上 下
8 / 20
1

8・祭

しおりを挟む
ユウイは自分の家にグレイを招いた。小さい家だが、客人一人くらいならもてなせる。ユウイは村で取れた茶葉を使い茶を淹れた。古いかまどなので城の設備のようにはいかないが、アツアツの茶を淹れられる。戸棚には甘すぎて保存がよく効く菓子が二つ入っていた。ユウイはこの菓子が好き過ぎて、買いに走ったところを村人に捕まえられた前科がある。村長いわく、食べ過ぎの罰だそうだ。ユウイは月に三個までという制限のもと、この菓子を食べている。10日に1個食べられる計算だ。

「このお菓子…」

グレイが顔をしかめている。どうやら知っているらしい。

「グレイ様もご存知なのですね!甘くてすごく美味しいんです!」

「あ、じゃあユウイ殿が食べてください」

やんわり食べることを断られたことにユウイは気付かず、いいんですか!と目を輝かせた。

「あ、でもお客様のお茶請けが…」

ユウイはあれやこれや台所を探して、そうだと閃いた。地下にあれがあったではないかと思ったのである。ユウイは床に寝そべった。床の窪みをいじると、カチとロックが外れる音がする。ユウイは床をぐっと持ち上げた。中は貯蔵庫になっており、ユウイの全財産が隠されている。ユウイはその中から透明の大きな瓶を取り出した。それには漬け物が入っている。ユウイが自分で漬けた特製の漬け物だ。太い一本を取り出して軽く洗う。まな板の上で薄く切ると、ようやく食べられる。ユウイは皿に盛り付けてグレイに差し出した。爪楊枝も忘れない。

「あの、これを」

「わぁいい匂いですね」

グレイが漬け物を頬張ると、目を見開いた。

「どうですか?」

「美味い…」

「本当ですか?良かった」

「お袋を思い出します。ユウイ殿は料理の才能もあるんですね」

「そんなこと…」

ユウイの心の中にはデレデレのユウイがいる。表面上はなんとか理性で保っているが、「だったらお嫁さんにしてください!」と今にも言ってしまいそうだ。

「えーと、良ければ持って帰りますか?また新しく漬けますし」

「いいんですか?!」

「いいですよ」

ユウイはお茶のお替りを注いだ。

「いやぁ、久しぶりにゆっくり出来ます」

「グレイ様、お休みないですもんね」

「国民を守るのが私の仕事ですから」

グレイのそんな所にもユウイは惹かれている。
外から音楽が鳴り出した。祭がいよいよ始まるのだ。花火も打ち上がっている。

「グレイ様、祭を見に行ってみましょうか?」

「はい。ユウイ殿の花飾りがありますからね。私も、来賓として参加出来るんですか?」

「はい。もちろんです。騎士様とお話が出来ることなんて滅多にないですし、村の皆も喜びます」

「ユウイ殿も久しぶりに帰ってきて話したいことがあるでしょう?」

ユウイは頷いていた。

祭は賑やかだ。あちらこちらにユウイの作った花飾りが飾られており、広場には楽団が常に演奏している。女性たちがその音楽に合わせて踊る。屋台も色々並んでいた。はじめは村の者だけでひっそり行う祭だったが、今ではわざわざ遠方から遊びに来る人もいる。ユウイはこの祭の度に嬉しい気持ちになる。

「ユウイ、帰ってきていたのか」

「おじさま!」

リボン屋の店主に声を掛けられてユウイは彼らに駆け寄った。

「ユウイちゃんは今日も元気一杯みたいね」

「おばさま、お祭、楽しんでらっしゃいますか?」

「えぇ、もちろんよ。お陰で屋台で食べ物を買いすぎてしまったの。代わりに食べてくれない?」

「え!嬉しいです」

良かったわぁと彼女は笑ってユウイにドサッと食べ物が入った容器を渡してきた。これは想定外だったぞ、とユウイは焦ったがもう遅い。

「ユウイ殿、そのままでいてください」

グレイがバランスの崩れかけていた容器を持ってくれた。

「ありがとうございます、グレイ様」

「早速食べてみましょうか?」

「はい!」

二人は空いていたスペースに座った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

パーティー全員転生者!? 元オタクは黒い剣士の薬草になる

むらくも
BL
楽しみにしてたゲームを入手した! のに、事故に遭った俺はそのゲームの世界へ転生したみたいだった。 仕方がないから異世界でサバイバル……って職業僧侶!? 攻撃手段は杖で殴るだけ!? 職業ガチャ大外れの俺が出会ったのは、無茶苦茶な戦い方の剣士だった。 回復してやったら「私の薬草になれ」って……人をアイテム扱いしてんじゃねぇーーッッ! 元オタクの組んだパーティは元悪役令息、元悪役令嬢、元腐女子……おい待て変なの入ってない!? 何故か転生者が集まった、奇妙なパーティの珍道中ファンタジーBL。 ※戦闘描写に少々流血表現が入ります。 ※BL要素はほんのりです。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

処理中です...