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六話
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「ふう、やっと終わった」
アタシはようやく持ってきた荷物を全て片付け終わった。もうすぐお昼なんですけど。昨日、明日から始まる授業の課題をやるようにと、分厚いプリントの束をもらった。午後はそれをやっつけるしかない。なかなかスパルタだなあ。女学院恐ろしいところ。今の所、陰キャであることはバレていない。でも化けの皮なんてすぐ剥がれるわよね。
「お姉、片付け終わったのー?」
ラセルカちゃんに声を掛けられて、アタシは頷いた。
「うん、終わったわ。あれ?」
アタシは目を擦った。ラセルカちゃんの肩に何か黒いもやみたいなものがちょん、と乗っている。何かな?
「お姉にも見えるのー?」
ラセルカちゃんが弾んだ声をあげる。普通見えないものなのかな?アタシは屈んだ。
やっぱり見えるな。
「この子はポポだよー。ラセルカのお友達なの。ラセルカの家、魔術師の家系!」
なるほど、だから黒魔術師なんて呼ばれていたんだ。昔、黒魔術師は悪魔を呼び寄せるなんて異端視されていたから、その名残かもしれない。くだらないな。
見えないものや、自分とは違うものを受け入れられない人はいる。
でもこの世界にはそんなもの沢山ある。
それだけこの世界は広くて未知だ。世界の一面だけを見て、全てを知り尽くしたように振る舞う大人たちをアタシは沢山見てきた。それのどこが楽しいの?アタシには理解出来ない。それはこれからも変わらない…と思う。
「ラセルカちゃんはどんな魔術が使えるの?」
軽い気持ちで聞いたら、ラセルカちゃんは黙ってうつむいてしまった。
なんか聞いちゃいけないことを聞いちゃったみたい。
ど、ど、ど、どうしよう。
陰キャでコミュ障なアタシにうまいフォローが出来るわけ無い!ちらっとベルの方を見やると彼が頷く。アタシはベルを咄嗟に持ち上げた。
「俺はベル!アイシュリタを護っている!」
急にベルが喋りだしたので、アタシは驚いた。ラセルカちゃんも驚いたようだ。びっくりしたように顔を上げてくれた。
「お姉?その子は?」
「う、うん。アタシの恋人、ベルよ」
ラセルカちゃんが大きな目をキラキラさせる。
「お姉も魔術師なの?」
「え、えーと…」
「アイシュは俺に命を吹き込んでくれた!ラセルカとは違う種類の魔術師だ!」
「べ、ベル!!」
ラセルカちゃんが駆け寄ってきてアタシの腰に抱き着いてきた。小さい子であることは知っていたけれど、本当に小さいな。
「お姉、ラセルカ、怖いの」
アタシは屈んだ。ラセルカちゃんの顔を見つめる。
「何が怖いの?」
「今度のホリデーにお家に帰るの。そこで魔術のテストをするんだって。上手くできなかったらこの学校を卒業するまで家に帰ってきちゃいけないって」
ラセルカちゃんが泣き声混じりに言う。なんてこと、こんなに小さい子に。
「ラセルカ、魔術苦手。魔法なら得意なのに」
「え?」
アタシは驚いた。魔術と魔法が違うものだと初めて知った。
「魔法を使っちゃいけないの?」
ラセルカちゃんが頷く。
「魔法と魔術、仲が良くないの。ラセルカは術式をちゃんと描けないから落ちこぼれだって」
ぎゅ、とラセルカちゃんが唇を噛む。あぁ、悔しいんだ。
「ね、ラセルカちゃん。魔法で術式を描けないの?」
「魔法で?」
「うん。魔術だけだとラセルカちゃんは実力を発揮できない。でも魔法なら?」
ラセルカちゃんはしばらく考えているようだった。
「お姉、ラセルカの練習に付き合ってくれる?」
「もちろん」
ホリデーまであと1ヶ月か。アタシは初めから家に帰るつもりなんてない。お母様も帰ってきて欲しくないだろうし。
学校の課題は大変かもしれない。でもアタシはそんなのに負けるつもりはないわ。
周りからの悪口にだって立ち向かってみせる。
アタシは悪役令嬢、アイシュリタ・ツリュードリヒよ。
アタシはようやく持ってきた荷物を全て片付け終わった。もうすぐお昼なんですけど。昨日、明日から始まる授業の課題をやるようにと、分厚いプリントの束をもらった。午後はそれをやっつけるしかない。なかなかスパルタだなあ。女学院恐ろしいところ。今の所、陰キャであることはバレていない。でも化けの皮なんてすぐ剥がれるわよね。
「お姉、片付け終わったのー?」
ラセルカちゃんに声を掛けられて、アタシは頷いた。
「うん、終わったわ。あれ?」
アタシは目を擦った。ラセルカちゃんの肩に何か黒いもやみたいなものがちょん、と乗っている。何かな?
