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四章

一話・妖しい影

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「アデス国万歳!サーラ姫万歳!だって!」

サーラの妊娠が分かったことで、アデス内にある新聞社がこぞって号外を出した。ルビィはそれを全てもらって来て、サーラと共にしげしげと眺めている。

「サーラから産まれてくる子ならきっとニンゲン離れしてるんだろうね」

「いやいや、僕の血もあるからね?」

シンが思わずといった様子でルビィに突っ込んでいる。ルビィはそれに楽しそうに笑った。ナナセ、ハンマー、ルビィがアデス城に仕えるようになって、早二週間が経過している。気を失っていたハンマーは初めこそ暴れたが、概念として消えなくていいと聞き、心を改めたようだ。そしてナナセも。彼は頭が回る。どう動けばいいか全て分かっていることだろう。サーラは彼らを信じている。

「!」

ナナセとハンマー、そしてルビィがぴくり、と反応した。三人はお互いを見合う。

「サーラ姫、僕たちは城の周りの見回りをしてきます」

「え?もう夜だし、危ないんじゃ…」

「大丈夫ダ」

「ルビィもいるよ!大丈夫!」

サーラはそうか、と笑って頷いた。

「みんな、気を付けるんだぞ」

サーラにそう言われれば守るほかない。

「ナナセハサーラが大好きダナ」

「うるさいな。ハンマーだってそうでしょ!」

「サーラ、神たらしすぎる」

三者三様の言葉を呟く。ため息を吐いたナナセは言った。

「とりあえず変な気配したから気を付けるよ。僕たちの信頼を姫様から勝ち得なくちゃ」

「ワカッタ」

「りょ!」

ナナセたちは慎重に前に進んだ。光が一点から溢れている。

「なにあ…もがっ?」

ルビィの口をナナセが塞いで草の茂みに隠れた。
ハンマーもそれに従う。

「あぁ?なんだここは…。また違う時間に来ちまったみたいだ。くそっ…」

体格のいい黒い服を着た男がぶつぶつ呟いている。そして次の瞬間には彼も消えていた。

「今のなに?」

ルビィが叫ぶ。ハンマーもナナセを見た。

「ナナセ?」

「多分、あいつタイムトラベラーだ。歴史を変えたり守ったり色々な奴らがいるらしい」

「マタ厄介だナ」

「それってつまり、アデスが大変ってこと?」

ハンマーは腕を組み、ルビィは首を傾げた。

「シンにだけ伝えよう。姫様は身重だ」

「なんでナナセはシンのことは呼び捨てなの?」

「うるさいよ、ルビィ」

「むぎゅ」

ナナセがルビィの鼻ごとぎゅっと摘まむ。

「ちょっと!ルビィも女の子だよ!!」

「それなら姫様くらい可愛くなってから言いな」

「ナナセの意地悪ー!」

「ハハハ」

ハンマーが笑っている。はじめこそお互いに歩み寄れずいたが、サーラの力によっていつの間にか仲良くなってきている。だからこそみな思いは同じだ。アデスをサーラを守りたいと。
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