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9・学食にて
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試験期間がとうとう始まった。慧は珍しく昼食のために学生食堂にいる。
「あ、慧ちゃん!学食に来るなんて珍しいね。いつものお弁当は?」
はじめと話すのにも慣れてきた慧だ。ああ、と頷いた。
「ここの日替わりが美味いって聞いたからな。試しに来てみたんだ。正直、弁当のネタが尽きたのもあるんだけどな」
「あぁ、さすがにお弁当毎日じゃあね」
食券を買う列に並びながら、はじめと試験の出来について話す。
「もっと勉強すれば良かったぜ」
ふう、と慧が溜息を吐くと、はじめがいやいやと首を横に振る。
「あの科目は本当に難しかったからね?仕方ないと思うよ?!」
「そうなのか?」
はじめがコクコク頷いている。
「慧ちゃん、自分に厳し過ぎだからね?!」
「そうか?」
慧は首を傾げた。保が甘やかしてくれるので丁度いいかとも思う。
「にしても、慧ちゃん」
はじめが真剣な顔で言った。
「山川くんと付き合ってるって本当?めちゃくちゃ学内で噂になってるけど?」
慧は驚いた。自分は誰にも言っていないはずだ。保が言いふらすことも考えられない。
「慧ちゃんと山川くんめちゃくちゃ目立つもん。二人で最近図書室で一緒に仲良く勉強してるし、そりゃ噂になるって!」
俺の希望が砕かれたとはじめが悔しそうに言う。
「慧ちゃん、実際どうなの?」
「付き合ってはいないけど…」
「え、そうなの?」
「俺は付き合いたい。どうなるのかよく分からねえけど」
「慧ちゃん。そういうの初めてなんだ」
慧の順番が回ってきた。金を入れて日替わり定食のボタンを押す。今日はチキン南蛮定食らしい。ご飯と味噌汁はおかわりが自由なようだ。
「あぁ、初めてだな。はじめはそういう経験あるのか?」
「うーん、実はあんまり」
慧はそれにびっくりしてしまう。
「はじめはカッコいいのにそんなことあるか?」
「あるよ、ある!!」
注文したものが出来上がり、二人は対面に座って食べ始めた。
「はじめもいつもは弁当だよな?」
「今日はお母さんが忙しくてね」
「へえ」
チキン南蛮に齧り付くと、チキンの旨味とタルタルの酸味でより白米が進む。慧が豪快に食べるのを、はじめはじっと見ていた。今日の慧は薄い水色のワンピースを着ている。ボタンがワンポイントになった可愛らしいものだ。
「慧ちゃん、見た目女の子なのに、食べ方男の子だよね」
「当たり前だろ、俺は男だぞ」
「あの、は、はじめくん!」
慧は声のした方を見た。はじめも何事かとそちらを見る。声の主は黒髪を緩く巻いた可愛らしい女子だった。
「あ、あの、これ」
それはピンク色の封筒である。慧にもそれが何かすぐ分かった。ラブレターというやつである。
「え、俺に?」
はじめがカチコチになっている。
「あ、ありがとう」
なんとか手紙を受け取ったはじめに女子が頭を下げて去っていく。
「よかったな、はじめ」
ニヤニヤしながら慧が言うとはじめはなんとかといった様子で頷いた。
「いや、ラブレターとか久しぶり過ぎて」
「久しぶり?お前、やっぱり経験あるんじゃないか」
「や、えーと、そのー」
はじめが本気で困っているようなので慧もそっとしといてやることにした。チキン南蛮は最後の一切れまで美味しく、味噌汁で締めた。
「うあー、美味かった」
「慧ちゃん、食べたねー」
「最近家の周りを走ってるんだ。腹が減ってしょうがねえ」
「モデルさんだもんねー」
「おう。じゃあ俺は次の時限テストだから」
またなとはじめに手を振り、慧は食堂を後にした。
✢✢✢
「あーくそ…」
「慧、そろそろお茶にしない?」
今、慧は保の部屋で今日受けた試験の自己採点をしている。
保がお茶を持って現れた。試験期間も残すところ一日である。最後の悪あがきというやつだ。
「あ、ありがとう」
「なに?間違えてた?」
保がのほほんと言う。
「あぁ、間違えてた。でも思ってたより点数取れてたぜ」
「慧、頑張ってたからね」
「悔しいよなぁ、こんなに勉強してるのによ」
保が笑う。
「そんなもんだよ。俺もそこそこだった」
「保くらい頭良くてもそれだもんなあ」
保がグラスを二つ置き、ペットボトルから緑茶を注ぐ。お茶請けに鯛焼きがあるらしい。
「鯛焼きかぁ、久しぶりに見る」
「それ、養殖だよ」
「よ、養殖?これ、お菓子だよな?」
訳が分からず尋ね返すと、保が説明してくれた。
「鯛焼き用の鉄板が、一つなら天然。沢山なのは養殖なんだって。面白いよね」
「そ、そうなのか…知らなかった」
熱々の鯛焼きを手に取り、慧はあむ、と齧り付く。最近の慧は常に腹を空かせている。
「うわっ、美味いな」
もっもっと咀嚼していると癒やされるなぁと頭をぽむぽむされた。
「慧が食べるのは嬉しいんだけど、前より痩せてない?」
「あー、毎日5キロ位ジョギングしてるし、夜は白米抜いてるしなぁ」
「それ、絶対体壊すよ?!」
「でもおやつ食べてる。牛乳とかすげー飲むし」
「まあそれならいい…のかなあ?カロリー的には大丈夫そうだよね」
「牛乳はカロリー爆弾だぜ!」
そんなことより、と慧は保に顔を寄せた。
「はじめがこの間、ラブレターもらってたぞ」
「あー、はじめくんモテそうだしね。慧が気になっていたみたいだけど、彼に慧を渡すつもりはさらさらないしなぁ」
保にそう言われるとなんだかそわそわしてしまう。
「保は本当に俺を好きでいてくれてるんだな」
「慧は違う?」
ふわり、と頬を撫でられて、慧はどきっとした。
「す、好きに決まってるだろ!」
「慧の、特別に俺が好きっていう気持ちが、ちゃんと固まるまで俺は待つつもり。だって、いつもすごく緊張されちゃうしね。もしかして俺、怖いかな?」
「怖いっていうか、イケメン過ぎるんだ…」
保がポカンとした。
「大丈夫、美人は3日で飽きるんだからね!」
「飽きたら困るだろ」
「あ、そうか」
だんだんおかしくなってしまった慧である。
「保は時々天然だよな」
「そうかなぁ?」
「ほら、保も鯛焼き食え。早く勉強すんぞ」
「はいはい」
慧は鯛焼きを頬張った。甘い餡が甘い生地と合わさって相乗効果で美味い。今回のテストはかなり緊張したが試験時の様子も分かった。学期末のテストはもっと頑張れそうだと思ったのだ。
「あ、慧ちゃん!学食に来るなんて珍しいね。いつものお弁当は?」
はじめと話すのにも慣れてきた慧だ。ああ、と頷いた。
「ここの日替わりが美味いって聞いたからな。試しに来てみたんだ。正直、弁当のネタが尽きたのもあるんだけどな」
「あぁ、さすがにお弁当毎日じゃあね」
食券を買う列に並びながら、はじめと試験の出来について話す。
「もっと勉強すれば良かったぜ」
ふう、と慧が溜息を吐くと、はじめがいやいやと首を横に振る。
「あの科目は本当に難しかったからね?仕方ないと思うよ?!」
「そうなのか?」
はじめがコクコク頷いている。
「慧ちゃん、自分に厳し過ぎだからね?!」
「そうか?」
慧は首を傾げた。保が甘やかしてくれるので丁度いいかとも思う。
「にしても、慧ちゃん」
はじめが真剣な顔で言った。
「山川くんと付き合ってるって本当?めちゃくちゃ学内で噂になってるけど?」
慧は驚いた。自分は誰にも言っていないはずだ。保が言いふらすことも考えられない。
「慧ちゃんと山川くんめちゃくちゃ目立つもん。二人で最近図書室で一緒に仲良く勉強してるし、そりゃ噂になるって!」
俺の希望が砕かれたとはじめが悔しそうに言う。
「慧ちゃん、実際どうなの?」
「付き合ってはいないけど…」
「え、そうなの?」
「俺は付き合いたい。どうなるのかよく分からねえけど」
「慧ちゃん。そういうの初めてなんだ」
慧の順番が回ってきた。金を入れて日替わり定食のボタンを押す。今日はチキン南蛮定食らしい。ご飯と味噌汁はおかわりが自由なようだ。
「あぁ、初めてだな。はじめはそういう経験あるのか?」
「うーん、実はあんまり」
慧はそれにびっくりしてしまう。
「はじめはカッコいいのにそんなことあるか?」
「あるよ、ある!!」
注文したものが出来上がり、二人は対面に座って食べ始めた。
「はじめもいつもは弁当だよな?」
「今日はお母さんが忙しくてね」
「へえ」
