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8・祭
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ユウイは自分の家にグレイを招いた。小さい家だが、客人一人くらいならもてなせる。ユウイは村で取れた茶葉を使い茶を淹れた。古いかまどなので城の設備のようにはいかないが、アツアツの茶を淹れられる。戸棚には甘すぎて保存がよく効く菓子が二つ入っていた。ユウイはこの菓子が好き過ぎて、買いに走ったところを村人に捕まえられた前科がある。村長いわく、食べ過ぎの罰だそうだ。ユウイは月に三個までという制限のもと、この菓子を食べている。10日に1個食べられる計算だ。
「このお菓子…」
グレイが顔をしかめている。どうやら知っているらしい。
「グレイ様もご存知なのですね!甘くてすごく美味しいんです!」
「あ、じゃあユウイ殿が食べてください」
やんわり食べることを断られたことにユウイは気付かず、いいんですか!と目を輝かせた。
「あ、でもお客様のお茶請けが…」
ユウイはあれやこれや台所を探して、そうだと閃いた。地下にあれがあったではないかと思ったのである。ユウイは床に寝そべった。床の窪みをいじると、カチとロックが外れる音がする。ユウイは床をぐっと持ち上げた。中は貯蔵庫になっており、ユウイの全財産が隠されている。ユウイはその中から透明の大きな瓶を取り出した。それには漬け物が入っている。ユウイが自分で漬けた特製の漬け物だ。太い一本を取り出して軽く洗う。まな板の上で薄く切ると、ようやく食べられる。ユウイは皿に盛り付けてグレイに差し出した。爪楊枝も忘れない。
「あの、これを」
「わぁいい匂いですね」
グレイが漬け物を頬張ると、目を見開いた。
「どうですか?」
「美味い…」
「本当ですか?良かった」
「お袋を思い出します。ユウイ殿は料理の才能もあるんですね」
「そんなこと…」
ユウイの心の中にはデレデレのユウイがいる。表面上はなんとか理性で保っているが、「だったらお嫁さんにしてください!」と今にも言ってしまいそうだ。
「えーと、良ければ持って帰りますか?また新しく漬けますし」
「いいんですか?!」
「いいですよ」
ユウイはお茶のお替りを注いだ。
「いやぁ、久しぶりにゆっくり出来ます」
「グレイ様、お休みないですもんね」
「国民を守るのが私の仕事ですから」
グレイのそんな所にもユウイは惹かれている。
外から音楽が鳴り出した。祭がいよいよ始まるのだ。花火も打ち上がっている。
「グレイ様、祭を見に行ってみましょうか?」
「はい。ユウイ殿の花飾りがありますからね。私も、来賓として参加出来るんですか?」
「はい。もちろんです。騎士様とお話が出来ることなんて滅多にないですし、村の皆も喜びます」
「ユウイ殿も久しぶりに帰ってきて話したいことがあるでしょう?」
ユウイは頷いていた。
祭は賑やかだ。あちらこちらにユウイの作った花飾りが飾られており、広場には楽団が常に演奏している。女性たちがその音楽に合わせて踊る。屋台も色々並んでいた。はじめは村の者だけでひっそり行う祭だったが、今ではわざわざ遠方から遊びに来る人もいる。ユウイはこの祭の度に嬉しい気持ちになる。
「ユウイ、帰ってきていたのか」
「おじさま!」
リボン屋の店主に声を掛けられてユウイは彼らに駆け寄った。
「ユウイちゃんは今日も元気一杯みたいね」
「おばさま、お祭、楽しんでらっしゃいますか?」
「えぇ、もちろんよ。お陰で屋台で食べ物を買いすぎてしまったの。代わりに食べてくれない?」
「え!嬉しいです」
良かったわぁと彼女は笑ってユウイにドサッと食べ物が入った容器を渡してきた。これは想定外だったぞ、とユウイは焦ったがもう遅い。
「ユウイ殿、そのままでいてください」
グレイがバランスの崩れかけていた容器を持ってくれた。
「ありがとうございます、グレイ様」
「早速食べてみましょうか?」
「はい!」
二人は空いていたスペースに座った。
「このお菓子…」
グレイが顔をしかめている。どうやら知っているらしい。
「グレイ様もご存知なのですね!甘くてすごく美味しいんです!」
「あ、じゃあユウイ殿が食べてください」
やんわり食べることを断られたことにユウイは気付かず、いいんですか!と目を輝かせた。
「あ、でもお客様のお茶請けが…」
ユウイはあれやこれや台所を探して、そうだと閃いた。地下にあれがあったではないかと思ったのである。ユウイは床に寝そべった。床の窪みをいじると、カチとロックが外れる音がする。ユウイは床をぐっと持ち上げた。中は貯蔵庫になっており、ユウイの全財産が隠されている。ユウイはその中から透明の大きな瓶を取り出した。それには漬け物が入っている。ユウイが自分で漬けた特製の漬け物だ。太い一本を取り出して軽く洗う。まな板の上で薄く切ると、ようやく食べられる。ユウイは皿に盛り付けてグレイに差し出した。爪楊枝も忘れない。
「あの、これを」
「わぁいい匂いですね」
グレイが漬け物を頬張ると、目を見開いた。
「どうですか?」
「美味い…」
「本当ですか?良かった」
「お袋を思い出します。ユウイ殿は料理の才能もあるんですね」
「そんなこと…」
ユウイの心の中にはデレデレのユウイがいる。表面上はなんとか理性で保っているが、「だったらお嫁さんにしてください!」と今にも言ってしまいそうだ。
「えーと、良ければ持って帰りますか?また新しく漬けますし」
「いいんですか?!」
「いいですよ」
ユウイはお茶のお替りを注いだ。
「いやぁ、久しぶりにゆっくり出来ます」
「グレイ様、お休みないですもんね」
「国民を守るのが私の仕事ですから」
グレイのそんな所にもユウイは惹かれている。
外から音楽が鳴り出した。祭がいよいよ始まるのだ。花火も打ち上がっている。
「グレイ様、祭を見に行ってみましょうか?」
「はい。ユウイ殿の花飾りがありますからね。私も、来賓として参加出来るんですか?」
「はい。もちろんです。騎士様とお話が出来ることなんて滅多にないですし、村の皆も喜びます」
「ユウイ殿も久しぶりに帰ってきて話したいことがあるでしょう?」
ユウイは頷いていた。
祭は賑やかだ。あちらこちらにユウイの作った花飾りが飾られており、広場には楽団が常に演奏している。女性たちがその音楽に合わせて踊る。屋台も色々並んでいた。はじめは村の者だけでひっそり行う祭だったが、今ではわざわざ遠方から遊びに来る人もいる。ユウイはこの祭の度に嬉しい気持ちになる。
「ユウイ、帰ってきていたのか」
「おじさま!」
リボン屋の店主に声を掛けられてユウイは彼らに駆け寄った。
「ユウイちゃんは今日も元気一杯みたいね」
「おばさま、お祭、楽しんでらっしゃいますか?」
「えぇ、もちろんよ。お陰で屋台で食べ物を買いすぎてしまったの。代わりに食べてくれない?」
「え!嬉しいです」
良かったわぁと彼女は笑ってユウイにドサッと食べ物が入った容器を渡してきた。これは想定外だったぞ、とユウイは焦ったがもう遅い。
「ユウイ殿、そのままでいてください」
グレイがバランスの崩れかけていた容器を持ってくれた。
「ありがとうございます、グレイ様」
「早速食べてみましょうか?」
「はい!」
二人は空いていたスペースに座った。
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