「お姉にも見えるのー?」
ラセルカちゃんが弾んだ声をあげる。普通見えないものなのかな?アタシは屈んだ。
やっぱり見えるな。
「この子はポポだよー。ラセルカのお友達なの。ラセルカの家、魔術師の家系!」
なるほど、だから黒魔術師なんて呼ばれていたんだ。昔、黒魔術師は悪魔を呼び寄せるなんて異端視されていたから、その名残かもしれない。くだらないな。
見えないものや、自分とは違うものを受け入れられない人はいる。
でもこの世界にはそんなもの沢山ある。
それだけこの世界は広くて未知だ。世界の一面だけを見て、全てを知り尽くしたように振る舞う大人たちをアタシは沢山見てきた。それのどこが楽しいの?アタシには理解出来ない。それはこれからも変わらない…と思う。
「ラセルカちゃんはどんな魔術が使えるの?」
軽い気持ちで聞いたら、ラセルカちゃんは黙ってうつむいてしまった。
なんか聞いちゃいけないことを聞いちゃったみたい。
ど、ど、ど、どうしよう。
陰キャでコミュ障なアタシにうまいフォローが出来るわけ無い!ちらっとベルの方を見やると彼が頷く。アタシはベルを咄嗟に持ち上げた。
「俺はベル!アイシュリタを護っている!」
急にベルが喋りだしたので、アタシは驚いた。ラセルカちゃんも驚いたようだ。びっくりしたように顔を上げてくれた。
「お姉?その子は?」
「う、うん。アタシの恋人、ベルよ」
ラセルカちゃんが大きな目をキラキラさせる。
「お姉も魔術師なの?」
「え、えーと…」
「アイシュは俺に命を吹き込んでくれた!ラセルカとは違う種類の魔術師だ!」
「べ、ベル!!」
ラセルカちゃんが駆け寄ってきてアタシの腰に抱き着いてきた。小さい子であることは知っていたけれど、本当に小さいな。
「お姉、ラセルカ、怖いの」
アタシは屈んだ。ラセルカちゃんの顔を見つめる。
「何が怖いの?」
「今度のホリデーにお家に帰るの。そこで魔術のテストをするんだって。上手くできなかったらこの学校を卒業するまで家に帰ってきちゃいけないって」
ラセルカちゃんが泣き声混じりに言う。なんてこと、こんなに小さい子に。
「ラセルカ、魔術苦手。魔法なら得意なのに」
「え?」
アタシは驚いた。魔術と魔法が違うものだと初めて知った。
「魔法を使っちゃいけないの?」
ラセルカちゃんが頷く。
「魔法と魔術、仲が良くないの。ラセルカは術式をちゃんと描けないから落ちこぼれだって」
ぎゅ、とラセルカちゃんが唇を噛む。あぁ、悔しいんだ。
「ね、ラセルカちゃん。魔法で術式を描けないの?」
「魔法で?」
「うん。魔術だけだとラセルカちゃんは実力を発揮できない。でも魔法なら?」
ラセルカちゃんはしばらく考えているようだった。
「お姉、ラセルカの練習に付き合ってくれる?」
「もちろん」
ホリデーまであと1ヶ月か。アタシは初めから家に帰るつもりなんてない。お母様も帰ってきて欲しくないだろうし。
学校の課題は大変かもしれない。でもアタシはそんなのに負けるつもりはないわ。
周りからの悪口にだって立ち向かってみせる。
アタシは悪役令嬢、アイシュリタ・ツリュードリヒよ。
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