チキン南蛮に齧り付くと、チキンの旨味とタルタルの酸味でより白米が進む。慧が豪快に食べるのを、はじめはじっと見ていた。今日の慧は薄い水色のワンピースを着ている。ボタンがワンポイントになった可愛らしいものだ。
「慧ちゃん、見た目女の子なのに、食べ方男の子だよね」
「当たり前だろ、俺は男だぞ」
「あの、は、はじめくん!」
慧は声のした方を見た。はじめも何事かとそちらを見る。声の主は黒髪を緩く巻いた可愛らしい女子だった。
「あ、あの、これ」
それはピンク色の封筒である。慧にもそれが何かすぐ分かった。ラブレターというやつである。
「え、俺に?」
はじめがカチコチになっている。
「あ、ありがとう」
なんとか手紙を受け取ったはじめに女子が頭を下げて去っていく。
「よかったな、はじめ」
ニヤニヤしながら慧が言うとはじめはなんとかといった様子で頷いた。
「いや、ラブレターとか久しぶり過ぎて」
「久しぶり?お前、やっぱり経験あるんじゃないか」
「や、えーと、そのー」
はじめが本気で困っているようなので慧もそっとしといてやることにした。チキン南蛮は最後の一切れまで美味しく、味噌汁で締めた。
「うあー、美味かった」
「慧ちゃん、食べたねー」
「最近家の周りを走ってるんだ。腹が減ってしょうがねえ」
「モデルさんだもんねー」
「おう。じゃあ俺は次の時限テストだから」
またなとはじめに手を振り、慧は食堂を後にした。
✢✢✢
「あーくそ…」
「慧、そろそろお茶にしない?」
今、慧は保の部屋で今日受けた試験の自己採点をしている。
保がお茶を持って現れた。試験期間も残すところ一日である。最後の悪あがきというやつだ。
「あ、ありがとう」
「なに?間違えてた?」
保がのほほんと言う。
「あぁ、間違えてた。でも思ってたより点数取れてたぜ」
「慧、頑張ってたからね」
「悔しいよなぁ、こんなに勉強してるのによ」
保が笑う。
「そんなもんだよ。俺もそこそこだった」
「保くらい頭良くてもそれだもんなあ」
保がグラスを二つ置き、ペットボトルから緑茶を注ぐ。お茶請けに鯛焼きがあるらしい。
「鯛焼きかぁ、久しぶりに見る」
「それ、養殖だよ」
「よ、養殖?これ、お菓子だよな?」
訳が分からず尋ね返すと、保が説明してくれた。
「鯛焼き用の鉄板が、一つなら天然。沢山なのは養殖なんだって。面白いよね」
「そ、そうなのか…知らなかった」
熱々の鯛焼きを手に取り、慧はあむ、と齧り付く。最近の慧は常に腹を空かせている。
「うわっ、美味いな」
もっもっと咀嚼していると癒やされるなぁと頭をぽむぽむされた。
「慧が食べるのは嬉しいんだけど、前より痩せてない?」
「あー、毎日5キロ位ジョギングしてるし、夜は白米抜いてるしなぁ」
「それ、絶対体壊すよ?!」
「でもおやつ食べてる。牛乳とかすげー飲むし」
「まあそれならいい…のかなあ?カロリー的には大丈夫そうだよね」
「牛乳はカロリー爆弾だぜ!」
そんなことより、と慧は保に顔を寄せた。
「はじめがこの間、ラブレターもらってたぞ」
「あー、はじめくんモテそうだしね。慧が気になっていたみたいだけど、彼に慧を渡すつもりはさらさらないしなぁ」
保にそう言われるとなんだかそわそわしてしまう。
「保は本当に俺を好きでいてくれてるんだな」
「慧は違う?」
ふわり、と頬を撫でられて、慧はどきっとした。
「す、好きに決まってるだろ!」
「慧の、特別に俺が好きっていう気持ちが、ちゃんと固まるまで俺は待つつもり。だって、いつもすごく緊張されちゃうしね。もしかして俺、怖いかな?」
「怖いっていうか、イケメン過ぎるんだ…」
保がポカンとした。
「大丈夫、美人は3日で飽きるんだからね!」
「飽きたら困るだろ」
「あ、そうか」
だんだんおかしくなってしまった慧である。
「保は時々天然だよな」
「そうかなぁ?」
「ほら、保も鯛焼き食え。早く勉強すんぞ」
「はいはい」
慧は鯛焼きを頬張った。甘い餡が甘い生地と合わさって相乗効果で美味い。今回のテストはかなり緊張したが試験時の様子も分かった。学期末のテストはもっと頑張れそうだと思ったのだ。
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