2 / 20
1
2・城
しおりを挟む
月明かりが辺りを照らす中、ユウイたちは馬に乗って先を急いでいる。向こうに見える大きな灯りは城の灯りだろうか?ユウイはその大きさに驚いていた。更に先に進むと、目の前に綺羅びやかな城が見えてくる。ユウイはこうして直接、自分の目で城を見るのが初めてだった。石橋を馬の蹄が蹴る音がする。
「わぁ…綺麗」
「ユウイ殿の作られる織物となんとか張り合えるでしょう?」
グレイが笑いながら言う。冗談だとやっと気が付いて、ユウイは顔が熱くなった。もっと早く反応するべきだったのに、とユウイは自分を責めた。
「す、すみません。グレイ様」
グレイは気分を害した様子もない。いいえ、と首を振った。
「ユウイ殿は優しい方なんですね。織物を見せてもらいましたが、素晴らしい技術です」
グレイはユウイのしたことを気にも留めていないようだ。一応、ユウイは平民で、グレイたち騎士は所謂、貴族に値する。そんなグレイが自分に対して対等に接してくれるのが嬉しくて、ユウイは心の中で彼にハートを贈りまくっていた。好きです、と。
「ユウイ殿、疲れていませんか?」
「は、はい、大丈夫れふ♡」
メロメロになりながら答える。そこでユウイはハッとなった。グレイに愛を贈っている場合ではない。自分は仕事をしにここまで来たのだ。
「あの、姫様の花嫁衣装なのですが」
グレイにそう尋ねると、彼が表情を曇らせた。
「王女は少し気難しくて…」
そんな噂をユウイも聞いたことがある。暗い気持ちになったがやってみなければ分からないとユウイは頭の中を切り替えた。
✢✢✢
次の日。―
ユウイは着替えさせられていた。
(な、なんでこんなことに?)
ユウイに着せられた服は侍女のものである。この大事な時期に姫君が知らない異性といるのは良くないという配慮かららしい。
「ユウイさんに服がぴったりで良かったわ」
「は、はは、そうですね」
ユウイは困りながらもなんとか頷いた。姫君の体の採寸は既に済んでいる。あとはどのようなデザインにするかだ。ユウイは昨日の時点で、何枚かラフイメージを描いていた。真っ白な紙は高級品だ。ユウイの手は震え、線がぐらぐらと揺らいでしまった。だが、なんとか仕上げたのだ。そのデザインと布のサンプルを片手に、ユウイは姫君のいる部屋に向かった。コツコツとノックをすると、入れと返事がある。ユウイはそうっとドアを開けた。
「む…お前は昨日来た」
「あ、はじめまして。ユウイ・オリハルトと申します。私が、姫様の結婚式に着られるドレスを作らせて頂きます」
「よい」
「へ?」
姫は綺麗なドレスを着ている。だがそんなこともお構いなしにドサッとベッドに倒れ込んだ。ユウイはその様子にただオロオロした。
「妾が父上の道具であることはよく理解している。どこの者とも知れぬ王子と一生を添い遂げる。あぁ、そんな人生か…」
姫がつまらなそうに息をついた。確かに王族は身分と生活を保証されているが、実は窮屈なのかもしれない。
「あの、姫様?結婚がお嫌なのですか?」
「いや、向こうは妾のわがままをなんでも聞いてくれる。もう跡取りもいてな、子供も産まなくてよいらしい」
「それでは何が…」
姫がん、と何かを差し出してきた。ユウイがそれをしずしずと受け取る。それはドレスのデザイン画だ。
素敵な物であるのはユウイにも分かる。
「なんかさ、そのドレスじゃ妾に似合わなくね?」
「え…えーと…」
ユウイは姫君をさっと観察した。体型で言うと、正に少女という感じだ。顔立ちもどこか幼さが残る。確か年齢は18歳だと聞いていたが、ユウイはずっと、「18歳?」と思っていた。
「妾可愛いし?結婚式にはもっと可愛くて妾に似合うドレスが着たい!」
「あ…えーと、確かに姫様にはこういうシックな色より、もっと明るい色がお似合いですよね」
「そうだろう?分かってくれるか!」
ユウイは自分の持ってきたデザインを姫君に見せた。ユウイのデザインしたドレスは花びらがあしらわれた可愛らしいものだ。
「なんと!可愛いではないか!」
「姫様にはピンク色がお似合いかと思います」
「なんと!妾はピンクに目がないぞ!」
良かった、とユウイは笑った。布のサンプルを取り出して姫君に見せる。
「こういう暖かみのあるピンクもお似合いになりますが、明るいピンク色も可愛らしいかと」
「か、可愛い…」
姫君はしばらく熱心に布を選んでいた。ユウイはこの瞬間が好きだ。誰かのために服を作るのはとても楽しい。
「ユウイよ、完成を楽しみにしておるぞ」
「はい。一生懸命作らせて頂きます」
ユウイは頭を下げて部屋を後にした。ユウイはそのままあてがわれた作業部屋に向かった。早く作りたい、そう思っている。
(頑張るぞ!)
ユウイは用意されていた布を取り出した。
「わぁ…綺麗」
「ユウイ殿の作られる織物となんとか張り合えるでしょう?」
グレイが笑いながら言う。冗談だとやっと気が付いて、ユウイは顔が熱くなった。もっと早く反応するべきだったのに、とユウイは自分を責めた。
「す、すみません。グレイ様」
グレイは気分を害した様子もない。いいえ、と首を振った。
「ユウイ殿は優しい方なんですね。織物を見せてもらいましたが、素晴らしい技術です」
グレイはユウイのしたことを気にも留めていないようだ。一応、ユウイは平民で、グレイたち騎士は所謂、貴族に値する。そんなグレイが自分に対して対等に接してくれるのが嬉しくて、ユウイは心の中で彼にハートを贈りまくっていた。好きです、と。
「ユウイ殿、疲れていませんか?」
「は、はい、大丈夫れふ♡」
メロメロになりながら答える。そこでユウイはハッとなった。グレイに愛を贈っている場合ではない。自分は仕事をしにここまで来たのだ。
「あの、姫様の花嫁衣装なのですが」
グレイにそう尋ねると、彼が表情を曇らせた。
「王女は少し気難しくて…」
そんな噂をユウイも聞いたことがある。暗い気持ちになったがやってみなければ分からないとユウイは頭の中を切り替えた。
✢✢✢
次の日。―
ユウイは着替えさせられていた。
(な、なんでこんなことに?)
ユウイに着せられた服は侍女のものである。この大事な時期に姫君が知らない異性といるのは良くないという配慮かららしい。
「ユウイさんに服がぴったりで良かったわ」
「は、はは、そうですね」
ユウイは困りながらもなんとか頷いた。姫君の体の採寸は既に済んでいる。あとはどのようなデザインにするかだ。ユウイは昨日の時点で、何枚かラフイメージを描いていた。真っ白な紙は高級品だ。ユウイの手は震え、線がぐらぐらと揺らいでしまった。だが、なんとか仕上げたのだ。そのデザインと布のサンプルを片手に、ユウイは姫君のいる部屋に向かった。コツコツとノックをすると、入れと返事がある。ユウイはそうっとドアを開けた。
「む…お前は昨日来た」
「あ、はじめまして。ユウイ・オリハルトと申します。私が、姫様の結婚式に着られるドレスを作らせて頂きます」
「よい」
「へ?」
姫は綺麗なドレスを着ている。だがそんなこともお構いなしにドサッとベッドに倒れ込んだ。ユウイはその様子にただオロオロした。
「妾が父上の道具であることはよく理解している。どこの者とも知れぬ王子と一生を添い遂げる。あぁ、そんな人生か…」
姫がつまらなそうに息をついた。確かに王族は身分と生活を保証されているが、実は窮屈なのかもしれない。
「あの、姫様?結婚がお嫌なのですか?」
「いや、向こうは妾のわがままをなんでも聞いてくれる。もう跡取りもいてな、子供も産まなくてよいらしい」
「それでは何が…」
姫がん、と何かを差し出してきた。ユウイがそれをしずしずと受け取る。それはドレスのデザイン画だ。
素敵な物であるのはユウイにも分かる。
「なんかさ、そのドレスじゃ妾に似合わなくね?」
「え…えーと…」
ユウイは姫君をさっと観察した。体型で言うと、正に少女という感じだ。顔立ちもどこか幼さが残る。確か年齢は18歳だと聞いていたが、ユウイはずっと、「18歳?」と思っていた。
「妾可愛いし?結婚式にはもっと可愛くて妾に似合うドレスが着たい!」
「あ…えーと、確かに姫様にはこういうシックな色より、もっと明るい色がお似合いですよね」
「そうだろう?分かってくれるか!」
ユウイは自分の持ってきたデザインを姫君に見せた。ユウイのデザインしたドレスは花びらがあしらわれた可愛らしいものだ。
「なんと!可愛いではないか!」
「姫様にはピンク色がお似合いかと思います」
「なんと!妾はピンクに目がないぞ!」
良かった、とユウイは笑った。布のサンプルを取り出して姫君に見せる。
「こういう暖かみのあるピンクもお似合いになりますが、明るいピンク色も可愛らしいかと」
「か、可愛い…」
姫君はしばらく熱心に布を選んでいた。ユウイはこの瞬間が好きだ。誰かのために服を作るのはとても楽しい。
「ユウイよ、完成を楽しみにしておるぞ」
「はい。一生懸命作らせて頂きます」
ユウイは頭を下げて部屋を後にした。ユウイはそのままあてがわれた作業部屋に向かった。早く作りたい、そう思っている。
(頑張るぞ!)
ユウイは用意されていた布を取り出した。
8
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる