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千尋・加那太・真司・千晶

ホームパーティーをしよう!(11月)

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「え?あきくんたちとコスココ行くの?」

「あぁ、さっきメッセージが来てな。今度の週末、コスココで秋のセールがやるから一緒にどうかって。あそこ、会員にならないと買い物できないだろ?試しにってやつだ」

加那太はソファから立ち上がり、帰ってきたばかりの千尋からコートを預かった。シワにならないようハンガーに丁寧にかける。もう11月だ。子供の頃は長いと思っていた一年が駆け足で去っていく。

「あきのやつ、ホームパーティーしたいんだって。この前、子供預かったろ。その子たちも呼びたいらしい」

「あきくん、コミュ力高いなぁ」

「真司さんもな」

千尋と加那太は思わず笑ってしまった。

「なるほど、ホームパーティーの材料もそこで買うんだね」

「あぁ。俺も何品かおかず作るけど、リクエストあるか?あきとは相談して、何を作るかはもうほとんど決まってるんだけどな」

加那太は腕を組んだ。考えてみる。千晶と千尋のことだから、自分や真司の好きそうなおかずは作ってくれるだろう。

「ミートボールは?」

加那太の言葉に千尋はあぁ、と声を上げた。加那太は千尋の作る巨大ミートボールが大好きである。中心部にはチーズが入っている。

「いいぞ。量産するか」

「食べるー!」

じゅる、と加那太はよだれを垂らしそうになった。夕飯はこれからなので、とにかく空腹だ。加那太は市販のルゥを使い、シチューを作っていた。今日のシチューにはさつまいもが入っている。コマーシャルでやっていたのを参考にしてみたのだ。

「お、飯作ってくれたのか。ありがとうな」

千尋も気が付いたらしい。加那太はコンロに火を点けた。もうとにかく腹が減っている。千尋が手早くサラダを作ってくれた。

「いただきまーす」

二人で手を合わせ食べ始める。

「うーん、煮込みすぎた」

さつまいもの姿がどこにもない。やはり千尋のようには上手く作れない。だが、やらなければ何事も上達しない。次こそはと加那太は考えながら食べた。

「美味いぞ」

千尋が美味しそうに食べてくれたのが救いだった。
片付けを終えて、加那太は千晶と通話をしながらゲームで遊んでいる。

「デート?!」

千晶の口から飛び出してきた言葉に加那太は驚いてしまった。千晶が言うには、預かった子供に誘われたのだという。

「生意気ですよね。まだまだ子供なのに」

千晶の言葉に加那太は笑ってしまった。

「可愛いね、透馬くん、だっけ?」

「はい。なんか妙に気に入られちゃって」

加那太からすれば【それもそうだろうな】と思ってしまう。千晶はそれだけ魅力的な人物だ。

「まあ子供の言う事だし、そんなに心配はしてないんですが」

「あきくんが大好きになっちゃったんだね」

「俺、どこにでもいるおじさんですよ?」

「んー」

加那太は唸った。

「あきくんは可愛いからなぁ」

「かなさんに言われると困ります」

二人共が沈黙する。しばらくゲームに集中した。

「でも、デート楽しみだね。真司さんの言っていた通り、あきくんの嫌がることはしないんじゃないかな。だって透馬くん、いい子だし」

「はい。いい子なんですよね。ものすごく」

それから一時間程談笑しながらゲームを楽しんだ。

「あき、大丈夫そうなのか?」

千尋がPCから顔を上げて尋ねてくる。

「大丈夫って?」

加那太が聞き返すと、千尋が困ったように言った。

「あいつ、優しいからキスしてとか頼まれたらしちゃうんじゃないか?」

「えー!あきくんに限ってそれはないと…」

「絶対はないだろ、特に人付き合いで」

千尋の言う通りだ。加那太はなにも言えなかった。

✢✢✢

「わー!広ーい!」

週末になり、加那太たちイツメンは大型ショッピングセンターココスコに来ている。店も巨大だが、それを載せるカートもまた巨大だった。そして、それは商品もだ。

「なにこのキッチンタオル、でっか!」

加那太は朝からずっと子供のようにはしゃいでいる。
千尋は慎重に品定めをしていた。千晶と真司はもう何度も来て慣れている。買うものはもう決まっているようだ。

「すげえ金かかる気がするけど、実際使えば安いもんな」

「そうなんです、千尋さん。このお菓子の大容量のやつとか本当にお得で、保存も効きますし」

何故か千晶はここの販売員と化している。真司はそれに苦笑いしている。千尋は勧められた菓子を手に取り顔を上げた。

「加那、このお菓子…あれ?」

加那太の姿がどこにもない。

「どこ行った?あいつ…」

千晶はすかさずスマートフォンで電話を掛けている。だが繋がらない。

「繋がりません」

「千尋ー!!僕、これ食べるー!」

加那太が商品を持ってやって来た。ホッとする一同である。

「ばかやろ、心配するだろ!」

「ごめんなさい」

しゅんと加那太が小さくなる。加那太が持ってきたのはプルコギだった。

「あ、これお買い得なんですよ。調理も楽だしアレンジもききます」

千晶は依然販売員である。

「加那、他にお菓子もあるってさ。あとで見に行こう」

「うん」

千尋の言葉に加那太は笑って頷いた。千晶はミートパイ、サラダ、デザートを作る。そして、千尋は唐揚げ、おにぎり、サンドイッチを作ることになっているらしい。他の物に関しては出来合いの惣菜なんかで賄う。子供たちもいるので量はたっぷりめにというのが暗黙の了解だ。

「このサイズのピザなかなかないよな」

「美味しいです、お勧めですよ」

「あきくんならどこのお店でも勤まるね」

「そんなことは…」

加那太が褒めると千晶は顔を赤らめる。

「千晶は営業上手いからな。先輩の俺が言うんだから間違いない」

真司が太鼓判を押した。それからそれぞれ細々としたものを購入した。加那太は明日の千晶と透馬のデートが不安だった。だが千晶も大人である。加那太は千晶を信じている。明日の夜、結果を聞かせてほしいと千晶に頼み込んで、その日は解散となったのだ。

✢✢✢

次の日の朝、千晶はいつものように朝食を作っていた。
今日は脂ののった鮭の塩焼きと味噌汁、煮物である。玉子焼きは出汁を入れて焼き上げる。火を止めて味噌を溶かし味を見る。これで味噌汁も出来上がりだ。食卓に並べる。白飯も軽めによそう。納豆はネギを入れてかきまぜたものだ。

「おはよう、千晶」

「おはようございます、真司さん」

「お、鮭か。美味そうだな」

「結局今年は秋刀魚、無理そうです。小さくて高いし」

千晶がぼやくと、真司は笑った。

「千晶の作った飯なら何でも喜んで食べるけどな」

「真司さん…!」

真司の言葉にはいつもときめいてしまう千晶である。こんなに好きになれる人はもういないのだろう。

「千晶、食べよう」

真司が座る。千晶も向かいに座った。

「いただきます」

真司が早速納豆をご飯にかけている。そして美味そうに食べ始めた。

「どうですか?」

「あぁ、美味いな。味噌汁も好きな味だ」

千晶はこれが聞きたくて自炊を頑張っている節がある。真司に初めて弁当を作った日からずっとだ。真司が好きな味をずっとリサーチしてきた。

「この玉子焼き美味いな」

「出汁が入ってます」

「へー」

「あの、真司さん?」

千晶は真司を見上げた。真司が笑う。千晶が何を言おうとしているか分かっているようだ。

「心配するな、千晶」

「はい」

自分は大人なのだ。真司は自分を信じてくれている。
それに勇気づけられた。

「じゃあお昼は出前取ってくださいね?」

「楽しんでこいよ」

「はい、行ってきます」

今日の千晶は白いファーの付いた可愛らしいコートを着ている。店で一目惚れして買ったのだ。11月も中旬になれば冬が本格的に頭角を現してくる。
透馬とは駅前にある広場で待ち合わせをしていた。
時計を見ると待ち合わせまであと15分程か。

「千晶さん!」

スマートフォンを見ようとしたら透馬が駆け寄ってきた。デニムに黒色のブルゾンというシンプルな服装だ。

「久しぶり、千晶さん」

千晶は驚いていた。透馬の身長が伸びていたからだ。自分とほぼ変わらない。千晶は小柄だ。これではいずれあっさり抜かれてしまう。だが透馬はそんなことを気に留める様子もなかった。

「透馬くん、元気そうで」

透馬にぎゅうっと抱き締められる。

「会いたかった…」

千晶もホッとして彼を抱き締め返した。透馬は自分を保護者のように思っているのだと気が付いたからだ。
もし恋愛感情であれば、この年齢の子はそれに反発するだろう、千晶はそう思った。

「千晶さん、手」

千晶が差し出す間もなくぎゅっと握られてしまう。

「ねえ千晶さん。この前の喫茶店行こ」

「うん、いいけど。皆元気?」

「うん、色々あった」

「そう」

喫茶店は駅から離れていない。寒くなってきた頃だったので暖かい店内に入るとホッとする。

「あのね、ホームパーティー、本当に行っていいの?」

席に着きオーダーを済ませると、透馬が身を乗り出すようにして聞いてくる。

「もちろんいいよ。俺たちの友達も来るから」

「え?もしかして千晶さんのブログによく出てくる人?」

いつの間にかブログを読まれていたらしい。千晶は笑って頷いた。

「かなさんと千尋さんっていう人。皆でゲームとかしよう」

透馬がゲームと聞いて顔を輝かせた。だが、すぐにその表情を曇らせる。

「僕、あまりゲームとかやったことなくて」

「大丈夫。凛くんも出来るゲームだからね」

それなら、と透馬もホッとしたような顔をする。

「あれからお母様はどうなったの?」

ずっと気になっていたことだ。

「うん、母さんは向こうで倒れちゃって、なんとか帰国できたんだけど、今は入院してる」

だからあの時連絡が取れなかったのだ。それに少しホッとする千晶である。母親は決して子供を嫌ってやったわけではない、それだけでも随分違う。

「早く退院出来るといいね」

「うん。父さんが母さんの病院にお見舞いに行くから僕たちもついていくんだ」

両親の穏やかなやり取りに透馬たちもほっとするようだ。千晶は願った。このままいい方向に転がるようにと。それから注文したものがやってくる。千晶はカフェオレ、透馬はオレンジジュースだ。

「千晶さんはいつケーキを食べてるの?」

「えーと、仕事終わりとかかな」

「千晶さん可愛いな」

可愛いという言葉に千晶は笑ってしまった。この子はまだまだ世界を知らない。それだけ可能性を秘めている。千晶はスマートフォンを操作した。透馬に画面を見せる。

「このあと、映画観る?俺、面白そうなの探してきたよ」

「わぁ行くー!」

透馬が目を輝かせる。二人が観た映画は人気アニメ作品のスピンオフだった。千晶は何本かこの作品の考察を読んできている。【面白い】という評判通り面白かった。ポップコーンを食べている暇がなかったくらいだ。終わった後、二人で一生懸命食べた。

「面白かったー」

外に出ると雪がチラついている。都会の交通はちょっとした天候の崩れで止まってしまう。千晶が確認するとすでに運休している路線もあるようだ。

「わ、電車が止まってる」

透馬が困ったような声を上げる。

「真司さんに車で送ってもらおう。大丈夫だから。お父さんにも連絡しておいて」

「うん、ありがとう」

とりあえず近くにあったファストフード店でお昼を食べることにした。真司にメッセージを送ると、時間に来てくれるとのことだ。千晶は透馬に千円札を握らせた。

「これで買って」

「いいの?」

「今日のためにお小遣い貯めてきてくれたんでしょう?」

小学生の小遣いなど知れている。父親にもらっただろうが、他に欲しいものを買ってもらいたい。

「うん。ありがとう、千晶さん」

透馬が嬉しそうに笑って、一番大きなハンバーガーのセットを頼んでいた。千晶はパーティーに用意するつもりだったおかずの量をもう少し増やすことにした。もちろん、千尋にも頼んでおくのを忘れない。沢山食べる加那太もいるのでますますである。

