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三章

九話・説得

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「おい、嘘だろ。ハンマー」

深夜、ナナセはやって来た。彼もまた三柱に拘束されている。どうやら三柱はかなり頑張ってくれたらしいとサーラは推察した。ハンマーは正気を失ったように暴れ回っていたが、流石に疲労が溜まってきたのか倒れて動かなくなっていた。人間の肉体を持っているのだ。当然の結末である。

「ナナセ」

サーラが笑って彼に声を掛けるのと同時にチャ、とナオが太刀に手を掛ける。

「あの時のお姫様か」

ナナセは忌々しげに舌打ちした。

「ナナセ、もう暴れるのは終わりにしないか?」

サーラが取った最後の手段は『説得』だった。

「僕たちに黙って消えろと?」

サーラは首を横に振る。

「私の中にいればいい」

「!!」

ナナセが息を詰まらせる。この話をした時にナオもシンも、ルビィすらも反対した。だが、サーラは神々に消えて欲しくなかった。

「私にはお前たちのお父様の決定を覆すことは出来ない。でもこうして知り合ったのはきっと何か縁があったからなんだろう」

「僕を体内に取り込んで君が無事でいられる保証があるわけないでしょう?」

サーラは笑った。

「分かっているよ。それも覚悟の上だ」

「っ!!」

「生きていたいだろう?ナナセ」

サーラは彼を待った。ナナセは俯いたまま動かない。

「サーラ姫」

低いしわがれ声がする。サーラは彼を見て笑った。シンももちろん一緒だ。ルビィがえっへん、と胸をのけぞらせた。

「サーラ、ルビィたち、お父様を連れてきたよ!」

「来てくださいましたか。ルビィ、シン、ありがとう」

「その青年とルビィと共に呼び出された時は驚きましたが、まさかハンマーとナナセを囚えるとは。サーラ姫、あなたは不思議な人のようだ」

サーラは首を横に振る。

「これもまた時の悪戯のようなものです。運がたまたま私の味方をしてくれました。神々を概念にすることを覆すのが無理なら、私が彼らを自分の中に保有します」

「それはとても苦しみますよ」

「承知の上です」

ふむ、とお父様と呼ばれる神は息を吐いた。

「神々は人間の成長を妨げると思っていましたが、神々もまた人間に成長させてもらっていたとは」

ふーむ、と彼が目を閉じて唸る。

「私は視界が狭くなりすぎていたかもしれない。自分の考えを周りに押し付けすぎていた。ナナセ」

「…はい」

ナナセが姿勢を正す。まだ彼への尊敬の念が残っていることが窺い知れた。

「お前とハンマーはサーラ姫と共に。力を惜しみなく彼女に貸しなさい。それが罰だ」

「!!…分かりました」

「ルビィ、お前には新たな役職を授ける。人間の世界と神々の世界を繋ぐ橋として働きなさい」

「わぁ、すごい!」

「サーラ姫、本当の困難はこれからです。この国はこれからも変貌し続ける。あなたたちはそれを乗り越えていかなければならない」

皆がお互いを見て頷き合う。困難に必ず立ち向かって見せる、サーラは決意していた。
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