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十七話

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ラセルカちゃんのおじ様は普段のお疲れもあってか、夜になっても目を覚まさなかった。明日の朝には帰る予定だそうだから、今回の理不尽魔術テストを回避できた。やったね。おじ様が忙しい方でよかった。

でもラセルカちゃんはアタシとした練習の甲斐があって課題は十分クリアできている。だからもっと自分に自信を持って欲しい。まあアタシが言えたことじゃないか。


アタシは、人形姿のベルを膝に抱えて客間にあるベッドに座っている。隣のベッドで、ラセルカちゃんがぐっすりお休み中だ。

「アイシュ、よく頑張ったな!」

「たまたま上手く行っただけだよ。でも、ラセルカちゃんが魔術師の家系にいることは間違いないんだし、テストをする機会なんておじ様にはいくらでもあるもの。ま、ラセルカちゃんなら余裕でクリアできるけどね」

「確かに。そうだ、気になっていたんだけど、ラセルカとラセルカのお母さんがこの家に引き取られたんだろうか」

アタシはベルの言葉を頭の中で反芻した。
そうだ。おじ様もルトさんも獣人。
ラセルカちゃん達とは、種族が違う。ルトさんが言っていたことも思い出した。
「ラセルカは特別な子」だと。

その言葉を思い出したら、なんとなく胸がざわざわしてくる。これから何かが起きるような予感。
でもアタシ達にそれを止める術は無い。

「ベル、そろそろ休みましょう。考えても分からないし」

「あぁ」

ベルはぴょん、とアタシの膝から身軽に飛び下りた。

「ここで一緒に寝る?」

「な、何を言ってるんだ!そんなことできる訳ない」

ベルに全力で断られた。ちょっと傷付く。

「そうだよね。おやすみなさい」

「あ、アイシュが好きだから敢えて離れてるんだからな!勘違いしないでくれ」

「ありがとう、ベル」

ベルはやっぱり優しいな。アタシは上着を脱いで椅子に掛けた。ベッドに潜り込むと暖かくてふかふかで、アタシはすぐ眠りに落ちていた。

「ん…」

目を開けると、大きな緑の瞳がアタシを見ていた。アタシはすぐにそれが誰だか分かってホッとした。

「む、アイシュよ。起きたか?」

「ルイーダ様、来てくださったんですね」

アタシは起き上がった。やばっ、髪の毛がボサボサだ。
慌てて手櫛で髪を直す。ラセルカちゃんはまだ夢の中だ。むにゃむにゃ言ってる。可愛いな。

「手紙を読んだ。魔力の源を追ってきたがそこの娘か?」

ルイーダ様にはなんでも分かるんだ。さすが妖精族の長。ラセルカちゃんがごろん、と寝返りを打つ。まだ起きそうにない。

「はい。ラセルカさんと言います。
優秀な方ですわ」

「うむ。魔力も洗練されておる。にしても、月の草が欲しいとな」

「月の草という薬草なのですか?」

「我らの土地では月泉つきいずみをそう呼ぶのだ。しかしな」

ルイーダ様がそれきり黙ってしまったので、アタシも彼の言葉を待った。

「あれは本当に扱いづらくてな」

ふー、とルイーダ様が困ったように言う。ルイーダ様ですら、そう言うのだから相当だろう。でもラセルカちゃんのお母様の病気が治るなら。

「んー、お姉ー。その人だあれ?」

あ、ラセルカちゃんが起きた。

「ラセルカちゃん、こちらはルイーダ様。妖精族の長なの」

ラセルカちゃんが跳ね起きる。

「ラセルカが送った手紙、ちゃんと届いたんだね!」

ルイーダ様が微笑む。うん、分かる。その気持ち。ついニコニコしちゃうよね。

「ラセルカ、妖精の谷には確かに月泉つきいずみは生えておる。だがその道は長く険しい。
我々妖精族ですらなかなか手に入らん。
それでも欲しいか?」

「うん!」

ラセルカちゃんは大きく頷いたのだ。

「月泉は満月の晩、特に見つかりやすい。
次の満月は二週間後。
それまでに準備をしておけ」

「はい」

ルイーダ様は一瞬で消えていた。

「すごい魔力量」

ラセルカちゃんが呟く。

「お姉、妖精の谷に行ったことある?」

「うん、一回だけね。とても綺麗なところだったわ」

アタシはおぼろげに思い出していた。
妖精の谷に初めて行った時のことを。
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