最強魔王様に愛されて

はやしかわともえ

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9・武器庫にて

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クロダは、鏡を見てため息をついた。鏡の中の自分は誰が見ても疲れたという顔をしている。最近自分のまとめあげている騎士団の様子がおかしいと感じるが、自分の力だけではとても制御しきれない。どうしたものか、と国王に事情を話してみたが、その国王ですら様子がおかしいのだ。

「みんな、どうしてしまったのだ…」

クロダは傍の瓶に入っていた冷たい水で、じゃぶじゃぶと顔を洗った。

「俺は戦争なんてしたくない…どうしたら。あぁ…」

「クロダ、俺を呼んだか?」

クロダは涼やかな声に驚いて振り返った。相手は、侍女服を着た美しい娘である。

「まさか、ラシータ様?」

「クロダ、俺に力を貸してくれないか?国王は魔界と戦争をしようとしてるんだろう?」

クロダは辺りを窺った。誰もいないことを確認する。ここは王都の傍の山の麓に建てられている倉庫の中だ。ここには武器という武器が置かれている。最近は特に武器の輸入に力を入れており、クロダはきな臭さを感じていた。

「クロダはちゃんと持っていてくれたんだな」

クロダはハッとなって胸元に提げたネックレスを握った。石は真紅。ラシータの魔力を物質化したものである。ラシータが友好の証として相手に渡しているものだ。この石は邪念を跳ね除ける力を持つ。

「ラシータ様、一体何がどうなっているのです?」

クロダの悲痛な叫びに、ラシータはまあ待てと彼を制した。

「俺を憎む魔女が国王を唆したんだ。大量の武器がここに入ってきたろ?魔界に攻め込むなら今だってな」

「ですが、ラシータ様は最強。武器など効かないのでは」

ラシータはニヤリと笑った。

「確かに俺は最強だ。だが魔界全てまでは守りきれない。魔女にとってはそれだけでも嬉しいのだろう」

「なんと卑しい。ラシータ様、俺もあなたに従います。手伝わせてください」

「クロダ、俺に言わせてくれ」

「ラシータ様?」

ラシータはクロダに頭を下げた。

「クロダ、お前の力を貸して欲しい」

クロダは笑みをこぼしていた。

「は、喜んでお力になります」



「こちらになります」

「ふぅん、色々あるもんだな」

ラシータは侍女の姿のまま、クロダに武器庫を案内させた。今は真夜中だ。もし、見られてもクロダと逢引に来ているようにしか見えない。ラシータは背伸びをして、手榴弾を手にした。それをスカートのポケットにねじ込んでいる。

「ラシータ様、それ、使うんですか?」

クロダが若干呆れながら問うと、ラシータはにやりと笑った。

「1回投げてみたかったんだ。これ、爆発するんだろ?」

あなたの魔法より遥かに威力は下です、とクロダはとても言えない。他にもラシータは武器庫を見て回る。

「これが使えなくなっても、魔女は全然困らないんだろうな」

「まぁ、そうですよね」

「よし、燃やすか」

「え」

ラシータが胸を仰け反らせて笑った。

「いいだろ?花火みたいになるぞー!」

花火にはなりませんよ!とクロダは慌てて制止しようとしたが、もう遅かった。ラシータが強力な炎魔法を放っていたからだ。

「よし、クロダ、走るぞ!」

「は!」

2人は全力で倉庫から離れた。その間にも倉庫はどんどん燃えていく。そしてついにはドォンと大きく爆発したのだった。空気が震えている。クロダとラシータは爆発の痕を見つめていた。


「ラシータ様?」

ラシータはお決まりの猫の姿になって、ココレシュアに抱き上げられていた。

「だって…」

「だって、じゃないでしょ。なにも全部一気に爆破させなくても」

そう、ラシータはココレシュアに叱られているのだった。

「いや、止めなかった自分も悪いんです」

ココレシュアを宥めるようにクロダが言葉を挟んだ。実際クロダは止めようとしていたのだが。

「クロダさん、あなたが止めていてもラシータ様は爆破させてましたよね?」

にっこり笑うココレシュアが怖い、とクロダはすごすご引き下がった。

「ラシータ様、めっ」

「はぁーい」

どうやら説教タイムは終わったようだとルーギルは判断した。ココレシュアはなんだかんだ言ってラシータに甘い。ルーギルは地図を示しながら話し始めた。

「どうやら使節団の足止めに成功したようです。現在このポイントにいる模様」

ラシータがじっと地図を眺める。

「ここならすぐだな」

ココレシュアはその言葉に驚いてしまった。そこまで既に30キロほど離れていたからだ。

「ラシータ様?すぐって…」

「俺はドラゴンにもなれるんだぞ」

「えぇ…」

ラシータはやはり規格外である。

「よし、使節団の所に行って奴らを回れ右させるか。行くぞ!みんな!」

ココレシュア、ルーギル、クロダはラシータに頷いてみせた。
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