うと不思議な気持ちになる。姫は終始ニコニコしていて、ユウイはホッとした。

「ユウイ殿」

ふと声を掛けられ振り向くとグレイだった。

「お寒いでしょう。ホットチョコレートです」

「わぁ、ありがとうございます」

生クリームの載ったホットチョコレートはユウイの大好物の一つだ。こく、と一口飲むと、濃厚な甘みが広がる。

「わぁ美味しい」

「よかった」

グレイが満足そうに笑う。どうやらそばにある屋台で買ったものらしい。ユウイは慌てて財布を出した。

「お金をお支払いしなければ」

「ユウイ殿、お気になさらず。私がしたいからそうしただけです」

グレイの言葉にはいつもメロメロになるが、今日は特別にそうだった。

(グレイ様大好き!。―)

「結婚式、しませんか?」

「へ?!」

唐突なグレイの言葉にユウイはポカン、となった。

「誰のですか?」

「私とユウイ殿の」

ユウイはその言葉に体が浮き上がるような気持ちになった。

「ユウイ殿、あなたのウエディングドレスを作りましょう」

「お、俺のウエディングドレス?」

ユウイはくらくらしていた。本当に?という気持ちでいっぱいだ。

「私は裁縫に不慣れですが、出来る事もあるはずです」

「グレイ様優しい、好き」

心の声が漏れてしまっていた。あ、と思ったがもう遅い。いつの間にかグレイに腰を抱き寄せられている。

「ユウイ殿がそう思ってくれて嬉しいです」

グレイが目を細めて優し気な表情でユウイの顔を覗き込んでくる。かああとユウイは顔が熱くなった。

「グレイ様、えっち過ぎます」

ぎゅっと目を閉じてユウイはふるふると首を振った。

「ユウイ殿に言われたくないですな」

「え?」

急に強張った声にユウイがそっと目を開けるとグレイが困ったように笑っている。

「ユウイ殿の方が私にとっては刺激的です」

「そんな」

「そこの!妾の結婚式でいちゃいちゃするでない!!」

姫にずばりと言われてユウイとグレイは頭を下げたのだった。

***

「ウエディングドレス・・俺が着てもいいの?」

その日の夜。ユウイは真っ白な紙の前で固まっていた。案が思いつかない時はいつも単調な作業で気持ちを切り替えるようにしている。ユウイは無心で布をハサミで切りだした。姫のドレスと王妃のドレスも作る必要がある。
無心で作業するユウイの手は早い。いつの間にか必要なパーツは全て切り出していた。外はいつの間にか真っ暗になっている。ユウイは作業の手を止めた。

「今日はここまでか」

ユウイはいつの間にかへとへとになっている。着替えてベッドに潜り込むと眠ってしまった。
次の日、ミユが運んでくれた朝食を摂ったユウイはミシンでパーツを縫い合わせている。
ミシンは今日も絶好調のようだ。外から騎士たちの声が聞こえて来る。今日も訓練に励んでいるのだろう。

「なにか装飾を付けよう。リボンかな」

ユウイは姫のドレスを見て呟いた。黄色のミニスカートドレスだが姫の品位は損なわれてはいけない。

「妃殿下は真珠にしよ」

ばたばたばたと足音がする。だが、姫は隣国に行ったはずだ。自分が疲れているのかと思ったらバタンとドアが開いた。

「ユウイ!妾のドレスは?」

「え?姫様、もう嫁がれたんじゃ?次のお祝いに隣国に持っていくつもりだったんですが」

ユウイが固まっていると姫がふんすと薄い胸をのけぞらせる。

「妾は好きなようにしていいのだ!だって姫様だからな」

なんという理屈・・とユウイは一瞬あっけに取られたがだんだんおかしくなってきてしまった。

「む、ユウイよ。何がおかしい?」

「さすが姫様です」

ユウイの言葉に姫は自信たっぷりにそうだろうとまたふんぞり返った。

「で、ドレスはどうなったのだ?」

ユウイはドレスを見せた。姫の瞳が輝きだす。

「なんと!可愛いではないか!」

「姫様は元気いっぱいなので足を出すデザインにしてみました」

「よいぞよいぞ。伝統なんてくそくらえだ」

姫の口が悪い・・・とユウイは思ったが、いつもこんな感じかと思い直す。

「もう出来るのか?」

「申し訳ありませんがもう少しかかります。最後は姫様のご都合のいい時に調整しますね」

「調整は母上と一緒にやってたもれ」

「え?」

姫が気まずそうにユウイから目線を反らした。

「姫様?」

「妾、こんな感じじゃろ?わがままを人の三倍くらい言ってきた」

自覚あったんだとユウイはおかしくなってしまった。

「母上はこんな妾をずっと見守ってくれたからな。最後くらいよい娘でいたいのだ」

「姫様。ご立派になられて」

「皆、妾を褒めちぎるだろう」

ふははと姫が高笑いをしている。ユウイはいつもの姫だったとホッとしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結】トルーマン男爵家の四兄弟

谷絵 ちぐり
BL
コラソン王国屈指の貧乏男爵家四兄弟のお話。 全四話+後日談 登場人物全てハッピーエンド保証。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

年下セレブのわがまま事情

ブリリアント・ちむすぶ
BL
年下セレブ×カフェ店員お兄さん カフェを経営しているレンにはガランという恋人がいる ガランは高級ホテルを家替わりにするほどのセレブだが、なぜか平凡なレンと恋人になっている しかし、一向に年齢すら明かさないガランに業を煮やしたレンはガランとガランの祖父らしき人物が書いた本を発見する そこに書かれていたガランの年齢が15歳であることが判明する。 咄嗟に逃げたレン。そのレンの元にガランを狙うケビンという人物がレンに接触してくる――。 年下セレブ×カフェ店員お兄さん 年下×年上 登場人物 レン 22歳  金髪隻眼  父親から譲り受けたカフェを経営している  穏やかな性格だが、ガランに対してはほんの少し感情的 ガラン 15歳  黒髪黒目のアジア系の見た目  高級車を乗り回し、高級スーツを着こなすセレブ  住まいは高級ホテルのスイートルームという金持ちさだが、  その素性は謎で疑問に思ったレンが部屋内を物色したところ、15歳の未成年であることが分かる。  なぜレンと付き合っているのかすら謎 ケビン  ガランを目的にレンと接触した謎の人物  そのわりには人懐こく、レンは絆され気味  裁縫が得意で甘いものが好き マーク  レンの父  児童保護施設を妻のハンナと共に運営している  レンの尊敬する人物  穏やかで思慮深い ハンナ  レンの母児童保護施設を夫のマークと共に運営している  家族と仕事も平等に愛する非常にパワフルな人物   エイダ&カーラ  レンの店の常連客  開店から閉店までいるため、レンとガランの関係を見守っている。  エイダ 夫と二人暮らし。裁縫が得意  カーラ 夫に先立たれ一人暮らし。娘がいる。読書が趣味 ーーーーーーーーーーーー 感想よければ… https://odaibako.net/u/chimusubu_tmy ※表紙にAIイラストを使用しております

処理中です...