51 / 58
四章
十二話・神々の意見
しおりを挟む
アデス城から少し離れた先、農園の隅にシンの趣味スペースはある。そこでブドウジュースを作っているのだ。並んでいる樽には試作のジュースが冷やされた状態で保存されている。いつもの見慣れた景色にシンはホッとしていた。先程まで未来に行っていたなんて、とても信じられないが、事実なのだからしょうがない。
「みんな、とりあえずなにか飲もうね」
シンは冷蔵庫で冷やしておいたグラスを人数分取り出してジュースを樽から直接注いだ。
「シン、僕らの分も頼むよ」
聞き慣れない声にシンが顔を上げる。
「え?どちらさまでしょうか?」
シンの言葉に彼らは笑った。そのうちの一人、金髪の青年がシンの手を優しく取って握る。シンは咄嗟のことに戸惑った。
「僕はラー。三柱の一つだよ」
「あたしはアクア。こっちのいかついのがマーズ」
「よろしくな、シン」
「は…はぁ」
突然現れた三柱にシンは戸惑いながらグラスを取り出した。
「シン、私が運ぼう」
「ありがとう、サーラ」
サーラが盆にグラスを載せ皆に配っている。喉がとにかくカラカラだった。ルビィは飛びつくようにジュースを飲んでいる。シンも耐えられずジュースを一口飲む。それだけで体が生き返るような心持ちがした。今回のジュース作りは成功したといっていいだろう。ジュースに向いている品種を来年からもう少し多く作ろうかとシンは決意していた。せっかくアデスは果物を作るのに適しているのだから、それを利用しない手はない。
「美味い!」
「ジュースってもっと甘ったるいのかと思っていたわ」
「もう一杯飲みたい」
どうやら三柱にも好評なようだ。シンはおかわりのブドウジュースを注いで席に着いた。
「何かあったんですか?」
シンの言葉に三柱は頷く。
「君たちが時を超えて神を護ってくれて本当に感謝している。だがまだ危機は乗り切っていない。まさか聖女の血を持つ者に呼び出されて切られるとは誰も思わないだろう?」
おそらく、マサムネのことだろう。
「なぁ、シルジ。マサムネについて詳しく聞かせてくれないか?」
サーラの言葉に皆頷く。シルジは皆を見渡して話し出した。
✢✢✢
「マサムネは俺の幼馴染みで、昔からすげえ強かった。マサムネの母さんは聖女だったみたいだけど、あいつが14歳の時、病気で倒れた。
あいつはそれから変わった。死ぬほど訓練するようになって…マサムネの父さんもそうだ。変な奴らに関わるようになっていった」
シルジは一気に喋って、ふうと息をついた。そしてうつむく。
「マサムネとはすごく仲が良かったのに、最近全然話せてない。あいつにまた笑って欲しい」
「それなら彼女を止める以外方法はないよね。僕としては一つ気になることがある」
ラーがにっこり笑って言った。
「マサムネのお母さんは呪われたんじゃないかな?」
「の…呪い?でもそんな酷いこと…」
シルジが明らかに取り乱す。
「大丈夫、僕たちもサーラを介して力を貸そう。
きっと止められるさ、僕たちなら。マサムネはまた礼拝堂に向かったようだ。そこが一番霊力が高まるし彼女にも都合が良いんだろうね。時は…ここみたいだよ、急いだほうがいい」
ジュースごちそうさま、と言い残して、三柱は消えていた。
「シルジ、サーラは赤ちゃんがいるから走れない。ルビィ、おいで。僕たちだけで行こう。シン、サーラをお願い」
ルビィはぴょい、と走り出しているナオの肩に器用に乗った。シルジも慌てて彼の後を追う。サーラは出てきた腹を撫でていた。
「大丈夫?サーラ」
「早く行けとお腹の子は言うんだが、なにせ重たくてな」
サーラが困ったように笑う。
「そりゃ重たいよ。人形じゃないんだから」
「シン、あれは?」
「え?」
シンはそれに驚いたのだった。
「みんな、とりあえずなにか飲もうね」
シンは冷蔵庫で冷やしておいたグラスを人数分取り出してジュースを樽から直接注いだ。
「シン、僕らの分も頼むよ」
聞き慣れない声にシンが顔を上げる。
「え?どちらさまでしょうか?」
シンの言葉に彼らは笑った。そのうちの一人、金髪の青年がシンの手を優しく取って握る。シンは咄嗟のことに戸惑った。
「僕はラー。三柱の一つだよ」
「あたしはアクア。こっちのいかついのがマーズ」
「よろしくな、シン」
「は…はぁ」
突然現れた三柱にシンは戸惑いながらグラスを取り出した。
「シン、私が運ぼう」
「ありがとう、サーラ」
サーラが盆にグラスを載せ皆に配っている。喉がとにかくカラカラだった。ルビィは飛びつくようにジュースを飲んでいる。シンも耐えられずジュースを一口飲む。それだけで体が生き返るような心持ちがした。今回のジュース作りは成功したといっていいだろう。ジュースに向いている品種を来年からもう少し多く作ろうかとシンは決意していた。せっかくアデスは果物を作るのに適しているのだから、それを利用しない手はない。
「美味い!」
「ジュースってもっと甘ったるいのかと思っていたわ」
「もう一杯飲みたい」
どうやら三柱にも好評なようだ。シンはおかわりのブドウジュースを注いで席に着いた。
「何かあったんですか?」
シンの言葉に三柱は頷く。
「君たちが時を超えて神を護ってくれて本当に感謝している。だがまだ危機は乗り切っていない。まさか聖女の血を持つ者に呼び出されて切られるとは誰も思わないだろう?」
おそらく、マサムネのことだろう。
「なぁ、シルジ。マサムネについて詳しく聞かせてくれないか?」
サーラの言葉に皆頷く。シルジは皆を見渡して話し出した。
✢✢✢
「マサムネは俺の幼馴染みで、昔からすげえ強かった。マサムネの母さんは聖女だったみたいだけど、あいつが14歳の時、病気で倒れた。
あいつはそれから変わった。死ぬほど訓練するようになって…マサムネの父さんもそうだ。変な奴らに関わるようになっていった」
シルジは一気に喋って、ふうと息をついた。そしてうつむく。
「マサムネとはすごく仲が良かったのに、最近全然話せてない。あいつにまた笑って欲しい」
「それなら彼女を止める以外方法はないよね。僕としては一つ気になることがある」
ラーがにっこり笑って言った。
「マサムネのお母さんは呪われたんじゃないかな?」
「の…呪い?でもそんな酷いこと…」
シルジが明らかに取り乱す。
「大丈夫、僕たちもサーラを介して力を貸そう。
きっと止められるさ、僕たちなら。マサムネはまた礼拝堂に向かったようだ。そこが一番霊力が高まるし彼女にも都合が良いんだろうね。時は…ここみたいだよ、急いだほうがいい」
ジュースごちそうさま、と言い残して、三柱は消えていた。
「シルジ、サーラは赤ちゃんがいるから走れない。ルビィ、おいで。僕たちだけで行こう。シン、サーラをお願い」
ルビィはぴょい、と走り出しているナオの肩に器用に乗った。シルジも慌てて彼の後を追う。サーラは出てきた腹を撫でていた。
「大丈夫?サーラ」
「早く行けとお腹の子は言うんだが、なにせ重たくてな」
サーラが困ったように笑う。
「そりゃ重たいよ。人形じゃないんだから」
「シン、あれは?」
「え?」
シンはそれに驚いたのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる