黄金の瞳を持つのは聖女様?〜黄金の月〜

はやしかわともえ

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四章

十二話・神々の意見

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アデス城から少し離れた先、農園の隅にシンの趣味スペースはある。そこでブドウジュースを作っているのだ。並んでいる樽には試作のジュースが冷やされた状態で保存されている。いつもの見慣れた景色にシンはホッとしていた。先程まで未来に行っていたなんて、とても信じられないが、事実なのだからしょうがない。

「みんな、とりあえずなにか飲もうね」

シンは冷蔵庫で冷やしておいたグラスを人数分取り出してジュースを樽から直接注いだ。

「シン、僕らの分も頼むよ」

聞き慣れない声にシンが顔を上げる。

「え?どちらさまでしょうか?」

シンの言葉に彼らは笑った。そのうちの一人、金髪の青年がシンの手を優しく取って握る。シンは咄嗟のことに戸惑った。

「僕はラー。三柱の一つだよ」

「あたしはアクア。こっちのいかついのがマーズ」

「よろしくな、シン」

「は…はぁ」

突然現れた三柱にシンは戸惑いながらグラスを取り出した。

「シン、私が運ぼう」

「ありがとう、サーラ」

サーラが盆にグラスを載せ皆に配っている。喉がとにかくカラカラだった。ルビィは飛びつくようにジュースを飲んでいる。シンも耐えられずジュースを一口飲む。それだけで体が生き返るような心持ちがした。今回のジュース作りは成功したといっていいだろう。ジュースに向いている品種を来年からもう少し多く作ろうかとシンは決意していた。せっかくアデスは果物を作るのに適しているのだから、それを利用しない手はない。

「美味い!」

「ジュースってもっと甘ったるいのかと思っていたわ」

「もう一杯飲みたい」

どうやら三柱にも好評なようだ。シンはおかわりのブドウジュースを注いで席に着いた。

「何かあったんですか?」

シンの言葉に三柱は頷く。

「君たちが時を超えて神を護ってくれて本当に感謝している。だがまだ危機は乗り切っていない。まさか聖女の血を持つ者に呼び出されて切られるとは誰も思わないだろう?」

おそらく、マサムネのことだろう。

「なぁ、シルジ。マサムネについて詳しく聞かせてくれないか?」

サーラの言葉に皆頷く。シルジは皆を見渡して話し出した。

✢✢✢

「マサムネは俺の幼馴染みで、昔からすげえ強かった。マサムネの母さんは聖女だったみたいだけど、あいつが14歳の時、病気で倒れた。
あいつはそれから変わった。死ぬほど訓練するようになって…マサムネの父さんもそうだ。変な奴らに関わるようになっていった」

シルジは一気に喋って、ふうと息をついた。そしてうつむく。

「マサムネとはすごく仲が良かったのに、最近全然話せてない。あいつにまた笑って欲しい」

「それなら彼女を止める以外方法はないよね。僕としては一つ気になることがある」

ラーがにっこり笑って言った。

「マサムネのお母さんは呪われたんじゃないかな?」

「の…呪い?でもそんな酷いこと…」

シルジが明らかに取り乱す。

「大丈夫、僕たちもサーラを介して力を貸そう。
きっと止められるさ、僕たちなら。マサムネはまた礼拝堂に向かったようだ。そこが一番霊力が高まるし彼女にも都合が良いんだろうね。時は…ここみたいだよ、急いだほうがいい」

ジュースごちそうさま、と言い残して、三柱は消えていた。

「シルジ、サーラは赤ちゃんがいるから走れない。ルビィ、おいで。僕たちだけで行こう。シン、サーラをお願い」

ルビィはぴょい、と走り出しているナオの肩に器用に乗った。シルジも慌てて彼の後を追う。サーラは出てきた腹を撫でていた。

「大丈夫?サーラ」

「早く行けとお腹の子は言うんだが、なにせ重たくてな」

サーラが困ったように笑う。

「そりゃ重たいよ。人形じゃないんだから」

「シン、あれは?」

「え?」

シンはそれに驚いたのだった。
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