花嫁に憧れて〜王宮御用達の指〜

はやしかわともえ

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9・ファーストキス

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「ん、おいひぃ」

ユウイは焼きそばを食べている。具がゴロゴロ入った豪華なものだ。まだまだ食べ物がたんまりある。隣りに座っていたグレイがユウイの様子に笑う。

「ユウイ殿、付いてますよ?」

「あ…」

ユウイが慌てて手で顔を探ろうとしたら、ちゅ、と口付けられた。ユウイの顔は急激に熱くなる。

「あ…あの…あの…えーと…」

「ユウイ殿、私はあなたが好きです」

「あ、俺も…」

ちらっと彼を見上げると、グレイは穏やかに笑っている。こんな時でも余裕があるなぁとユウイは感心していた。やはり自分とは違う。

「ぐ、グレイ様ならもっと素敵な方が…っふ」

黙れとばかりに口付けされて、ユウイは固まった。焼きそばの容器をグレイにあっさり取り上げられている。

「ユウイ殿」

「っ…あ…」

グレイに隙間もないほど抱き寄せられ、再びキスを落とされている。

「ン…ん、っ…」

「愛しています、ユウイ殿。あなたをもっと知りたい。もっと深いところまで」

ユウイはぽーっとしていた。

「じゃ、じゃあ俺をグレイ様のお嫁さんにしてくれますか?」

ぼんやりしたまま言うと、グレイが笑う。

「なって頂けるんですか?」

「はい…」

二人は再び唇を重ねていた。

✢✢✢

「ユウイ殿、大丈夫ですか?」

「ふ…お腹いっぱいです…苦しい」

ユウイは色々おかしくなって食べ過ぎた。グレイに自分の気持ちを伝えたのはよかったのだが、その後どう振る舞ったらいいか分からなかったのだ。

「ユウイ殿は沢山食べられるんですね」

「恥ずかしいです。ごめんなさい」

うう、とユウイが縮こまると、グレイに頭を撫でられる。

「そんなところも可愛らしいですよ、ユウイ殿」

グレイの言葉の甘さにユウイは再び顔に熱がこもる。

「ぐ、グレイ様は俺に甘過ぎです!」

「そうですか?」

「そうです!」

膨れたら、グレイに笑われた。どこまでも彼は自分に甘いらしい。

「さぁ、腹ごなしに少し歩きませんか?」

「はい」

二人は祭を見てまわった。華やかな飾りのほとんどはユウイの手掛けたものだ。

「素晴らしいですね、ユウイ殿」

「ありがとうございます」

いつの間にかグレイと手を繋いでいる。ユウイはドキドキしながらも彼と歩いた。楽しい時間はあっという間で、祭はいよいよ終盤に差し掛かる。花飾りを燃やすのだ。

グレイも花飾りを火の中に投げ入れた。

「ユウイ殿、今日はありがとう」

「あ、俺の方こそ。すごく楽しかったです」

二人はユウイの家に戻って来ている。ユウイは風呂の支度をし、布団を二組出して並べて置いた。グレイは装備品を外している。

「わぁ、すごい装備ですね」

ユウイがグレイの装備をしげしげ見つめていると、グレイが脱いだ鎧を持たせてくれた。

「わ、重たっ!!」

見た目に反してそれはずしりと重い。ユウイが驚いているとグレイが笑う。

「ユウイ殿には必要のないものです」

「グレイ様…」

グレイの傷痕をユウイは思い出していた。きっと他にも傷痕があるのだろう、と思うとユウイはたまらなくなる。何故、人は争うのだろうか。モヤモヤするが、考えても答えは出ない。

「グレイ様、お風呂どうぞ」

「ありがとう」

ユウイも風呂に入り、布団に横になった。城の物とは違い薄い布団だが、ないよりはいいだろう。ユウイの漆黒の髪の毛をグレイは撫でている。彼はどうやらもうウトウトしているらしい。

「グレイ様、おやすみなさい」

「おやすみ」

グレイが眠ったのを確認して、ユウイは毛布に顔を埋めた。

(初めてキスした…キスってすごい…あんなに気持ちいいんだ)

ユウイは先程の感触を思い出した。それだけで顔が真っ赤になってしまう。

隣のグレイはよく眠っているようだ。ユウイはしばらく彼を見つめ、目を閉じた。
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