9 / 22
9・武器庫にて
しおりを挟む
クロダは、鏡を見てため息をついた。鏡の中の自分は誰が見ても疲れたという顔をしている。最近自分のまとめあげている騎士団の様子がおかしいと感じるが、自分の力だけではとても制御しきれない。どうしたものか、と国王に事情を話してみたが、その国王ですら様子がおかしいのだ。
「みんな、どうしてしまったのだ…」
クロダは傍の瓶に入っていた冷たい水で、じゃぶじゃぶと顔を洗った。
「俺は戦争なんてしたくない…どうしたら。あぁ…」
「クロダ、俺を呼んだか?」
クロダは涼やかな声に驚いて振り返った。相手は、侍女服を着た美しい娘である。
「まさか、ラシータ様?」
「クロダ、俺に力を貸してくれないか?国王は魔界と戦争をしようとしてるんだろう?」
クロダは辺りを窺った。誰もいないことを確認する。ここは王都の傍の山の麓に建てられている倉庫の中だ。ここには武器という武器が置かれている。最近は特に武器の輸入に力を入れており、クロダはきな臭さを感じていた。
「クロダはちゃんと持っていてくれたんだな」
クロダはハッとなって胸元に提げたネックレスを握った。石は真紅。ラシータの魔力を物質化したものである。ラシータが友好の証として相手に渡しているものだ。この石は邪念を跳ね除ける力を持つ。
「ラシータ様、一体何がどうなっているのです?」
クロダの悲痛な叫びに、ラシータはまあ待てと彼を制した。
「俺を憎む魔女が国王を唆したんだ。大量の武器がここに入ってきたろ?魔界に攻め込むなら今だってな」
「ですが、ラシータ様は最強。武器など効かないのでは」
ラシータはニヤリと笑った。
「確かに俺は最強だ。だが魔界全てまでは守りきれない。魔女にとってはそれだけでも嬉しいのだろう」
「なんと卑しい。ラシータ様、俺もあなたに従います。手伝わせてください」
「クロダ、俺に言わせてくれ」
「ラシータ様?」
ラシータはクロダに頭を下げた。
「クロダ、お前の力を貸して欲しい」
クロダは笑みをこぼしていた。
「は、喜んでお力になります」
✢
「こちらになります」
「ふぅん、色々あるもんだな」
ラシータは侍女の姿のまま、クロダに武器庫を案内させた。今は真夜中だ。もし、見られてもクロダと逢引に来ているようにしか見えない。ラシータは背伸びをして、手榴弾を手にした。それをスカートのポケットにねじ込んでいる。
「ラシータ様、それ、使うんですか?」
クロダが若干呆れながら問うと、ラシータはにやりと笑った。
「1回投げてみたかったんだ。これ、爆発するんだろ?」
あなたの魔法より遥かに威力は下です、とクロダはとても言えない。他にもラシータは武器庫を見て回る。
「これが使えなくなっても、魔女は全然困らないんだろうな」
「まぁ、そうですよね」
「よし、燃やすか」
「え」
ラシータが胸を仰け反らせて笑った。
「いいだろ?花火みたいになるぞー!」
花火にはなりませんよ!とクロダは慌てて制止しようとしたが、もう遅かった。ラシータが強力な炎魔法を放っていたからだ。
「よし、クロダ、走るぞ!」
「は!」
2人は全力で倉庫から離れた。その間にも倉庫はどんどん燃えていく。そしてついにはドォンと大きく爆発したのだった。空気が震えている。クロダとラシータは爆発の痕を見つめていた。
✢
「ラシータ様?」
ラシータはお決まりの猫の姿になって、ココレシュアに抱き上げられていた。
「だって…」
「だって、じゃないでしょ。なにも全部一気に爆破させなくても」
そう、ラシータはココレシュアに叱られているのだった。
「いや、止めなかった自分も悪いんです」
ココレシュアを宥めるようにクロダが言葉を挟んだ。実際クロダは止めようとしていたのだが。
「クロダさん、あなたが止めていてもラシータ様は爆破させてましたよね?」
にっこり笑うココレシュアが怖い、とクロダはすごすご引き下がった。
「ラシータ様、めっ」
「はぁーい」
どうやら説教タイムは終わったようだとルーギルは判断した。ココレシュアはなんだかんだ言ってラシータに甘い。ルーギルは地図を示しながら話し始めた。
「どうやら使節団の足止めに成功したようです。現在このポイントにいる模様」
ラシータがじっと地図を眺める。
「ここならすぐだな」
ココレシュアはその言葉に驚いてしまった。そこまで既に30キロほど離れていたからだ。
「ラシータ様?すぐって…」
「俺はドラゴンにもなれるんだぞ」
「えぇ…」
ラシータはやはり規格外である。
