花嫁に憧れて〜王宮御用達の指〜

はやしかわともえ

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1・王宮

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ここは、とある小さな村だ。名前をコロ村といった。村の人口は3000人ほど。畑や田んぼが村一面に広がる。贅沢こそ出来ないが、秋に開催される一年で一番大きな祭に向けて、村民たちは張り切って準備をしている。ユウイもそのうちの一人だった。ユウイは小柄でよく女性に間違われる。いつもやんわり否定すると驚かれるくらいだ。艷やかな黒髪を後ろで結っており、そのうえ顔立ちも可愛らしいからだろう。

「わあ、ユウイ兄ちゃん上手」

「兄ちゃん、もっと作って」

村の子供達に囲まれてユウイは笑った。ユウイは幼い頃からとても裁縫が得意だった。王宮への献上品になる織物もユウイが手掛けている。蚕を育て、そこから取った糸を使って布を織るのだ。根気のいる作業だが、ユウイは毎日楽しんで作業している。今、ユウイは祭の際、村に飾るレースで出来た花を編んでいる。最後は神に捧げるために全ての花飾りを燃やす。いつももったいないと言われるが、それで神々が少しでも喜んでくれるならとユウイは納得している。

「ユウイ、衣装の仕上げをお願いできるかい?」

「はい、只今」

ユウイは子どもたちに後でねと声を掛け、立ち上がった。祭では若い女性が着飾り踊るのが通例だ。
その衣装ももちろんユウイが作っている。村の集会所で、既に女性たちが数人集まっている。皆、ユウイを待っていたようだ。

「ユウイ、忙しいのにすまないね」

「いえ、いつも手伝って頂いて助かります」

ユウイは衣装の仕上げを終えた。もう夕方である。衣装や飾りも全て作った。あとは祭の開催を待つだけだ。

「ユウイ、夕飯を食べていって」

「わあ、ありがとうございます」

ふと村の入口を見るとなにやら騒がしい。馬に乗った騎士たちが数人いるのだ。村人も慌てているようだ。ユウイは何事かと彼らに近づいた。

「どうされたんですか?」

「ユウイ・オリハルトという者を探している。その方を王宮に迎え入れよと国王より命を受けた」

ユウイは驚いてしまった。だが、このまま黙っているわけにはいかない。

「ユウイは俺です。でもなんで?」

「姫君の婚姻が決まったのだ。その時に姫君が着られる衣装を作って欲しいということだ」

「わあ、それはおめでたいですね。でもそんな重要な役目、俺でいいんでしょうか?」

「国王陛下は貴殿の織物を高く評価されている。どうか城に来て欲しい」

騎士の一人が馬から降り兜を外した。金色の短髪にグレーの瞳を持った男だ。ユウイはかっこいいなと反射的に思い、さっと下を向いた。こんな顔を見られたら不審がられると思ったのだ。ユウイは同性に対して恋心を抱くのが常だった。自分はおかしいのではと思っていたが、どうやらそれも普通に起こり得ることだとユウイは最近知ったのだ。

「私の名前はグレイ。騎士団の長を任されている」

グレイが右手を差し出してきたのでユウイも彼の手をそっと握った。大きな手だとびっくりする。

「ユウイ殿の手は小さいな」

グレイがそう言って笑ってくれてユウイは照れくさくなった。

「あ、あの支度をしてきます。えーと、着るものとか」

「心配には及ばない。貴殿を迎え入れる準備はもうできている」

どうやら本当に城に行くことになっているらしい。ユウイは急な話に不安になったが、村に迷惑を掛けられないと頷いていた。

「わ、分かりました」

「ユウイ殿はその馬に乗ってください」

「え、馬?」

ユウイは生まれてこの方乗馬をしたことすらない。上手く乗れるかと不安になったがグレイが手を貸してくれた。

「ユウイ殿はただ跨っていれば大丈夫ですよ」

「はい」

馬がゆるゆる走り出した。振り返るともう村が見えない。この調子であれば今日中に王宮に着くだろう。ユウイは心細い気持ちのまま馬に揺られた。
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