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11・キラキラ

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「慧、さっきから一生懸命なにやってんの?」

試験が終わった翌日の夜、慧と保は慧の自室にいる。保が自分の勉強をしている中で慧は自分のノートパソコンをカタカタやっていた。大学に入学する際に買ってもらったお気に入りの物である。もちろん色もピンクというこだわりようだ。

「モデルのキラキラした日常をSNSにあげるっていう企画があってよお」

「あ、それ時々トレンド入りしてるよね」

「で、それが俺みたいなのに回ってきたわけよ」

「すごいじゃん。慧はなにをあげるの?この間頑張って作ったキャラ弁?」

慧はふふんと得意げに笑った。

「甘いねえ保くん、明日の投稿を楽しみにしておいてくれたまえ」

「炎上しないように気を付けてよ?」

「ん?俺の呟きがそんな注目されるわけねえだろ」

慧はあっさりと言うが、オンスター上の慧のフォロワーは10万人を超えている。今回の慧の呟きを見るためにファンが殺到するのは間違いない。

「大体俺の日常がキラキラしてるわけねえだろ」

「慧、それ言ったら怒られるやつ」

保が苦笑しながら指摘するとそうなのか?と慧は首を傾げて見せた。

「慧ー、そういうとこだよー」

「気をつければいいんだろ?今はとにかく気遣いが大事だもんな」

ふんすと慧は腕を組んだ。保はそれに笑ってしまう。

「で、慧?テストどうだったの?」

「ああ、返って来たよな。まあまあだったぞ。俺にしてはだけど。保、褒めろ」

「偉い偉い」

よしよしと保が慧の頭を撫でてくれる。最近「可愛い」というワードに対しては諦めの境地に達している慧だが、うっかり保が口を滑らせるかもと期待した。

「慧はすごい子だよ」

がくーっと頭の中でずっこけたが慧はあくまでも平静を保った。

「保、ん」

きゅっと目を閉じてみる。

「急に幼女みたいになったねえ」

保が慧を抱き寄せてキスしてくれる。

「ふ・・ん」

保とのキスは本当に気持ちいい。

「俺、保のこと好きだよ?」

保が笑って慧を抱き上げた。そのまま膝の上に座らせてくれる。

「どうする?俺と恋人になってみる?」

頭を優しく撫でられながら言われて、慧は保の胸にもたれかかった。

「なってみる。俺はちゃんとお前を恋人って言いたいから」

「慧、なんでもそうだけど、無理なら無理ってちゃんと言うんだよ?」

「危機感か?」

保が真面目な顔をして頷いた。

「そう、慧は無防備過ぎだから」

「気を付けるよ」

どちらからともなくキスをする。慧は幸福感に満たされていた。嬉しいという気持ちが体中に充満している。

「保、俺の呟き、見てくれよな!」

「うん。もちろん。そうだ、デートはどこに行く?」

前に行こうと約束をしていたと慧は今更思い出していた。

「うわぁ、本当に俺とデートしてくれるのか?」

「当たり前でしょ。慧は絶叫マシン好きだし、近くの遊園地行く?」

「うん、行く!」

すっかり慧はご機嫌だ。

「この間アウトレットで買ったワンピ着てく!」

あとな、と慧は保の前でウィッグを外した。

「髪の毛ここまで伸びたんだ!」

慧の黒髪は艷やかだ。保に撫でられて嬉しい。

「そっか、最近ウィッグだったからなんだか新鮮だな。高校の頃だったら許されなかったよね」

「マジ校則な」

やれやれ、と慧が溜息を吐く。

「でもこれで好きな色に染められるし、ゆるふわ愛されヘアが出来るんだぜ!」

「慧はもう十分愛されてるよ」

「確かにな」

二人で笑い合う。

「はじめくんの合コンの件もあるし、なんだか色々な事が起きるなぁ。慧、体調には気を付けてね」

「おう!」

そろそろ帰らないと、と保は荷物をまとめ立ち上がった。

「た、保…待って」

慧が保の背中に抱き着く。保は振り返って慧を抱きしめた。そのままちゅ、と口付ける。

「慧が俺を求めてくれて嬉しいよ」

「ん、いっぱい保が欲しいんだ」

「いっぱいあげるよ」

「おう」

また明日、と保が手を振り慧の家を出る。

(保が好きだなぁ。)

慧は風呂に入る支度を始めた。

✢✢✢

次の日、保はゆっくり朝食を摂っていた。今日は講義が午後からだった。スマートフォンが通知音を響かせる。確認すると慧からだった。URLリンクが貼られている。昨日言っていた企画だろうと保は一応URLのセキュリティをチェックをしてから開いた。それを見て保は固まる。
慧の投稿はツナギを着た慧の自撮りだった。一緒に野菜の苗たちが撮られている。

「今一番燃えてること!みんな、農業しようぜ!」と書かれている。既に一万程グッドが付いていた。コメントも百件を超えている。

「慧は大人気だなぁ」

保もグッドを押した。自分はずっと彼が好きだ。
ここに引っ越してくるまでは不安だったが、慧という存在がいて、自分は随分助けられた。
誰よりも努力家で真っ直ぐな彼を見て、負けていられないと思ったのだ。

慧はもう大学にいるのだろうか。彼は忙しい。それでも自分と付き合いたいと言ってくれた。

「俺も何かバイトしてみるか。金要るし」

高校の頃はファストフード店で働いていた。大学入試のために辞めたが、またやっても良いかもしれない。元々人付き合いは得意な方だ。

「保!皆がいっぱいコメントくれたぜ!」

慧から嬉しそうなメッセージが送られてきた。

「キラキラしてたよ」

保がそう返すと、慧はものすごく照れていた。
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