二人はやって来たセットの載ったトレイを手に、空いているテーブルに向かった。透馬はよほど腹が減っていたらしい。貪るようにハンバーガーにかぶり付いた。
もきゅもきゅ、と噛み締めて飲み込む。

「最近、僕おかしいんだよね」

「?」

千晶が首を傾げると透馬は恥ずかしそうに言った。

「なんか、食べてもあまりお腹いっぱいにならないし、なにか怖い病気なのかなって」

「多分成長期だと思うよ」

「これが?」

「うん」

千晶が噴き出すのを堪えながら言うと透馬は改めて実感したらしい。

「僕、大人になるんだね」

「うん、なるよ」

それから二人は、迎えに来た真司の車に乗り込んで透馬の家に向かった。透馬の家はアパートだ。透馬がシートベルトを外す。

「透馬、パーティーの日は迎えに行くからな」

「ありがとう!真司さん!千晶さんも、またね!」

透馬が手を振りアパートに入っていく。

「千晶どうだった?」

「真司さん、材料がもっと要ります」

千晶は透馬の食欲について話したのだった。

「そうかあ、育ち盛りだもんな。かなさんも結構食べるし、また買い出しに行こう。

千晶は自宅に帰り夕食の支度を始めた。今日の夕飯はコロッケだ。油を温める。そう言えばと千晶は思い出していた。
加那太にデートがどうだったか説明するという案件がある。後でゲームをしながら通話をしようと決めて、千晶は仕度を再開した。

「千晶、今日はどうだったんだ?」

「映画を観に行ったんです。面白かった、真司さんとも行きたい」

「面白いって評判になってるもんな。また行こう」

「はい」

その後電話で加那太にもそう説明した。

「さすがあきくん。大人だねえ」

「心配かけてすみません。当日は千尋さん、かなり大変だと思うのですが」

「俺は大丈夫だ」

遠くからそんな声が聞こえて来たので千晶は嬉しくなった。

「千尋さん、お料理楽しみにしています。かなさんもゲームの用意お願いします」

「承知した」


***
パーティー当日。

「加那、ハムを切ってくれないか?」

「パンに挟むやつね」

「サンドイッチをとにかく作らなくちゃいけないんだ。腹が減ってゲームに集中できないなんて駄目だからな」

「さすが千尋。僕もいっぱい食べようっと」

「ゲームの用意は出来たのか?」

「ばっちり。人生ゲームで僕の技術を披露しよう」

「いかさまか」

「技術だってば」

二人でワイワイ言いながら料理を作る。ようやく仕度を終えて二人は千晶と真司の住むマンションに向かった。
パーティーの準備はほぼ整っている。
千尋が作った料理を並べると、完璧に整った。

「すごい、美味しそうなものがいっぱい並んでる」

透馬と凛ははじめ真司の後ろに隠れていたが、加那太と千尋を見て安心したのかそっと出て来た。

「美人ー」

凛が千尋を見上げて言う。千尋は凛を軽々と抱き上げた。

「美人じゃないぞ?おじさんだ」

「ふふ」

凛が嬉しそうに笑う。透馬が慌てたような顔をしたが千尋はしばらく凛を抱いたままなにやら話しかけていた。

「お父さん属性…あったんだ。千尋にも」

加那太がびっくりしていると、千晶も笑う。

「千尋さんはなんだかんだ誰にでも優しいですよね」

「加那さん、だよね?本当に可愛いや」

透馬が話しかけてきたので加那太は笑って頷いた。

「君が透馬くんか、初めまして」

「あの、僕。加那さんのゲーム配信観たことあって」

「え!そうなの?」

加那太からしたら衝撃の事実である。

「もう動きが本当にカッコよくて」

「ありがとう。ゲームは僕の唯一の得意分野だから。あとで技を教えてあげるね」

「いかさまを教えないでください」

千晶が呆れたように言う。パーティーでは各々好きな食べ物を取って食べた。千尋と千晶の料理もちろん全て美味い。あっという間に全てなくなってしまう。

「わー、美味しかったー!」

「うん、美味しい!」

凛の口の周りを千尋が拭いてやっている。

「お兄ちゃんありがと!」

すっかり打ち解けたようだ。

「さ、ゲームしよー!」

皆で沢山楽しんだ!

おわり
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