黄金の月①神々の石

はやしかわともえ

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思いあう力

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アデス城では捜査員があらゆる証拠を集めていた。
客間のそばまで行ってみると、立ち入り禁止のテープが張られている。

「サーラ、見ないほうがいいよ」

シンが言う。

「そんなにひどかったのか?」

サーラの言葉に彼は頷いた。
それでは怨恨ということだろうか。いったい誰が、とサーラは思う。

「誰が見つけたんだ?」

「夕飯を呼びに来たスタッフの子」

「そうか」

その子にはかわいそうな思いをさせてしまった、とサーラは悔いた。
アデスにはまだ奉公という制度が残っており、幼いうちから働く習慣がある。

「サーラ」

颯爽とナオが歩いてくる。

「サーラに見てもらいたいんだけど」

ナオが差し出したもの。それはいしだった。
紫色をした濁ったいし。

「これは」

サーラはそれをつかんで見つめた。
今までのいしより透明度が低い。

「もしかして」

サーラは一つの仮説に思い至っていた。いしは神の痕跡だ。

「マヤさんを殺したのは、他の神?」

「僕もその線だと思う」

「じゃあ」

ナオは頷いた。

「捜査はここで打ち切りってこと」

サーラはいしを握りしめた。一体なにが起ころうとしているのか。


真夜中になってもサーラは寝付けなかった。
寝る気にもならなかった。

「サーラ」

まだ起きていたらしい隣のベッドのナオが心配そうにこちらを見つめている。

「ナオ、私はなんて無力なんだ」

「サーラのせいじゃないよ」

「でも私がもっと気を付けていれば」

「サーラも一緒に殺されちゃってたかもだよ?」

「そうだな」

サーラは外の空気を吸ってくるとナオに告げ、部屋を出た。とぼとぼ廊下を歩く。
向こうからシンが歩いてきた。

「サーラ。眠れないの?」

「シン」

シンは片手に分厚い本を抱えている。

「僕も眠れなくてさ。本でも読もうかなって」

「シン」

サーラはシンに抱き着いた。涙が止まらない。自分にはやはり死がまとわりつく。
そんな気がした。
サーラが落ち着くまでシンは背中を撫でてくれた。

「大丈夫。言ったよね?サーラは僕が守るよ」

「シン、でも」

「サーラ、今日のことしっかり考えてみよう」

「え?」

「確かに警察はもう動かないよ?
でもまだ僕たちにできることがあるはずだよ」

「シン」

マヤさんの死を無駄にしないために。
そんな言葉が頭に浮かぶ。

「でもどうすれば?」

「マヤさんのそばに精霊をおいてきたんでしょ?」

サーラはそこで気が付いた。
あの尖塔がある建物。精霊の気配をたどればそこに行けるだろう。

「シン、私」

「駄目だよ。一人では行かせられない」

シンはサーラの両肩を掴んだ。

「僕も一緒に行く」

しかし、サーラの力はまだ不安定だ。危険がないわけじゃない。
サーラの思いが伝わったのかシンは頷いた。

「覚悟はできてるよ」

シンはそのままサーラを抱きしめてキスした。

「サーラ、ずっと言いたかった。君が好きだって」

「シン?」

サーラは顔が熱くなる。
彼に告白されている。

「僕と結婚してほしい」

「でも」

サーラは困ってしまった。まだ自分たちは子供だ。それにシンは本当に自分でいいのだろうか。

「返事はすぐじゃなくていい。サーラ、僕は待ってるから、いつまでも」

「ありがとう」

そう返すだけでサーラには精いっぱいだった。
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