真実のひとつ

はやしかわともえ

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タクマ

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タクマからの電話ははじめは無視しようと思った。
でもスマホは鳴り続けている。
あたしは仕方なく電話に出た。

「もしもし」

「アカリ、今いいか?」

「いいけど、何?」

こんな言い方しか出来ない自分が嫌になる。
タクマはなにも悪くない。

「そっか、よかった」

タクマは全く気分を害してないようだ。
やっぱりリーダーになると、懐が深くなるのかな。

「アカリ、今から出てこれねえ?無理ならいいけどさ」

もう夕方六時になる。
あたしはしばらく迷って行くことに決めた。

「どこにいるの?」

「ホントに来てくれるのか?」

タクマは驚いているようだった。
あたしはそのままカバンを掴んで家を飛び出していた。

タクマが指定してきたのはあたしの家から近いファミリーレストランだった。

店に入ってドリンクバーを頼む。
温かいコーヒーを取りに行った。

(お腹すいたな)

まだ夕飯を食べる前だった。
そういえば出かけることを誰にも伝えないまま来てしまった。

(まぁいっか)

ここからならすぐ帰れるし。

「アカリ!」

タクマがやってくる。久しぶりに会った。
ピアスの数が増えている。あたしの向かいに座る。

「あ、ドリンクバー頼んだんだ?
俺もそうしよ」

「タクマ?変装とかしなくて平気なの?」

小声で聞く。葵もそうだけど、無防備にも程がある。

「え?俺達、そんな有名じゃないしね?」

いやいや。

あたしの視線に気が付いたのか、タクマはハイハイと呟いて、パーカーのフードを被ってみせた。

「これでいい?あぁ?」

「いいよ」

高校時代、タクマはあたしを「あぁ」と呼んでいた。
懐かしい。

「でさ、今日のことなんだけど」

タクマが持ってきた炭酸飲料を飲み干して言う。すると、タクマがあたしの方を見て固まった。
どうしたんだろう?
あたしもそっちを見た。

「私もご一緒してよろしいですか?」

「ひ、一津さん?!」

テーブルの下から一津さんがひょこ、と顔を出している。
いつものゴスロリではなかった。
眼鏡をかけているし、普段と全然雰囲気が違う。
でも、間違いなく一津さんだ。

「あんたは一体?」

タクマが困惑するのも無理はない。
なにせ初対面なんだから。
一津さんは迷いなくあたしの隣に腰掛けた。

「私は柳瀬一津と申します。
アカリちゃんのお友達です」

「はぁ、どうも」

タクマが困っているのが分かる。
あたしもどうしたらいいのかよくわからない。

「で、タクマさん、と言いましたね?
アカリちゃんになんのお話が?」

タクマは困ったようにあたしを見て、こう言った。

「や、アカリが落ち込んでたら心配だし?
葵も不安がってたから」

タクマはずっとあたし達を想って行動してくれていたらしい。
一津さんはずず、とお茶を飲んだ。

「でしたら、私にもタクマさんにお話が」

一津さんが何か言おうとした瞬間だった。
ガチャン、と何かが割れる音。そして悲鳴。

「なに?」

「アカリちゃん、ここにいてください」

「でも」

「動くなぁ!!」

男の野太い声が店内に響き渡る。
何が起こってるんだろう。
あたしは怖くなってスマホを握り締めた。

「全員大人しくこっちへ来い!」

店内は広かった。まだ状況が分からない。
それは向こうにとってもだ。
あたしはスマホをスカートの腰元に隠した。

男が女の人の首にナイフを突き付けてる。

「こいつをこれから殺す!
俺を金づる扱いした罰だ!」

「ごめんなさい!許して!」

男はどう見ても酔っ払っている。
でも女性に何かあれば困る。
早く警察を呼ばないと。

あたしはテーブルの下にそっと潜り込んだ。
ここからなら、連絡できる。
スマホを取り出して電話をかけた。

「おい!なにやってんだ!!」

あたしは首を掴まれてテーブルの下から引きずり出された。
痛い。

「くそお、どいつもこいつもなめやがって!殺してやる!」

あたしにナイフが振り下ろされる。
あたしは目を閉じた。

「いだだだだ」

男の呻き声。
目を開けると、タクマが男の腕を掴んで締め上げていた。
そうだった。タクマってめちゃくちゃ喧嘩強かった。
一津さんは捕まっていた女性の手当をしてくれていた。

「あぁに触らないでよね、おじさん」

「すまない、いだい、ゆるじで」

それからすぐ、警察と救急車が来た。
あたしは検査のため、救急車に乗ることになってしまった。
そのあと葵から電話が来て、散々怒られた。
お母さんにもだ。
これから葵が迎えに来てくれるという。

「タクマ、一津さん、ありがとう」

検査を終えて、病院で葵を待っている間も、二人は側にいてくれた。
大変な一日になってしまった。

「あーちゃん!」

「アオ!」

葵が駆け寄ってくる。

「心配したよ!」

「うん、ごめんね」


「アカリちゃん、私はこれで」

「俺も帰るわ。あぁを頼むぞ、アオ」

二人を見送る。

「あーちゃん、ハーレムできるんじゃない?」  

「え?ハーレム?なんで?」

葵はまぁいいや、とあたしの手を掴んで歩き出した。車に乗り込む。

「お母さんがご飯片付かないって怒ってるよ?」

「あちゃー」

葵の運転する車に乗るの、久しぶりだな。
あたしはいつのまにか眠っていた。

おわり
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