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12・正気
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外がなにやら騒がしい。国王はふらふらとバルコニーに向かおうと立ち上がった。最近なんだか、頭がぼーっとしている。年だろうか、とも思ったが、そういえばと国王は思っていた。
(あの女が来てからなにやらおかしい)
占いが出来ると近付いてきて、初めこそ訝しんだが、彼女の占いは確かによく当たった。それですっかり心酔してしまっていたが、魔界と戦争をしようと思った自分が今では恐ろしい。
(ワシはなんてことを)
そんなことを思いながら、国王はバルコニーから下を見下ろした。大勢の観衆が押し寄せてきているのだ。何事かと国王は冷や汗をかいたが、だれかが歌っていることに気が付く。可憐なその人は伸び伸びと歌っていた。動物たちもその周りで歌声に聴き惚れている。国王も良い歌だ、とつい聞き入ってしまった。
「そち、もっと近くで聞かせてくれんか?」
歌っていた主はハッとするような美人だった。
「国王様のお望みとなればなんなりと」
✢
「無事に城に入れやしたね」
「ふふ、可愛い動物たちのおかげ」
ココレシュアとルーギルは謁見の間に向った。この城のどこかに、ラシータの大事な指輪を背負った鼠がいる。謁見の間の入ると、兵士たちが隙なく立っている。ココレシュアとルーギルは膝をついて挨拶を始めた。
「国王陛下、お招きくださり感謝してもしきれません」
「うむ。さぁ、早速聞かせておくれ」
ココレシュアは歌い出した。ルーギルがテンポ良くドラムを打ち鳴らす。
「うむぅ、なんと美しい歌声だ」
国王は目を閉じてすっかり聞き入っている。
「チュ」
ココレシュアは指輪を背負った鼠が肩に登ってきたことに気が付いた。そっと指輪を抜き取る。
ココレシュアは最後の節を歌い終えた。
「なんと素晴らしい!うちの楽団に入らぬか?待遇は保証する!」
ココレシュアは冷静だった。
「もったいないお言葉感謝致します。ですが、僕は今のままの力量ではとても満足出来ないのです」
「そうか。それほどの歌声を持っていても更に上を目指す、と」
「はい」
むむうと国王は唸った。
「それとお聞きしたいことが」
「なんだ?」
「最近変わったことがありませんでしたか?」
ココレシュアに尋ねられて、国王は自分が探られていることに気が付いた。自分は国をまとめあげている人間だ。失態を犯したとなれば、国民が騒ぐ。
「いや、特には」
「占い師の方にお会いしたそうですね」
「むぐ…」
どこでそれを、と反射的に返しそうになってしまって、国王は押し黙った。
「もちろん、このことは他の人には言いません。ただその占い師は極悪人であると聞いています」
「なんと?!」
思わず反応してしまった国王に畳み掛けるようにココレシュアは言った。
「彼女はどこですか?」
✢
「ココ様、交渉うまいっすねー」
「そんなことないよ。お金がない時に負けてもらう時にやってたくらい」
「生活が苦しかったんで?」
「それはもう。仕事に慣れる前は食い扶持も稼げなかったんだ」
「お気の毒でしたねぇ。でもそんなココ様も最強魔王の奥方様ですからね!」
「ラシータ様、大人しくしてるかな」
宿に戻ると、猫の姿のままラシータは腹を天井に向けてすやすや眠っていた。瞳には大粒の涙が溜まっている。何かあったのだと思わない方がおかしい。
「クロダさん、ラシータ様どうされたんですか?」
クロダも参っているらしい。疲れたような顔で頷いた。
「陛下の好きなお菓子が売り切れていてね。あちこち探したのだけど買えなかったんだよ」
それでラシータは駄々を捏ねたらしい。
「陛下は本当わがまますからね」
ルーギルはすっかり呆れている。
「ラシータ様」
ココレシュアはそっとラシータの涙を指で拭った。
「ココ、帰ってきたのか?」
ぱちり、と真紅がココレシュアを捉える。ココレシュアはラシータを抱き上げて、よしよしと撫でた。
「はい、指輪だよ」
「本当だ!ありがとう、ココ、ルーギル!」
「この指輪なんなの?」
「魔力操作が楽になるんだ」
「陛下は魔力量が無駄に多いんすよ。だからこの指輪で省エネというか」
「ルーギル!無駄は余計だろう!!この指輪はおじい様から受け継がれてきた大事なものなんだからな!」
「あのね、ラシータ様」
ココレシュアは先程、国王から聞いた話を繰り返した。それはもちろん、魔女のことである。彼女は王都のはずれに暮らしているそうだ。
「よし、あのババア、再起不能にしてやんよ!」
ラシータはやる気満々である。
「あんまり暴れないでくださいね?」
ルーギルが釘を刺す。
「大丈夫だ!任せろ!」
ラシータ以外は大丈夫じゃないなと悟っていた。
(あの女が来てからなにやらおかしい)
占いが出来ると近付いてきて、初めこそ訝しんだが、彼女の占いは確かによく当たった。それですっかり心酔してしまっていたが、魔界と戦争をしようと思った自分が今では恐ろしい。
(ワシはなんてことを)
そんなことを思いながら、国王はバルコニーから下を見下ろした。大勢の観衆が押し寄せてきているのだ。何事かと国王は冷や汗をかいたが、だれかが歌っていることに気が付く。可憐なその人は伸び伸びと歌っていた。動物たちもその周りで歌声に聴き惚れている。国王も良い歌だ、とつい聞き入ってしまった。
「そち、もっと近くで聞かせてくれんか?」
歌っていた主はハッとするような美人だった。
「国王様のお望みとなればなんなりと」
✢
「無事に城に入れやしたね」
「ふふ、可愛い動物たちのおかげ」
ココレシュアとルーギルは謁見の間に向った。この城のどこかに、ラシータの大事な指輪を背負った鼠がいる。謁見の間の入ると、兵士たちが隙なく立っている。ココレシュアとルーギルは膝をついて挨拶を始めた。
「国王陛下、お招きくださり感謝してもしきれません」
「うむ。さぁ、早速聞かせておくれ」
ココレシュアは歌い出した。ルーギルがテンポ良くドラムを打ち鳴らす。
「うむぅ、なんと美しい歌声だ」
国王は目を閉じてすっかり聞き入っている。
「チュ」
ココレシュアは指輪を背負った鼠が肩に登ってきたことに気が付いた。そっと指輪を抜き取る。
ココレシュアは最後の節を歌い終えた。
「なんと素晴らしい!うちの楽団に入らぬか?待遇は保証する!」
ココレシュアは冷静だった。
「もったいないお言葉感謝致します。ですが、僕は今のままの力量ではとても満足出来ないのです」
「そうか。それほどの歌声を持っていても更に上を目指す、と」
「はい」
むむうと国王は唸った。
「それとお聞きしたいことが」
「なんだ?」
「最近変わったことがありませんでしたか?」
ココレシュアに尋ねられて、国王は自分が探られていることに気が付いた。自分は国をまとめあげている人間だ。失態を犯したとなれば、国民が騒ぐ。
「いや、特には」
「占い師の方にお会いしたそうですね」
「むぐ…」
どこでそれを、と反射的に返しそうになってしまって、国王は押し黙った。
「もちろん、このことは他の人には言いません。ただその占い師は極悪人であると聞いています」
「なんと?!」
思わず反応してしまった国王に畳み掛けるようにココレシュアは言った。
「彼女はどこですか?」
✢
「ココ様、交渉うまいっすねー」
「そんなことないよ。お金がない時に負けてもらう時にやってたくらい」
「生活が苦しかったんで?」
「それはもう。仕事に慣れる前は食い扶持も稼げなかったんだ」
「お気の毒でしたねぇ。でもそんなココ様も最強魔王の奥方様ですからね!」
「ラシータ様、大人しくしてるかな」
宿に戻ると、猫の姿のままラシータは腹を天井に向けてすやすや眠っていた。瞳には大粒の涙が溜まっている。何かあったのだと思わない方がおかしい。
「クロダさん、ラシータ様どうされたんですか?」
クロダも参っているらしい。疲れたような顔で頷いた。
「陛下の好きなお菓子が売り切れていてね。あちこち探したのだけど買えなかったんだよ」
それでラシータは駄々を捏ねたらしい。
「陛下は本当わがまますからね」
ルーギルはすっかり呆れている。
「ラシータ様」
ココレシュアはそっとラシータの涙を指で拭った。
「ココ、帰ってきたのか?」
ぱちり、と真紅がココレシュアを捉える。ココレシュアはラシータを抱き上げて、よしよしと撫でた。
「はい、指輪だよ」
「本当だ!ありがとう、ココ、ルーギル!」
「この指輪なんなの?」
「魔力操作が楽になるんだ」
「陛下は魔力量が無駄に多いんすよ。だからこの指輪で省エネというか」
「ルーギル!無駄は余計だろう!!この指輪はおじい様から受け継がれてきた大事なものなんだからな!」
「あのね、ラシータ様」
ココレシュアは先程、国王から聞いた話を繰り返した。それはもちろん、魔女のことである。彼女は王都のはずれに暮らしているそうだ。
「よし、あのババア、再起不能にしてやんよ!」
ラシータはやる気満々である。
「あんまり暴れないでくださいね?」
ルーギルが釘を刺す。
「大丈夫だ!任せろ!」
ラシータ以外は大丈夫じゃないなと悟っていた。
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