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三章

四話・お父様

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ナオは宿舎に置いてあった自分の端末を使い、シンに連絡した。シンは急にいなくなったルビィを散々探し回ったらしい。ルビィが、ぴえぇと泣きながら謝るとようやく落ち着いたらしかった。

「で、そのお父様に会ったの?」

「うん。視認した。奴の気配も覚えたよ。ルビィも間違いないって」

「うーん、やっぱり僕たちになにかして欲しいのかなぁ?」

「これから動きがあるかもね。とりあえずルビィは明日アデスに連れて行くよ」

「うん、頼むよ」

ナオは自分の身体に異変を感じていた。ものすごく眠たいのだ。

「変だな…」

「ナオ、お父様の威圧を真正面から受け止めたんだもの。普通のニンゲンならとっくに倒れてるよ」

「…これ、寝て治るの?」

「治るけど、時間かかるよ」

「参った……な」

ナオはそのままベッドに上体をもたれかけたまま深い眠りに落ちていた。

「ナオ…眠っちゃった…。サーラもナオもニンゲン離れしすぎだよ。まさかシンもなんてことないよね?よいしょっ!」

ルビィはナオをなんとかベッドに引っ張り上げた。

「サーラのことも心配だし、アデスに帰るよ!」

ルビィは姿を消してアデスに向かった。彼女にはとっておきの秘密の通路がある。

✢✢✢

「こ…こんな時間か…参ったな」

真夜中になってサーラはぱちり、と目を覚ましていた。先程まで死にそうなほど体が重だるく、永遠に眠れそうだったが、今はすっかり体は軽くなり、なんでも出来そうである。しかも何より腹が減っていた。喉も渇いている。サーラは耐えきれずベッドから出た。シンはまだ起きているようだ。

「シン?」

書斎に顔を出すが、シンの姿はない。

「どこに行ったんだろう?」

向こうから誰かの声が聞こえる。サーラは声を頼りに歩き出した。

「ルビィー!」

「シン!」

「あ、サーラ良かった。ルビィがいなくて」

「ええ?一緒に寝てたはずだが」

「うーん、あの子は姿を消せるからなあ」

「とりあえず夜食を食べないか?簡単なものを作ろうと思ってるんだが」

「あ、お願い」

サーラが城の厨房で夜食を作っている間、ナオから連絡が来た。
ルビィの所在がようやく判明する。シンはホッとしていた。

「シン!野菜スープを作ったぞ。パンも切った。食べるか?」

「うん、食べる。ルビィが見つかったよ。ナオと一緒にいた」

「え?イリシアにいるのか?あの子にはびっくりさせられるな」

「あのねサーラ」

シンは先ほどナオに聞いた話をサーラに話した。

「え、やっぱりそうだったのか?彼がルビィたちのお父様?」

「そう、ナオに攻撃をしてきたみたい」

「なんでまた?」

「理由は分からないけど、敵意ではないだろうってナオが」

「サーラ―、シンー」

ふよふよとルビィが飛んできた。サーラが立ち上がる。

「ルビィ!イリシアにいたんじゃ」

「ルビィ、秘密の通路知ってるから。あーお腹空いたあ」

ぱたり、とルビィは机につっぷしていた。

「ルビィ、とりあえず食べろ」

「ナオがね自分の部屋で眠ってる」

「え?」

「ベッドに寝かせておいたから大丈夫。でもしばらく目を覚まさないと思うよ」

「えええ」

それからシンは警察組織に連絡を入れた。ナオは救急車で運ばれたらしい。しばらく安静という事だった。

「私のせいだ。私がナオに頼んだりするから」

サーラは泣いていた。ぽろぽろと次から次へ涙がこぼれて来る。

「サーラのせいじゃないよ。神の威圧を食らっただけでケガをしているわけではなさそうだし」

シンがサーラの頭をよしよしと撫でる。

「それに、僕たちは少しずつだけどいろいろなことが分かってきている。ナナセやハンマーも今は身を潜めているし、攻めるなら今が一番だと思う」

「攻める?どこに?」

サーラが泣きながら尋ねると、シンが何かを取り出す。それはファイルだった。

「この間、僕たち幸せのたみの施設に行ったじゃない?」

「あぁ」

「たまたま棚から裏帳簿見つけた!テヘペロ!これで、幸せのたみ告発して内側からぶっ潰してやんよ!アデスの宗教は今いる神々だけで十分だし」

「シン…お前ってやつは」

サーラの目線が冷たいが気にしないことにしたシンである。裏帳簿を開いてサーラに見せた。

「武器とか防具とか幸せのたみ名義で買いまくってるんだ。サーラが前に見た夢の暴動ってこれがきっかけかも」

「あぁ、そうかも知れない。その前に幸せのたみを潰すんだな」

「そう、その通り。さ、情報流してこようっと」

シンがるんるんしながらスマートフォンを操作して電話を掛けた。情報の謝礼を断っている。

(ナオは大丈夫だろうか)

自分もナナセにしてやられたことがあるので、とにかく心配だった。お父様という存在が自分たちにとって、味方かも分からない。
サーラに気さくに話し掛けてきたり、ナオに攻撃してきたり、行動に一貫性がない。

「でも、誰も傷付けてはいない」

サーラは自分に言い聞かせた。これからどうなってしまうのだろう。怖いが、自分たちは前に進むしかないのだ。
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