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千尋・加那太・真司・千晶
お財布の中身(辛いラーメン)
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それはある金曜日の夜のことだ。明日は土曜で俺も加那も休みだし、食料品やらなんやらを買いに、車でショッピングモールへ出かけようと加那と話していた。
そんな加那が自分のリュックをさっきからごそごそやっている。
「加那?なにか探してるのか?」
加那が怒られた子犬みたいにそろーっと俺を見た。
「もうお金ない…」
「は?」
「今日新作のプラモデルを買いに行ったんだけど、帰りに銀行寄るの忘れちゃった」
「プラモデルを早く作りたくてしょうがなかったんだろ」
加那がコクリと頷く。素直なのはいいけど。
「お前、今いくら持ってるんだ?」
「42円」
小学生だってもっと持っているだろうと俺は呆れてしまった。加那がお金を最低限にしか下ろさないのは知っているけれど、それで加那が困るのは避けてやりたい。俺ははっきり言った。
「大人なんだからもう少ししっかりしてくれ。金がなかったらいざという時困るだろう?」
「ごめんなさい」
加那が頭を下げてくる。まあ明日の買い物は全てカードで払うつもりだから別に構わない。
「まあいいけど。お前、クレカとかないんだっけ?」
「僕でも持てるの?」
「持てるよ。もしかしたらクレカの方がポイントもつくし、そっちのがお得かもな」
「…千尋はポイントカード持ってる?」
「クレカだけだけどな。俺はいつも決まった店でしか買い物しないし」
「千尋は無駄遣い嫌いだもんね。やたらじゃがいもは買ってくるけど」
それを言われると言い返せない俺がいる。にしても、加那の財布、すっかりくたびれてるな。里奈さんが就職祝いにくれた時にめちゃくちゃ喜んでそれきりか。それ、もう随分前だよな。
「加那、そろそろ新しい財布買うか?」
「やだー、まだ使えるもん」
加那は貧乏性だ。よく言えば物持ちがいい。リュックもそろそろ限界じゃないか?明日ショッピングモールへ行ったら、それとなく勧めてみるか。
加那は今日買ってきたと思われるプラモデルの部品を丁寧に処理している。
「千尋のお財布ってどうだっけ?」
「これか?」
加那に財布を手渡す。
「わ、お札が全部ピシってしてるー!レシートも入ってないし綺麗。やっぱりそこから僕とは違うんだなぁ」
「お前の財布の中身、相当カオスなんだな」
「普通はそうなるんだよ」
そうなのか?加那から財布を手渡される。
「あきくんたちの財布の中身も絶対綺麗だよね」
「確かに」
次の日、俺たちはショッピングモールへ向かった。加那のことだ、新作のゲームをチェックしたいだろう。そう思いながら駐車場に入ったら見覚えのある車がちょうどいた。
「あきくんたちだー!」
加那が助手席で歓声をあげる。むこうも気付いたようだな。手を振ると振り返してくる。降りるとあきが駆け寄ってくる。
「かなさん!千尋さん!偶然ですね!クレープ食べに来たんですか?」
「クレープ?」
加那が首を傾げる。
「ここにクレープの食べ放題のお店があるんです。俺、それにずっとチャレンジしたくって」
さすが人気スイーツブロガーの運営者だ。
「千晶、ちゃんと下調べしてきたんだよな」
「そうなんです。俺、そんなに食べられないかなって。でも元は頑張って取ります!」
真司さんは本当にいつも優しいな。あきが可愛いから余計だろう。完全にあきに惚れている。俺も人のこと言えないけど。
「千尋、僕もクレープ食べたい!」
やっぱりそう言うと思った。あきたちも先に買い物を済ませるらしい。一時間後にクレープ屋の前で待ち合わせることにした。俺たちは最初に衣料品売り場に向かった。もう夏が迫りつつある今、通気性の高い下着は大事だ。部屋着も新しくしたかった。加那のパジャマも買う。今日はポイントが2倍つくから必要な物は買わないともったいない。加那に色違いの商品を見せる。
「加那、どっちにする?」
「んー、こっち」
