花嫁に憧れて〜王宮御用達の指〜

はやしかわともえ

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2・城

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月明かりが辺りを照らす中、ユウイたちは馬に乗って先を急いでいる。向こうに見える大きな灯りは城の灯りだろうか?ユウイはその大きさに驚いていた。更に先に進むと、目の前に綺羅びやかな城が見えてくる。ユウイはこうして直接、自分の目で城を見るのが初めてだった。石橋を馬の蹄が蹴る音がする。

「わぁ…綺麗」

「ユウイ殿の作られる織物となんとか張り合えるでしょう?」

グレイが笑いながら言う。冗談だとやっと気が付いて、ユウイは顔が熱くなった。もっと早く反応するべきだったのに、とユウイは自分を責めた。

「す、すみません。グレイ様」

グレイは気分を害した様子もない。いいえ、と首を振った。

「ユウイ殿は優しい方なんですね。織物を見せてもらいましたが、素晴らしい技術です」

グレイはユウイのしたことを気にも留めていないようだ。一応、ユウイは平民で、グレイたち騎士は所謂、貴族に値する。そんなグレイが自分に対して対等に接してくれるのが嬉しくて、ユウイは心の中で彼にハートを贈りまくっていた。好きです、と。

「ユウイ殿、疲れていませんか?」

「は、はい、大丈夫れふ♡」

メロメロになりながら答える。そこでユウイはハッとなった。グレイに愛を贈っている場合ではない。自分は仕事をしにここまで来たのだ。

「あの、姫様の花嫁衣装なのですが」

グレイにそう尋ねると、彼が表情を曇らせた。

「王女は少し気難しくて…」

そんな噂をユウイも聞いたことがある。暗い気持ちになったがやってみなければ分からないとユウイは頭の中を切り替えた。

✢✢✢
次の日。―

ユウイは着替えさせられていた。

(な、なんでこんなことに?)

ユウイに着せられた服は侍女のものである。この大事な時期に姫君が知らない異性といるのは良くないという配慮かららしい。

「ユウイさんに服がぴったりで良かったわ」

「は、はは、そうですね」

ユウイは困りながらもなんとか頷いた。姫君の体の採寸は既に済んでいる。あとはどのようなデザインにするかだ。ユウイは昨日の時点で、何枚かラフイメージを描いていた。真っ白な紙は高級品だ。ユウイの手は震え、線がぐらぐらと揺らいでしまった。だが、なんとか仕上げたのだ。そのデザインと布のサンプルを片手に、ユウイは姫君のいる部屋に向かった。コツコツとノックをすると、入れと返事がある。ユウイはそうっとドアを開けた。

「む…お前は昨日来た」

「あ、はじめまして。ユウイ・オリハルトと申します。私が、姫様の結婚式に着られるドレスを作らせて頂きます」

「よい」

「へ?」

姫は綺麗なドレスを着ている。だがそんなこともお構いなしにドサッとベッドに倒れ込んだ。ユウイはその様子にただオロオロした。

「妾が父上の道具であることはよく理解している。どこの者とも知れぬ王子と一生を添い遂げる。あぁ、そんな人生か…」

姫がつまらなそうに息をついた。確かに王族は身分と生活を保証されているが、実は窮屈なのかもしれない。

「あの、姫様?結婚がお嫌なのですか?」

「いや、向こうは妾のわがままをなんでも聞いてくれる。もう跡取りもいてな、子供も産まなくてよいらしい」

「それでは何が…」

姫がん、と何かを差し出してきた。ユウイがそれをしずしずと受け取る。それはドレスのデザイン画だ。
素敵な物であるのはユウイにも分かる。

「なんかさ、そのドレスじゃ妾に似合わなくね?」

「え…えーと…」

ユウイは姫君をさっと観察した。体型で言うと、正に少女という感じだ。顔立ちもどこか幼さが残る。確か年齢は18歳だと聞いていたが、ユウイはずっと、「18歳?」と思っていた。

「妾可愛いし?結婚式にはもっと可愛くて妾に似合うドレスが着たい!」

「あ…えーと、確かに姫様にはこういうシックな色より、もっと明るい色がお似合いですよね」

「そうだろう?分かってくれるか!」

ユウイは自分の持ってきたデザインを姫君に見せた。ユウイのデザインしたドレスは花びらがあしらわれた可愛らしいものだ。

「なんと!可愛いではないか!」

「姫様にはピンク色がお似合いかと思います」

「なんと!妾はピンクに目がないぞ!」

良かった、とユウイは笑った。布のサンプルを取り出して姫君に見せる。

「こういう暖かみのあるピンクもお似合いになりますが、明るいピンク色も可愛らしいかと」

「か、可愛い…」

姫君はしばらく熱心に布を選んでいた。ユウイはこの瞬間が好きだ。誰かのために服を作るのはとても楽しい。

「ユウイよ、完成を楽しみにしておるぞ」

「はい。一生懸命作らせて頂きます」

ユウイは頭を下げて部屋を後にした。ユウイはそのままあてがわれた作業部屋に向かった。早く作りたい、そう思っている。

(頑張るぞ!)

ユウイは用意されていた布を取り出した。


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