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四章
十三話・森の先には
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「怖いなあ、怖いなぁ、何か出そうだなぁ」
「ナナセ、歩きニクイダロウ。アンマリくっつクナ」
ナナセはハンマーにくっつきながら歩いている。薄暗い森の中、ひんやりした空気が漂っていた。雨は止んだが、水滴が葉から落ちてくる。それがうなじを濡らすたび、ナナセは悲鳴を上げた。
「まるで肝試しのようですね」
アムデルは当然のように楽しんでいる。
「アムデル様、何か知っていらっしゃるんですか?」
アムデルは口元を扇で隠した。どうやら言いたくないらしい。ナナセは黙って彼女に従う。あくまでも自分は彼女に仕えているに過ぎない。彼女のプライバシーを守るのは当然の義務だ。
「面白くなさそうですね」
ふふ、とアムデルに笑われてナナセは慌てた。
どうもアデス城に仕えるようになってから自分は人間のようになってしまった。あのハンマーですらそうなのだから、人間というものはなかなかに脅威である。
「面白いもなにも、アムデル様は目的を持って進まれている様子。私たちはあなた様を護るためにいます」
「そうですか」
アムデルが微笑む。彼女の笑顔は滅多に見られない。
「実は会えるのではないかと期待しているのです」
「アムデル様のお知り合いの神々がいらっしゃるのですね?」
「まだ確証はありませんが」
その向こうには青い空と光が見えている。いよいよ森を抜けるのだ。その瞬間空が光った。
✢✢✢
サーラが指差したのは巨大な黒い雲だった。ゴロゴロゴロと大きな雷鳴が轟く。突然降ってきたはげしい雨に二人は驚いた。サーラがきゅ、と自分の両手を合わせて祈る。
「精霊よ…三柱の力を宿せ」
ぴょこぴょこと耳の長い精霊が三体現れた。
「頼む、ナオとシルジを助けてやってくれ。私たちもすぐに行くから」
精霊たちが飛び立つ。サーラとシンも雨の中、その後を追った。
✢✢✢
「ナオ、サーラが三柱の力を具現化してくれたよ」
「分かった、ルビィはどうする?」
「ルビィも戦うよ」
ルビィはナオの肩を降り妙齢の女性の姿に戻っている。シルジも自前の長銃を構えていた。
目の前にいるのは黒い巨大な馬だった。頭から角が生え、鬣は青白く光っている。威圧感がこちらの集中力を奪うが負けていられない。
「なにこの化け物?めちゃくちゃ強そう」
「ブルル」
馬はいななくとナオ目がけて突っ込んでくる。ナオはまともに正面からぶつかった。さすがの太刀も軋む。ナオは相手から距離を取った。初手から隙がない。
「く、なにこのパワー。普通の馬なら簡単に止められるのに」
パキュパキュ、とその間にシルジが銃を撃つ。それは硬い皮膚であっさりと弾かれた。
ルビィも剣を振りかざすが馬から放たれた雷が彼女を捕捉する。
「ルビィ!」
ナオがルビィの背中を抱えて太刀から雷を逃がす。
「ナオ、ありがとう」
「本当クソ強いな。なんだ、こいつ」
ナオが太刀を構え直し馬に突っ込んでいく。
「うおおおお!!」
雷をナオはすんでのところで避けながら走る。そして太刀を力の限り振るった。その攻撃を馬に避けられ雷がナオに襲い掛かる。それを太刀で上手く逃がす。
「まだまだ!!」
ナオは諦めなかった。ルビィやシルジも援護する。
「ブルッ…ブフ」
馬が血を口から撒き散らす。
ナオはとどめをさそうとしてシルジに止められた。シルジが馬とナオの間に立つ。
「ナオ、待ってくれ。コイツもしかしたら」
「どうして?なんで止めるの?」
ナオは殺気を諌めなかった。自分たちを傷つけようとしたのだ。だがシルジは必死にナオに訴えかけた。
「このモンスター、マサムネの親父かも」
「え?まさかあの獣人?なんで?」
ナオもさすがにポカンとする。彼はこの件の首謀者ではないのだろうか。
「マサムネもマサムネの親父も誰かにいいように利用されてたのかも」
「じゃあ黒幕は…」
「まだいるってことさ」
ラーをはじめとする三柱が連れてきたのはマサムネだった。意識を失いぐったりしている。
「マサムネ!あんたたち、一体何したんだ?」
シルジが詰め寄る。
「三柱は倒れているマサムネを連れてきただけだよ」
サーラとシンがやってきた。
「神々の度重なる召喚は人間には厳しいんだ」
「とにかく城に二人を運ぼう」
シンの指示で、マサムネと義理の父親であるシドウは医務室に運ばれた。
「なんでこんなことに…」
シルジは憤りを抑えきれなかった。
「シルジ…」
やってきたのはサーラだ。
「サーラ、俺はどうすればいい?」
「お前は、怒っているんだな」
にこっと微笑まれてシルジの怒りは消失していた。なんだか恥ずかしくなる。
「シルジの怒りは最もだ。黒幕は他にいる。
そいつを引きずり出さなければこの件は解決できない」
「でも手がかりも何もない!」
サーラは首を振った。
「シルジ、マサムネの母さんは今どこにいるんだ?ラーが言っていただろう。彼女は呪われたのかもしれないって」
「そうだ…サーラは呪いを祓えるのか?」
「いや、神々たちの力を借りねば無理だ。一度お前の世界に戻る必要がある。未来が変わっているかもしれない」
「そうか…神殺しを防げたから」
「まだ希望はある」
サーラの力強い言葉にシルジは頷いていた。
「ナナセ、歩きニクイダロウ。アンマリくっつクナ」
ナナセはハンマーにくっつきながら歩いている。薄暗い森の中、ひんやりした空気が漂っていた。雨は止んだが、水滴が葉から落ちてくる。それがうなじを濡らすたび、ナナセは悲鳴を上げた。
「まるで肝試しのようですね」
アムデルは当然のように楽しんでいる。
「アムデル様、何か知っていらっしゃるんですか?」
アムデルは口元を扇で隠した。どうやら言いたくないらしい。ナナセは黙って彼女に従う。あくまでも自分は彼女に仕えているに過ぎない。彼女のプライバシーを守るのは当然の義務だ。
「面白くなさそうですね」
ふふ、とアムデルに笑われてナナセは慌てた。
どうもアデス城に仕えるようになってから自分は人間のようになってしまった。あのハンマーですらそうなのだから、人間というものはなかなかに脅威である。
「面白いもなにも、アムデル様は目的を持って進まれている様子。私たちはあなた様を護るためにいます」
「そうですか」
アムデルが微笑む。彼女の笑顔は滅多に見られない。
「実は会えるのではないかと期待しているのです」
「アムデル様のお知り合いの神々がいらっしゃるのですね?」
「まだ確証はありませんが」
その向こうには青い空と光が見えている。いよいよ森を抜けるのだ。その瞬間空が光った。
✢✢✢
サーラが指差したのは巨大な黒い雲だった。ゴロゴロゴロと大きな雷鳴が轟く。突然降ってきたはげしい雨に二人は驚いた。サーラがきゅ、と自分の両手を合わせて祈る。
「精霊よ…三柱の力を宿せ」
ぴょこぴょこと耳の長い精霊が三体現れた。
「頼む、ナオとシルジを助けてやってくれ。私たちもすぐに行くから」
精霊たちが飛び立つ。サーラとシンも雨の中、その後を追った。
✢✢✢
「ナオ、サーラが三柱の力を具現化してくれたよ」
「分かった、ルビィはどうする?」
「ルビィも戦うよ」
ルビィはナオの肩を降り妙齢の女性の姿に戻っている。シルジも自前の長銃を構えていた。
目の前にいるのは黒い巨大な馬だった。頭から角が生え、鬣は青白く光っている。威圧感がこちらの集中力を奪うが負けていられない。
「なにこの化け物?めちゃくちゃ強そう」
「ブルル」
馬はいななくとナオ目がけて突っ込んでくる。ナオはまともに正面からぶつかった。さすがの太刀も軋む。ナオは相手から距離を取った。初手から隙がない。
「く、なにこのパワー。普通の馬なら簡単に止められるのに」
パキュパキュ、とその間にシルジが銃を撃つ。それは硬い皮膚であっさりと弾かれた。
ルビィも剣を振りかざすが馬から放たれた雷が彼女を捕捉する。
「ルビィ!」
ナオがルビィの背中を抱えて太刀から雷を逃がす。
「ナオ、ありがとう」
「本当クソ強いな。なんだ、こいつ」
ナオが太刀を構え直し馬に突っ込んでいく。
「うおおおお!!」
雷をナオはすんでのところで避けながら走る。そして太刀を力の限り振るった。その攻撃を馬に避けられ雷がナオに襲い掛かる。それを太刀で上手く逃がす。
「まだまだ!!」
ナオは諦めなかった。ルビィやシルジも援護する。
「ブルッ…ブフ」
馬が血を口から撒き散らす。
ナオはとどめをさそうとしてシルジに止められた。シルジが馬とナオの間に立つ。
「ナオ、待ってくれ。コイツもしかしたら」
「どうして?なんで止めるの?」
ナオは殺気を諌めなかった。自分たちを傷つけようとしたのだ。だがシルジは必死にナオに訴えかけた。
「このモンスター、マサムネの親父かも」
「え?まさかあの獣人?なんで?」
ナオもさすがにポカンとする。彼はこの件の首謀者ではないのだろうか。
「マサムネもマサムネの親父も誰かにいいように利用されてたのかも」
「じゃあ黒幕は…」
「まだいるってことさ」
ラーをはじめとする三柱が連れてきたのはマサムネだった。意識を失いぐったりしている。
「マサムネ!あんたたち、一体何したんだ?」
シルジが詰め寄る。
「三柱は倒れているマサムネを連れてきただけだよ」
サーラとシンがやってきた。
「神々の度重なる召喚は人間には厳しいんだ」
「とにかく城に二人を運ぼう」
シンの指示で、マサムネと義理の父親であるシドウは医務室に運ばれた。
「なんでこんなことに…」
シルジは憤りを抑えきれなかった。
「シルジ…」
やってきたのはサーラだ。
「サーラ、俺はどうすればいい?」
「お前は、怒っているんだな」
にこっと微笑まれてシルジの怒りは消失していた。なんだか恥ずかしくなる。
「シルジの怒りは最もだ。黒幕は他にいる。
そいつを引きずり出さなければこの件は解決できない」
「でも手がかりも何もない!」
サーラは首を振った。
「シルジ、マサムネの母さんは今どこにいるんだ?ラーが言っていただろう。彼女は呪われたのかもしれないって」
「そうだ…サーラは呪いを祓えるのか?」
「いや、神々たちの力を借りねば無理だ。一度お前の世界に戻る必要がある。未来が変わっているかもしれない」
「そうか…神殺しを防げたから」
「まだ希望はある」
サーラの力強い言葉にシルジは頷いていた。
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