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16・合同コンパ

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「慧―、眉間に皴寄ってる」

「うう。緊張するんだ。合コンの幹事なんて初めてだからな」

 慧は今日、白のフリルが付いたノースリーブのワンピースを着ている。肌の手入れはもちろん、髪の毛の手入れも毎日している。自分を可愛くして、保に『可愛い』と言ってもらいたいという野望は、もうほとんど消えかけているが、どこかでぽろっと言ってくれないかなあと期待している自分もいる。すでに七月だ。夏休みも目前である。

「大丈夫。幹事の仕事は俺に任せてくれていいよ」

「でも・・・」

 慧はうーんと考えた。確かに保に任せた方が確実で安心なのはよく分かっている。だが自分が言い出しっぺでもある。

「俺にも仕事をくれ」

 そう保に頼むと、保はそうだなあと考えた。

「じゃあ慧は司会進行で」

「え?俺が会の進行をするのか?」

「うん、皆のことよく知ってるの慧だけだしね」

「確かに」

 慧はだんだん燃えてきた。自分に出来そうな仕事を任されて嬉しくなったのだ。

「おし、進行は俺に任せてくれ!」

「じゃあそろそろ出かけようか」

 慧と保は待ち合わせの場所に向かった。約束していた場所に向かうとすでにはじめがいる。彼は慧が選んだシャツにパンツを合わせている。慧の目論見通り彼はかっちりして見えた。慧は思わず、はじめに駆け寄る。

「はじめ!それ着てくれたんだな!」

「慧ちゃん、うん。こういう場所でチャラ男に見えると良くないのかなって」

 どうやら彼なりに見た目を気にしているらしい。

「おはよう、はじめくん」

「あ、おはよう。山川くん。俺、緊張しちゃってさ」

「大丈夫。はじめくんのコミュ力なら」

「こいつ、コミュ力あるのか?」

 慧がはじめを指さしながら尋ねると保は苦笑しながら答えた。

「はじめくん、ゼミでかなり頼りにされてるって聞いたよ。俺の所にその情報が入って来るんだから相当だよね」

「え、いや、その、あの」

 はじめは青くなったり赤くなったりしている。

「なんだ、お前やっぱりチャラ男じゃねえか」

「ほら、やっぱりこう言われるじゃん」

 がくっとはじめが項垂れて慧と保は笑った。

「慧―、来てあげたよー」

「お、皆も到着したみたいだな」

 モデル陣、そして巧が現れる。

「慧、その服この前の」

 巧が気が付いたように言う。

「あぁ。これ着たら皆良いって言ってくれたからな」

「慧、今日もマジまぶいね。めちゃ憧れる」

 まさにギャルという出で立ちの女子に慧は笑い掛けた。

「レオナもめっちゃ可愛いぜ。そのスカート、ちゃんとキュロットになってるの可愛いよな」

「そ。駅とかでパンツ撮ろうとしてくるやついるからね」

「レオナ、私もいるのよ、ね?慧さま?」

「おう、美帆もめちゃくちゃ可愛いぞ。ロリータのブラウスってデザイン無限大だよな」

「そうなんですの」

 美帆と呼ばれた小柄な彼女が笑う。

「なんだ、普段のメンツと変わらんじゃん」

 スラッとした長身の男子が腕を組む。彼はTシャツに黒いパンツというラフな格好だった。

あきら、ちゃんとはじめと保がいるだろ」

慧がそう答えると章と呼ばれた彼は笑った。

「まあ俺なりに楽しみにしてたけどさ」

「さ、全員集まったみたいだし、そろそろお店に行こうか」

 一行は歩き出した。

***

店に入るとそれだけで歓声が上がる。

「わ、なんだこれ、すごくお洒落じゃん」

「保が探して来てくれたんだ」

「いや、なんで慧が自慢げ?」

 エッヘンとしている慧にツッコミが入る。店員に席に案内された。皆が席についたのを見計らい、慧は立ち上がった。こほんと咳払いをする。

「ええ、では皆さん」

「校長先生か」

 皆がそれに噴き出す。

「校長の話はちゃんと聞くものだぞ」

 慧は腕を組みふんぞり返る。

「とんでもなく偉そうな校長だわあ」

 外野の言葉を慧は気にせず続けた。いつもと同じ空気感にホッとしている。モデル仲間はもちろん、保やはじめも一緒に楽しんでくれている。それが実感できて嬉しい。

「これより合コンを始めます。まったりお話を楽しみましょう。どうぞお互いの親睦を深めてください」
 
頼んでいたドリンクや軽食が届く。

「わ、このメロンソーダ美味しそう。綺麗な色だね」

はじめが嬉しそうに声を上げる。慧が保をちらっと見ると頷かれた。

「はじめくんはメロンソーダ好きなんだ」

早速他のモデル男子とはじめが仲良く話をしている。

「慧、美帆、一緒に写真撮ろ」

「おう」

「私たちにも写真のデータをくださいな」

「もちー」

 レオナがスマートフォンを片手に自分たちの写真を撮る。

「慧って盛らなくても可愛いよねえ?ウラヤマシイッタラ」

 レオナがスマートフォンの画面をポチポチしながら呟いた。

「ってか、保くんって慧の彼氏だよね?いつも慧の迎えに来てくれてるでしょ!」

「あ、うん」

 保が困ったように頷く。

「いいなあ、あたしも彼氏欲しいー」

「モデル仲間はレオナにとって全員ライバルですもんね」

「そうなの!」

 それから慧と保は計画通り合コンを進行した。サイコロを転がし、一つお題を決めて一人ずつそれについて話す。思っていたより色々な話が聞けた。帰り際、楽しめたと皆が笑顔で、開催して良かったと慧と保は笑い合った。

 ***

「保、お風呂空いたぞ」

「急に泊らせてもらってごめんね」

「いや、保ママ、仕事なら仕方ねえだろ。保が家に一人で居る必要はないんだし。パパも出張か、忙しいよなぁ」

「ありがとう。あと今日の合コン無事に終わって良かったね」

「本当だな。なあ保?」

「ん?」

 慧は床に座っていた保を押し倒した。彼の頬を触る。

「なに?急に?」

「俺のこと、お前はどう思う?」

慧は正直に言ってもう限界だった。『可愛い』と言ってもらいたい欲がカンストしてしまっている。

「すごく素敵だなって思ってる…それに…」

 保が視線を慧から反らした。彼の頬がほんのり赤いのは気のせいだろうか。

「慧はすごく、すごーく可愛い人だって」

 慧は急な言葉にびっくりして固まった。

「え…なんで?なんで今言うんだよ!」

「その…ずっと可愛いって言えなくてごめん。どうしても照れ臭くて言えなかった。でも俺も一歩踏み出さなきゃって」

「保…」

 保が起き上がり、慧を抱き寄せた。ぎゅっとされると心地良い。

「俺は、ずっと慧だけを見ていたいんだ」

「ん、俺も保だけ見ていたいよ」

 保が口付けてくる。

「ん…ふ…た…もつ」

「愛してる、ずっと」

「俺も!俺もだよ」

 二人は抱き合った。かちり、と全てが綺麗に収まったようなすっきり感がある。今までのモヤが綺麗に消えた。

「ずっと保が可愛いって言ってくれなくて、俺、寂しかったんだからな!」

「ごめんね。今度からはちゃんと言うから」

 それはそれで照れ臭いかもしれない、と慧は思ったが、ここは頷いておいた。保に身を委ねる。彼は誰よりも自分を愛してくれる。そんな彼だから自分は保を好きになったのだから。

 彼の熱っぽい眼差しが慧は嬉しい。二人は何度目か分からない深い口付けを交わしたのだった。

 おわり
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