53 / 58
四章
十四話・正体
しおりを挟む
「グルルルル」
「アムデル様、下がっていてください」
森を抜けた先で待っていたのは、巨大な獅子だった。黒い皮膚が雨で濡れてテカテカと光っている。ナナセとハンマーは構えた。ウウウ、と獅子が唸り声をあげている。そんな威嚇に負けるナナセとハンマーではない。彼らは獅子に向かって威圧した。獅子は一瞬それに怯むが、自分の役目を投げ出して逃げるつもりはないらしく、二人に向かってくる。
「ライオン鍋って美味しいかな?」
「…」
冗談を言いながらナナセが杖を振るうと、獅子に斬撃が入る。ハンマーも答えずに、獅子に拳を振り下ろした。二人は強い。巨大な獅子が丸くなって震えている。
「ナナセ、ハンマー、もう大丈夫でしょう」
アムデルの言葉に、二人は彼女のそばで膝をついた。アムデルは獅子の身体に触れた。みるみるうちに獅子は小さくなる。アムデルの魔力はナナセの知らないものだ。まだまだだとナナセは気を引き締める。
「いい子、私たちを案内なさい」
アムデルの優しい言葉に獅子も気力を取り戻したらしい。一行の先陣をきって歩き出した。そこは美しい庭だった。庭の西側に噴水があり、綺麗な透き通った水がとめどなく吹き出している。周りにある植物たちも美しさを誇示するかのようにそれぞれ茂っていた。誰かが丁寧に手をかけていなければこうはならない。
「あなただったのね」
アムデルはその人にこう声を掛けたのだった。
✢✢✢
サーラとシルジは二人でシルジが元々暮らす時代に来ている。以前来た時とはがらりと環境が変わっていた。空は青く自然にあふれている。神々が殺されていない世界だ。
「これが本来のアデス…」
シルジはしばらくキョロキョロしていた。そしてサーラを見つめる。
「マサムネの母さんは国の医療センターにいる。バス停に行こう」
サーラは頷き、シルジの後を付いていった。彼女は呪われているかもしれないとラーは言っていた。だからいくら治療をしても症状が改善しないのでは…と。サーラは右手をぎゅ、と握った。
「サーラ?」
「いや、前に来た時とは随分環境が変わっているなと思ってな」
「俺もそう思う。でも俺が小さい時はこれが普通だったんだよ。王族が神に殺されたっていう噂が周りに広がるまでは」
「その王族って誰なんだ?私の義母様も神に殺されたとお前は言っていたな?」
シルジは頷いた。
「そう、確か、アムデル女王とデュース国王の二人だ」
「え?」
サーラは驚いた。デュースというのはシンの父親で、シンとサーラが12の時に病死している。
「義父様が生きていたのか?シンはいなかったみたいだが」
「あぁ、シンは俺たちの次元にはいない。そしてアンタやナオもいない。俺たちは完全に分断された次元にいるんだ。というか分断されてしまったんだろうな。俺たちがこうして行き来してしまったから余計に…」
「そうか…」
サーラは握っていた右手を開いた。そこには薄紫の石がある。
「この石は?」
「神々の痕跡だ。私が浄化して改めて祈りを込めてある。マサムネの母様が元気になるようにと」
「サーラ、やっぱりアンタは聖女だ!」
シルジがニっと笑った。
「アムデル様、下がっていてください」
森を抜けた先で待っていたのは、巨大な獅子だった。黒い皮膚が雨で濡れてテカテカと光っている。ナナセとハンマーは構えた。ウウウ、と獅子が唸り声をあげている。そんな威嚇に負けるナナセとハンマーではない。彼らは獅子に向かって威圧した。獅子は一瞬それに怯むが、自分の役目を投げ出して逃げるつもりはないらしく、二人に向かってくる。
「ライオン鍋って美味しいかな?」
「…」
冗談を言いながらナナセが杖を振るうと、獅子に斬撃が入る。ハンマーも答えずに、獅子に拳を振り下ろした。二人は強い。巨大な獅子が丸くなって震えている。
「ナナセ、ハンマー、もう大丈夫でしょう」
アムデルの言葉に、二人は彼女のそばで膝をついた。アムデルは獅子の身体に触れた。みるみるうちに獅子は小さくなる。アムデルの魔力はナナセの知らないものだ。まだまだだとナナセは気を引き締める。
「いい子、私たちを案内なさい」
アムデルの優しい言葉に獅子も気力を取り戻したらしい。一行の先陣をきって歩き出した。そこは美しい庭だった。庭の西側に噴水があり、綺麗な透き通った水がとめどなく吹き出している。周りにある植物たちも美しさを誇示するかのようにそれぞれ茂っていた。誰かが丁寧に手をかけていなければこうはならない。
「あなただったのね」
アムデルはその人にこう声を掛けたのだった。
✢✢✢
サーラとシルジは二人でシルジが元々暮らす時代に来ている。以前来た時とはがらりと環境が変わっていた。空は青く自然にあふれている。神々が殺されていない世界だ。
「これが本来のアデス…」
シルジはしばらくキョロキョロしていた。そしてサーラを見つめる。
「マサムネの母さんは国の医療センターにいる。バス停に行こう」
サーラは頷き、シルジの後を付いていった。彼女は呪われているかもしれないとラーは言っていた。だからいくら治療をしても症状が改善しないのでは…と。サーラは右手をぎゅ、と握った。
「サーラ?」
「いや、前に来た時とは随分環境が変わっているなと思ってな」
「俺もそう思う。でも俺が小さい時はこれが普通だったんだよ。王族が神に殺されたっていう噂が周りに広がるまでは」
「その王族って誰なんだ?私の義母様も神に殺されたとお前は言っていたな?」
シルジは頷いた。
「そう、確か、アムデル女王とデュース国王の二人だ」
「え?」
サーラは驚いた。デュースというのはシンの父親で、シンとサーラが12の時に病死している。
「義父様が生きていたのか?シンはいなかったみたいだが」
「あぁ、シンは俺たちの次元にはいない。そしてアンタやナオもいない。俺たちは完全に分断された次元にいるんだ。というか分断されてしまったんだろうな。俺たちがこうして行き来してしまったから余計に…」
「そうか…」
サーラは握っていた右手を開いた。そこには薄紫の石がある。
「この石は?」
「神々の痕跡だ。私が浄化して改めて祈りを込めてある。マサムネの母様が元気になるようにと」
「サーラ、やっぱりアンタは聖女だ!」
シルジがニっと笑った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?


私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる