黄金の瞳を持つのは聖女様?〜黄金の月〜

はやしかわともえ

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四章

十四話・正体

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「グルルルル」

「アムデル様、下がっていてください」

森を抜けた先で待っていたのは、巨大な獅子だった。黒い皮膚が雨で濡れてテカテカと光っている。ナナセとハンマーは構えた。ウウウ、と獅子が唸り声をあげている。そんな威嚇に負けるナナセとハンマーではない。彼らは獅子に向かって威圧した。獅子は一瞬それに怯むが、自分の役目を投げ出して逃げるつもりはないらしく、二人に向かってくる。

「ライオン鍋って美味しいかな?」

「…」

冗談を言いながらナナセが杖を振るうと、獅子に斬撃が入る。ハンマーも答えずに、獅子に拳を振り下ろした。二人は強い。巨大な獅子が丸くなって震えている。

「ナナセ、ハンマー、もう大丈夫でしょう」

アムデルの言葉に、二人は彼女のそばで膝をついた。アムデルは獅子の身体に触れた。みるみるうちに獅子は小さくなる。アムデルの魔力はナナセの知らないものだ。まだまだだとナナセは気を引き締める。

「いい子、私たちを案内なさい」

アムデルの優しい言葉に獅子も気力を取り戻したらしい。一行の先陣をきって歩き出した。そこは美しい庭だった。庭の西側に噴水があり、綺麗な透き通った水がとめどなく吹き出している。周りにある植物たちも美しさを誇示するかのようにそれぞれ茂っていた。誰かが丁寧に手をかけていなければこうはならない。

「あなただったのね」

アムデルはその人にこう声を掛けたのだった。

✢✢✢

サーラとシルジは二人でシルジが元々暮らす時代に来ている。以前来た時とはがらりと環境が変わっていた。空は青く自然にあふれている。神々が殺されていない世界だ。

「これが本来のアデス…」

シルジはしばらくキョロキョロしていた。そしてサーラを見つめる。

「マサムネの母さんは国の医療センターにいる。バス停に行こう」

サーラは頷き、シルジの後を付いていった。彼女は呪われているかもしれないとラーは言っていた。だからいくら治療をしても症状が改善しないのでは…と。サーラは右手をぎゅ、と握った。

「サーラ?」

「いや、前に来た時とは随分環境が変わっているなと思ってな」

「俺もそう思う。でも俺が小さい時はこれが普通だったんだよ。王族が神に殺されたっていう噂が周りに広がるまでは」

「その王族って誰なんだ?私の義母様も神に殺されたとお前は言っていたな?」

シルジは頷いた。

「そう、確か、アムデル女王とデュース国王の二人だ」

「え?」

サーラは驚いた。デュースというのはシンの父親で、シンとサーラが12の時に病死している。

「義父様が生きていたのか?シンはいなかったみたいだが」

「あぁ、シンは俺たちの次元にはいない。そしてアンタやナオもいない。俺たちは完全に分断された次元にいるんだ。というか分断されてしまったんだろうな。俺たちがこうして行き来してしまったから余計に…」

「そうか…」

サーラは握っていた右手を開いた。そこには薄紫の石がある。

「この石は?」

「神々の痕跡だ。私が浄化して改めて祈りを込めてある。マサムネの母様が元気になるようにと」

「サーラ、やっぱりアンタは聖女だ!」

シルジがニっと笑った。
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