黄金の月①神々の石

はやしかわともえ

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神々の石

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このお話は現在から少し前に遡る。
サーラが14歳の頃である。


「サーラ?起きてる?」

それはある夏の夜。サーラはシンのその声でようやくはっきり覚醒した。いつもなら眠っている時間だ。
タオルケットを手で払って起き上がると、シンが部屋に入ってくる。
涼しいアデスが、今日はやたら暑くて寝苦しい。
サーラはアデス名物の夏祭りに参加するため、家族でアデスに遊びに来ていた。
サーラの隣のベッドではナオが本を読んでいる。

「シン、サーラは女の子なんだからいきなり部屋に入っちゃだめ」

ナオがきっぱり言う。

「ナオだって隣に寝てるじゃん!」

「僕はサーラに変なことしないもん」

「僕だってしないよ!」

「まぁまぁ」

二人が睨み合いを始めてしまったので、サーラは慌てて間に入った。最近のナオはシンにやたらとつっかかる。
サーラにべったりなのは変わらないので、そこは安心なのだが、弟のそんな変化にサーラは戸惑っていた。
そしてもう一つの変化。それは目の前にいるシンのことだ。
自分より小さくて、泣き虫だったシンはいつの間にかいなくなっていた。
身長もサーラより高くなって、顔つきもたくましくなっている。
声変わりもいつの間にかしていて、シンをとてもかっこいいと思う。
この気持ちがなんなのか、サーラには分からず、そのままにしていた。

「あのね、サーラ」

シンがこちらに向き直って、側にやって来る。

「これ、なにか分かる?」

シンが差し出してきたもの。それは紫色をした小さな石だった。
石と言う割にそれは、宝石のように透明度がある。
サーラはそれを一つ手にとって見つめた。

「イリシアの石に似ているな」

「だよね」

イリシアの石は『煌めきのいし』と呼ばれている。
金色に輝く美しい石だ。
サーラがまだ幼い頃、いつの間にか枕元に置いてあった。
その石を研究したところ、地球上に存在しない成分が見つかったのだという。
石はいつの間にかアデスの国宝扱いになっていた。
イリシアで見つかったのに、何故アデスの国宝になったのかは理由がある。
金色の石はイリシアに相応しくない。

神々の伝説が根強く残る、イリシア、アデス特有の考えである。

イリシアとアデスはお互いを補うように存在している。
アデスは生を、イリシアは死を司る神が棲んでいたらしい。
その名残が両国の王族の瞳の色にある。
今ではその名残はなくなりつつあるが、そんな中でサーラは金色の瞳を持って生まれてきた。
金色はイリシア国民にとっては忌まわしい色とされてきている。
そこに、金色の瞳を持って生まれてきたサーラを国民が歓迎するわけがない。
そのため、幼かったサーラは城の中で大切に育てられた。
結果的には学校に行くこともかなわなかった。
今でもサーラは通信教育で勉強をしている。


「これね、うちの国のあちこちで見つかってるんだ」

シンは淡々と言う。

「なにか起こるのかもな」

サーラはそっと石を摘まんで見つめた。
それは妖しく光っている。

「何もないのが一番だけどね。
サーラ、なにか感じない?」

サーラは目を閉じて念じてみる。
邪気は感じなかった。

「シン、これをソフィー姉様に調べてもらおう」

「その方がいいよね、そういえばサーラ」

「ん?」

「母さんがスイカを切ってくれたよ、暑くて眠れないでしょ?」

「わぁ、嬉しいな、ナオ、行こう」

「うん」

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