加那はパジャマは要らないと言ったけどそう言うわけにはいかない。だって、もうよれよれだからな。財布やリュックも勧めたけどいい、と断られてしまった。また折を見てだな。加那のゲームもその合間に見て、在庫がなかったので、注文も済ませてきた。ジャンルは加那の大好きなパズルゲームだ。ソシャゲからの移植らしい。ずっとやってみたかったと加那は満足気だ。
約束通り、クレープ屋の前に行くと、あきたちが見えた。結構店が混んでいるな。二人は席を取っておいてくれたらしい。今はあきと加那が俺たちの分までクレープを買いに行ってくれている。
「真司さん、最近暑いよな。職場がガンガン冷房効いているのに外に飯を食べに出ると暑すぎて…」
正直、真司さんには愚痴を聞いてもらってばかりいる。真司さんも頷いた。
「本当にそうだなぁ。千晶も最近、あまり食欲ないみたいで今日も五つはクレープを食べるって言ってるけど、どうかな」
「加那はその点全然平気なんで」
真司さんが俺の言葉に噴き出す。
「さすがかなさん」
「ですよね」
加那とあきの二人がクレープを両手に持って戻ってくる。加那はチョコアイスとブラウニーの入ったクレープにしたらしい。プラスチックのスプーンがアイスクリームに刺さっていた。俺は定番のチョコバナナだ。あきのは見るからにでかい。生クリームがたっぷり絞ってある。バニラアイスにカラースプレーが賑やかい。真司さんのはカスタードクリームがキャラメリゼしてある。おしゃれだな。
「いただきます」
各々一口齧りつく。クレープって久しぶりに食うと美味いな。あきは食べる前にクレープの写真を撮っていた。流石すぎる。ブログの更新が楽しみだ。
「おいしー!」
「味のメモしなきゃ」
あきがスマートフォンのメモ帳ツールを開いて文字を打ち込み始める。さすがスイーツブロガー。隙がない。俺たちはクレープと一緒に飲み物も頼んでいた。久しぶりにこういう店で食べた気がする。土日は大抵家でネットスーパーが届くのを待つことが多いもんなぁ。加那が大きな一口でアイスを食べている。さすが加那だな。
「アイスうんまい!ブラウニーも甘くて濃い!」
「あの、今日これから家に来ませんか?辛いラーメン沢山もらったんです」
「え、辛いラーメン?」
加那が飛び付いた。こいつ、辛いの食えないくせに好きだもんな。
「はい。トッポギも取り寄せてみたんです。お酒に合うかなって。辛いラーメンっていっても、そのままじゃなくて、ちょっとアレンジするから大丈夫かなって」
あきの女子力は計り知れないな。
「邪魔にならないなら行かせてもらう」
「邪魔なんてそんなことありません!あ、でも食料品買うなら一度お家に戻りますか?」
「あー、ならなんかお菓子とか持ってくよ」
「わ、ありがとうございます!お菓子嬉しいです」
あきは本当にお菓子が好きだな。あきたちはこれから食べ放題をするからとクレープ屋で別れた。ん?待てよ。
「あきのやつ、夕飯食えるのか?食べ放題って結構食べるんじゃ、確か5つは食うって聞いたぞ」
「あきくん、見た目の割に意外と食べられるよね」
「お前が言うなら間違いないな」
「まあねー」
俺たちは食料品を買い込んだ。5%オフのポイント2倍は助かる。玉子が最近高いんだよな。なんでも高くなってきて困る。
「千尋ー、ピザ食べたぁい!」
加那が大きなピザを持ってきた。
「あぁ、ならそれ持ってくか」
「ヤッタ」
買い物を済ませて、家に戻った。冷蔵庫にしまう作業が俺は地味に嫌いだ。加那も手伝ってくれる。
「あきくん、クレープいくつ食べられたのかな?」
「あきは根性あるからな」
「本当だ」
あはは、と加那が笑っている。とりあえず持っていくものはピザとスナック菓子とチョコレート菓子、プリンでいいか。プリンは最近加那がハマっているやつで、少し固めのものだ。喫茶店で食べられるような本格的なやつで、値段も少し張るけれど加那が喜ぶならいくらでも買う。
そんな調子で俺たちは車に乗り込んだ。
「忘れ物ないよな?」
「うん、全部持ってきた!」
「じゃあ行くぞ」
「はーい」
✢✢✢
インターフォンを鳴らすと真司さんが出てくれた。中に入るとでかいホットプレートがテーブルに置かれている。まさかあれで作る気か?何人分出来るんだろう?
「真司さん、お菓子だよー」
「お、ありがとう、かなさん。いっぱい持ってきたなぁ」
「うん!」
加那と真司さんの会話って小さい娘とお父さんみたいでほんわかするんだよな。
あきがエプロン姿でやってきた。
「ちょうどよかったです。今、お湯沸かしてて」
「俺も手伝う」
「ありがとうございます」
カバンからエプロンを取り出して着ける。ピザを切り分けて温めた。加那と真司さんには食器やらなんやらを運んでもらう。
「ラーメンはほとんどホットプレートで調理出来るんですけど、トッポギは茹でたほうがいいと思って」
「なるほど」
俺はトッポギと初対面だ。お湯はそのために沸かしていたらしいな。
あきが生クリームやら牛乳やらを冷蔵庫から取り出した。え、ラーメンだろ?俺が固まっているとあきが綺麗に笑った。
「今日はアレンジです!」
そんなこんなでラーメンが出来上がった。
ピンク色のクリームが麺とトッポギに絡みついている。豚バラ肉がどん、と上に載っているのが美味そうだな。
「美味しそう!」
「食べてみましょう」
「いただきます」
みんなで手を合わせる。あきがトングでラーメンを取り分けてくれた。チーズも載っているのがまた美味そうだ。
「へえ、美味いな」
「うん、辛いけど食べられる」
真司さんも加那もずるずる麺を食べている。辛味がマイルドになって確かに美味いな。トッポギももちもちしている。
「あき、お前、腹大丈夫か?食べ放題したんだよな?」
一応尋ねるとあきが笑う。
「今日はこれも含めて限界食いしようかなって」
うん、さすがあきだった。
「クレープいくつ食べたのー?」
「3つです。また行きたいな。今度は加那さんも食べ放題で食べましょう」
「うん!」
加那が食べ放題で食べたりしたら、お店に迷惑をかけないか心配だ。
✢✢✢
「財布ですか?」
プリンをつつきながらあきが首を傾げている。
どうやらプリンは好評だったようだ。あきがおもむろに財布を取り出した。あきの財布はシンプルな黒い財布だった。加那が許可を得て中身を見ている。あきの財布にはあまり金が入っていないようだ。電子マネーで払うことがほとんどらしい。今時って感じだな。
「メモとかいっぱい入ってる…」
「はい、買うものリストですね。実はメモするの好きでブログネタを書くのもアナログです」
さすが人気スイーツブロガー。
「あきくんも千尋と同じタイプでお札がぴしってなってる!」
「だからそれが普通なんだよ」
真司さんも財布を見せてくれた。最近あきから財布をもらったと嬉しそうに話していた。青のブランドものだ。あきのことだから奮発したんだろう。
「真司さんの小銭入れ、小銭がちゃんと分けてある」
「あぁ、よくコーヒー飲むからな。会社では電子マネーも使うけど」
真司さんはどちらかといえば現金派らしい。ポイントカードも持っていないようだ。財布って個性が出て面白いな。
明日は家でゆっくりしよう。今日も楽しかったな。
おわり
そんな加那が自分のリュックをさっきからごそごそやっている。
「加那?なにか探してるのか?」
加那が怒られた子犬みたいにそろーっと俺を見た。
「もうお金ない…」
「は?」
「今日新作のプラモデルを買いに行ったんだけど、帰りに銀行寄るの忘れちゃった」
「プラモデルを早く作りたくてしょうがなかったんだろ」
加那がコクリと頷く。素直なのはいいけど。
「お前、今いくら持ってるんだ?」
「42円」
小学生だってもっと持っているだろうと俺は呆れてしまった。加那がお金を最低限にしか下ろさないのは知っているけれど、それで加那が困るのは避けてやりたい。俺ははっきり言った。
「大人なんだからもう少ししっかりしてくれ。金がなかったらいざという時困るだろう?」
「ごめんなさい」
加那が頭を下げてくる。まあ明日の買い物は全てカードで払うつもりだから別に構わない。
「まあいいけど。お前、クレカとかないんだっけ?」
「僕でも持てるの?」
「持てるよ。もしかしたらクレカの方がポイントもつくし、そっちのがお得かもな」
「…千尋はポイントカード持ってる?」
「クレカだけだけどな。俺はいつも決まった店でしか買い物しないし」
「千尋は無駄遣い嫌いだもんね。やたらじゃがいもは買ってくるけど」
それを言われると言い返せない俺がいる。にしても、加那の財布、すっかりくたびれてるな。里奈さんが就職祝いにくれた時にめちゃくちゃ喜んでそれきりか。それ、もう随分前だよな。
「加那、そろそろ新しい財布買うか?」
「やだー、まだ使えるもん」
加那は貧乏性だ。よく言えば物持ちがいい。リュックもそろそろ限界じゃないか?明日ショッピングモールへ行ったら、それとなく勧めてみるか。
加那は今日買ってきたと思われるプラモデルの部品を丁寧に処理している。
「千尋のお財布ってどうだっけ?」
「これか?」
加那に財布を手渡す。
「わ、お札が全部ピシってしてるー!レシートも入ってないし綺麗。やっぱりそこから僕とは違うんだなぁ」
「お前の財布の中身、相当カオスなんだな」
「普通はそうなるんだよ」
そうなのか?加那から財布を手渡される。
「あきくんたちの財布の中身も絶対綺麗だよね」
「確かに」
次の日、俺たちはショッピングモールへ向かった。加那のことだ、新作のゲームをチェックしたいだろう。そう思いながら駐車場に入ったら見覚えのある車がちょうどいた。
「あきくんたちだー!」
加那が助手席で歓声をあげる。むこうも気付いたようだな。手を振ると振り返してくる。降りるとあきが駆け寄ってくる。
「かなさん!千尋さん!偶然ですね!クレープ食べに来たんですか?」
「クレープ?」
加那が首を傾げる。
「ここにクレープの食べ放題のお店があるんです。俺、それにずっとチャレンジしたくって」
さすが人気スイーツブロガーの運営者だ。
「千晶、ちゃんと下調べしてきたんだよな」
「そうなんです。俺、そんなに食べられないかなって。でも元は頑張って取ります!」
真司さんは本当にいつも優しいな。あきが可愛いから余計だろう。完全にあきに惚れている。俺も人のこと言えないけど。
「千尋、僕もクレープ食べたい!」
やっぱりそう言うと思った。あきたちも先に買い物を済ませるらしい。一時間後にクレープ屋の前で待ち合わせることにした。俺たちは最初に衣料品売り場に向かった。もう夏が迫りつつある今、通気性の高い下着は大事だ。部屋着も新しくしたかった。加那のパジャマも買う。今日はポイントが2倍つくから必要な物は買わないともったいない。加那に色違いの商品を見せる。
「加那、どっちにする?」
「んー、こっち」
加那はパジャマは要らないと言ったけどそう言うわけにはいかない。だって、もうよれよれだからな。財布やリュックも勧めたけどいい、と断られてしまった。また折を見てだな。加那のゲームもその合間に見て、在庫がなかったので、注文も済ませてきた。ジャンルは加那の大好きなパズルゲームだ。ソシャゲからの移植らしい。ずっとやってみたかったと加那は満足気だ。
約束通り、クレープ屋の前に行くと、あきたちが見えた。結構店が混んでいるな。二人は席を取っておいてくれたらしい。今はあきと加那が俺たちの分までクレープを買いに行ってくれている。
「真司さん、最近暑いよな。職場がガンガン冷房効いているのに外に飯を食べに出ると暑すぎて…」
正直、真司さんには愚痴を聞いてもらってばかりいる。真司さんも頷いた。
「本当にそうだなぁ。千晶も最近、あまり食欲ないみたいで今日も五つはクレープを食べるって言ってるけど、どうかな」
「加那はその点全然平気なんで」
真司さんが俺の言葉に噴き出す。
「さすがかなさん」
「ですよね」
加那とあきの二人がクレープを両手に持って戻ってくる。加那はチョコアイスとブラウニーの入ったクレープにしたらしい。プラスチックのスプーンがアイスクリームに刺さっていた。俺は定番のチョコバナナだ。あきのは見るからにでかい。生クリームがたっぷり絞ってある。バニラアイスにカラースプレーが賑やかい。真司さんのはカスタードクリームがキャラメリゼしてある。おしゃれだな。
「いただきます」
各々一口齧りつく。クレープって久しぶりに食うと美味いな。あきは食べる前にクレープの写真を撮っていた。流石すぎる。ブログの更新が楽しみだ。
「おいしー!」
「味のメモしなきゃ」
あきがスマートフォンのメモ帳ツールを開いて文字を打ち込み始める。さすがスイーツブロガー。隙がない。俺たちはクレープと一緒に飲み物も頼んでいた。久しぶりにこういう店で食べた気がする。土日は大抵家でネットスーパーが届くのを待つことが多いもんなぁ。加那が大きな一口でアイスを食べている。さすが加那だな。
「アイスうんまい!ブラウニーも甘くて濃い!」
「あの、今日これから家に来ませんか?辛いラーメン沢山もらったんです」
「え、辛いラーメン?」
加那が飛び付いた。こいつ、辛いの食えないくせに好きだもんな。
「はい。トッポギも取り寄せてみたんです。お酒に合うかなって。辛いラーメンっていっても、そのままじゃなくて、ちょっとアレンジするから大丈夫かなって」
あきの女子力は計り知れないな。
「邪魔にならないなら行かせてもらう」
「邪魔なんてそんなことありません!あ、でも食料品買うなら一度お家に戻りますか?」
「あー、ならなんかお菓子とか持ってくよ」
「わ、ありがとうございます!お菓子嬉しいです」
あきは本当にお菓子が好きだな。あきたちはこれから食べ放題をするからとクレープ屋で別れた。ん?待てよ。
「あきのやつ、夕飯食えるのか?食べ放題って結構食べるんじゃ、確か5つは食うって聞いたぞ」
「あきくん、見た目の割に意外と食べられるよね」
「お前が言うなら間違いないな」
「まあねー」
俺たちは食料品を買い込んだ。5%オフのポイント2倍は助かる。玉子が最近高いんだよな。なんでも高くなってきて困る。
「千尋ー、ピザ食べたぁい!」
加那が大きなピザを持ってきた。
「あぁ、ならそれ持ってくか」
「ヤッタ」
買い物を済ませて、家に戻った。冷蔵庫にしまう作業が俺は地味に嫌いだ。加那も手伝ってくれる。
「あきくん、クレープいくつ食べられたのかな?」
「あきは根性あるからな」
「本当だ」
あはは、と加那が笑っている。とりあえず持っていくものはピザとスナック菓子とチョコレート菓子、プリンでいいか。プリンは最近加那がハマっているやつで、少し固めのものだ。喫茶店で食べられるような本格的なやつで、値段も少し張るけれど加那が喜ぶならいくらでも買う。
そんな調子で俺たちは車に乗り込んだ。
「忘れ物ないよな?」
「うん、全部持ってきた!」
「じゃあ行くぞ」
「はーい」
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インターフォンを鳴らすと真司さんが出てくれた。中に入るとでかいホットプレートがテーブルに置かれている。まさかあれで作る気か?何人分出来るんだろう?
「真司さん、お菓子だよー」
「お、ありがとう、かなさん。いっぱい持ってきたなぁ」
「うん!」
加那と真司さんの会話って小さい娘とお父さんみたいでほんわかするんだよな。
あきがエプロン姿でやってきた。
「ちょうどよかったです。今、お湯沸かしてて」
「俺も手伝う」
「ありがとうございます」
カバンからエプロンを取り出して着ける。ピザを切り分けて温めた。加那と真司さんには食器やらなんやらを運んでもらう。
「ラーメンはほとんどホットプレートで調理出来るんですけど、トッポギは茹でたほうがいいと思って」
「なるほど」
俺はトッポギと初対面だ。お湯はそのために沸かしていたらしいな。
あきが生クリームやら牛乳やらを冷蔵庫から取り出した。え、ラーメンだろ?俺が固まっているとあきが綺麗に笑った。
「今日はアレンジです!」
そんなこんなでラーメンが出来上がった。
ピンク色のクリームが麺とトッポギに絡みついている。豚バラ肉がどん、と上に載っているのが美味そうだな。
「美味しそう!」
「食べてみましょう」
「いただきます」
みんなで手を合わせる。あきがトングでラーメンを取り分けてくれた。チーズも載っているのがまた美味そうだ。
「へえ、美味いな」
「うん、辛いけど食べられる」
真司さんも加那もずるずる麺を食べている。辛味がマイルドになって確かに美味いな。トッポギももちもちしている。
「あき、お前、腹大丈夫か?食べ放題したんだよな?」
一応尋ねるとあきが笑う。
「今日はこれも含めて限界食いしようかなって」
うん、さすがあきだった。
「クレープいくつ食べたのー?」
「3つです。また行きたいな。今度は加那さんも食べ放題で食べましょう」
「うん!」
加那が食べ放題で食べたりしたら、お店に迷惑をかけないか心配だ。
✢✢✢
「財布ですか?」
プリンをつつきながらあきが首を傾げている。
どうやらプリンは好評だったようだ。あきがおもむろに財布を取り出した。あきの財布はシンプルな黒い財布だった。加那が許可を得て中身を見ている。あきの財布にはあまり金が入っていないようだ。電子マネーで払うことがほとんどらしい。今時って感じだな。
「メモとかいっぱい入ってる…」
「はい、買うものリストですね。実はメモするの好きでブログネタを書くのもアナログです」
さすが人気スイーツブロガー。
「あきくんも千尋と同じタイプでお札がぴしってなってる!」
「だからそれが普通なんだよ」
真司さんも財布を見せてくれた。最近あきから財布をもらったと嬉しそうに話していた。青のブランドものだ。あきのことだから奮発したんだろう。
「真司さんの小銭入れ、小銭がちゃんと分けてある」
「あぁ、よくコーヒー飲むからな。会社では電子マネーも使うけど」
真司さんはどちらかといえば現金派らしい。ポイントカードも持っていないようだ。財布って個性が出て面白いな。
明日は家でゆっくりしよう。今日も楽しかったな。
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