「よし、使節団の所に行って奴らを回れ右させるか。行くぞ!みんな!」
ココレシュア、ルーギル、クロダはラシータに頷いてみせた。
「みんな、どうしてしまったのだ…」
クロダは傍の瓶に入っていた冷たい水で、じゃぶじゃぶと顔を洗った。
「俺は戦争なんてしたくない…どうしたら。あぁ…」
「クロダ、俺を呼んだか?」
クロダは涼やかな声に驚いて振り返った。相手は、侍女服を着た美しい娘である。
「まさか、ラシータ様?」
「クロダ、俺に力を貸してくれないか?国王は魔界と戦争をしようとしてるんだろう?」
クロダは辺りを窺った。誰もいないことを確認する。ここは王都の傍の山の麓に建てられている倉庫の中だ。ここには武器という武器が置かれている。最近は特に武器の輸入に力を入れており、クロダはきな臭さを感じていた。
「クロダはちゃんと持っていてくれたんだな」
クロダはハッとなって胸元に提げたネックレスを握った。石は真紅。ラシータの魔力を物質化したものである。ラシータが友好の証として相手に渡しているものだ。この石は邪念を跳ね除ける力を持つ。
「ラシータ様、一体何がどうなっているのです?」
クロダの悲痛な叫びに、ラシータはまあ待てと彼を制した。
「俺を憎む魔女が国王を唆したんだ。大量の武器がここに入ってきたろ?魔界に攻め込むなら今だってな」
「ですが、ラシータ様は最強。武器など効かないのでは」
ラシータはニヤリと笑った。
「確かに俺は最強だ。だが魔界全てまでは守りきれない。魔女にとってはそれだけでも嬉しいのだろう」
「なんと卑しい。ラシータ様、俺もあなたに従います。手伝わせてください」
「クロダ、俺に言わせてくれ」
「ラシータ様?」
ラシータはクロダに頭を下げた。
「クロダ、お前の力を貸して欲しい」
クロダは笑みをこぼしていた。
「は、喜んでお力になります」
✢
「こちらになります」
「ふぅん、色々あるもんだな」
ラシータは侍女の姿のまま、クロダに武器庫を案内させた。今は真夜中だ。もし、見られてもクロダと逢引に来ているようにしか見えない。ラシータは背伸びをして、手榴弾を手にした。それをスカートのポケットにねじ込んでいる。
「ラシータ様、それ、使うんですか?」
クロダが若干呆れながら問うと、ラシータはにやりと笑った。
「1回投げてみたかったんだ。これ、爆発するんだろ?」
あなたの魔法より遥かに威力は下です、とクロダはとても言えない。他にもラシータは武器庫を見て回る。
「これが使えなくなっても、魔女は全然困らないんだろうな」
「まぁ、そうですよね」
「よし、燃やすか」
「え」
ラシータが胸を仰け反らせて笑った。
「いいだろ?花火みたいになるぞー!」
花火にはなりませんよ!とクロダは慌てて制止しようとしたが、もう遅かった。ラシータが強力な炎魔法を放っていたからだ。
「よし、クロダ、走るぞ!」
「は!」
2人は全力で倉庫から離れた。その間にも倉庫はどんどん燃えていく。そしてついにはドォンと大きく爆発したのだった。空気が震えている。クロダとラシータは爆発の痕を見つめていた。
✢
「ラシータ様?」
ラシータはお決まりの猫の姿になって、ココレシュアに抱き上げられていた。
「だって…」
「だって、じゃないでしょ。なにも全部一気に爆破させなくても」
そう、ラシータはココレシュアに叱られているのだった。
「いや、止めなかった自分も悪いんです」
ココレシュアを宥めるようにクロダが言葉を挟んだ。実際クロダは止めようとしていたのだが。
「クロダさん、あなたが止めていてもラシータ様は爆破させてましたよね?」
にっこり笑うココレシュアが怖い、とクロダはすごすご引き下がった。
「ラシータ様、めっ」
「はぁーい」
どうやら説教タイムは終わったようだとルーギルは判断した。ココレシュアはなんだかんだ言ってラシータに甘い。ルーギルは地図を示しながら話し始めた。
「どうやら使節団の足止めに成功したようです。現在このポイントにいる模様」
ラシータがじっと地図を眺める。
「ここならすぐだな」
ココレシュアはその言葉に驚いてしまった。そこまで既に30キロほど離れていたからだ。
「ラシータ様?すぐって…」
「俺はドラゴンにもなれるんだぞ」
「えぇ…」
ラシータはやはり規格外である。
「よし、使節団の所に行って奴らを回れ右させるか。行くぞ!みんな!」
ココレシュア、ルーギル、クロダはラシータに頷いてみせた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる