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四十二話

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次の日、予定通り実力テストが実施された。うん、休み中も毎日勉強した甲斐があった。ちゃんと問題に答えられる。セイラちゃんも休み中にかなり勉強したって言ってたな。フォーさんに勉強を教えてもらったって嬉しそうだった。
フォーさんのことだから優しく教えてくれたんだろう。ラセルカちゃんもルトさんのお仕事を見せてもらったらしい。
ルトさんとは、この間ちらりと話したきりだけど、魔法と魔術について、彼はかなり詳しそうだった。ラセルカちゃんはルトさんに懐いているし、きっとルトさんはそれが嬉しいに違いない。ダンスパーティも待ち遠しいだろうな。

時計の秒針が進む音を聞きながら、アタシはふと思った。
これから世界はどう変わっていくんだろう。
いや、変わるのは世界じゃなくて、アタシ達人間?
アタシは残りの問題に集中した。今はテストを頑張ろう。

「そこまで。筆記用具を置いて」

試験官の先生が解答用紙を集めていく。二人共どうだったかな?
帰りのホームルームが終わって、アタシは寮に戻った。
これから予約して借りたアトリエに向かうことになっている。
愛用の絵の具とスケッチブックを持ったアタシは部屋を出た。

「アイシュ!」

ベルが向こうから走ってくる。お仕事終わったのかな?

「お疲れ様、ベル。ちゃんと来てくれて嬉しい」

「当たり前だ。アイシュの言う事なら必ず守る」

「ふふ」

アトリエに向かうと、すでにトギさんがキャンバスを用意している。

「お疲れ様です、トギさん」

アタシがそう声を掛けると、トギさんが笑う。

「女学院は実力テストだったようですね」

「青年学校は違ったんですか?」

「はい。剣技のテストでした。私は運動がさっぱりで」

トギさん、運動苦手なんだ。

「男たるもの女性を守るのが当然なのでしょうが…」

トギさんが目を伏せる。本当にイケメンだな、この人。

「アイシュリタ様はベルさんとダンスパーティに出られるんですよね?」

「はい」

「実は、私、ダンスも苦手なんです」

運動が苦手なら尚更かもしれない。そんなことを話しながらも、トギさんは作業を始めている。
あまりにナチュラルだったから、アタシも慌ててスケッチブックを開いた。

「アイシュリタ様の絵はいつも瑞々しいですね。心が洗われるようです。今回は家族の絵なのですね」

「トギさんはどんな絵を描かれるんですか?」

アタシがそう尋ねると、トギさんがキャンバスの脇に退いてくれた。キャンバスには綺麗な女性が描かれている。誰だろう。

「私の生き別れた姉です。
美しい気丈な人でした」

「トギさんはお姉様を探していらっしゃるんですか?」

「はい。もう10年は探しています。いい加減諦めなければと思うのですが」

トギさんの気持ちがよく分かる。家族を失くすって本当に苦しいことだ。アタシもトギさんにお母様の病気について話した。

「アイシュリタ様は立派です。あなたは強い。私も見習わなければ」

トギさんと一緒にする作業はとても楽しかった。
時間があっという間に過ぎて、アトリエの使用時間のリミットが迫ってきた。

「そろそろ片付けなくてはいけませんね」

「そうですね。トギさんの才能は本物です。自信を持ってください」

「アイシュリタ様、本当にありがとうございます」

トギさんの絵は油絵だった。どうやらここで保管するらしい。
アタシはまだ色塗りすら始めてないからスケッチブックを閉じた。
もう少し細部にこだわりたいな。

トギさんと別れて、アタシはベルと自分の部屋に戻った。

「ベル、怒ってる?」

恐る恐る聞いたら、ベルに首を傾げられた。

「いや。トギも苦労してるんだなって思ったよ。アイシュに今以上に近付くのは許さないけど」

「ははは」

ベルが怒ってなくてよかったな。

「お姉!」

ラセルカちゃんは今までお昼寝をしていたらしい。飛び起きると抱き着いてきた。

「ラセルカちゃん、夕飯食べに行こう?」

「うん!」

ダンスパーティももう目前か。今の所静かだけど、なんとなく緊張感はある。
皆、相手が欲しいのは一緒だ。
一部の生徒の間でトラブルになっているなんて言う話も聞く。
トギさんに良い相手が見つかりますように。
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