23 / 58
二章
十話・隊長として
しおりを挟む
「本当に大丈夫なのか?」
「サーラ、大丈夫だよ」
次の日、ナオは病院で支度を整えていた。頭の傷は痛むが仕方がない。サーラはシンと共に朝一番に来てくれた。腰に差した太刀を改めて確認したがとくに異常はないようだった。昨日の夜、念入りに手入れをしたこともある。
警察庁はイリシアにある。ナオの足で一時間程だ。
「また連絡してね」
「気を付けるんだぞ」
サーラとシンに手を振ってナオはアデスの砦を出た。
「隊長!!」
誰かに呼び止められる。ナオがそちらを見ると、警察車両がいた。どうやら迎えに来てくれたらしい。ナオは駆け寄った。
「どうしたの?」
車に乗り込んだナオが尋ねると、部下の青年がため息をついた。もちろんナオより年上である。
「どうしたもこうしたもないですよ。あんた、なにやってんすか?」
「何ってアデスの警備だけど」
「んなこた分かってますよ!提出された映像観ましたけど、あんなでかいやつ一人でどうにか出来るはずないじゃないですか!」
確かに無謀だったかもしれない、とナオは思った。
「あーもー!!俺たちそんなに頼りにならないんすか?隊長が倒れたらどうなるか…」
「ありがと、心配してくれたんだ?」
ふふ、とナオが笑うと部下はまたため息を吐いた。
「心配するに決まってるでしょう。もうあんな無茶やめてくださいね!」
「了解」
イリシアの街並みが見えてきた。車なので当然速い。本部に戻ると皆がナオの周りに群がってきた。
「隊長!よくぞご無事で!!」
「隊長万歳!!」
「皆、僕は本部長に昨日の件について詳しく報告してくる。後で会議をする、準備しといて」
「は!!!」
ナオは階段を上がっている。本部長のいる執務室は建物の最上階に位置していた。部屋のドアをノックすると返事があった。
「失礼致します」
ナオがドアを開けると、途端に静謐な空気が自分を纏う。目の前にあるデスクには誰もおらず、ふと窓の方を見やると初老の男がナオに背を向けて佇んでいた。この人にはまだ敵わないとナオは歯ぎしりしたくなる気持ちを堪えて言う。
「本部長、昨日の件で報告があります」
「負けたのか?」
負け…という言葉にナオはぐっと歯を食いしばった。悔しくないはずがない。周りにはずっと悟られないようにしていたが、昨日の自分は負けたのだ。悔しくて悔しくて仕方がなかった。だが、自分はあくまで警察部隊の隊長である。気を緩める訳にはいかない。
「負けました。私の力量不足です」
男がこちらを向く。彼はナオの父だ。つまり、サーラの父である。立派な髭をたくわえた彼は目を閉じている。
「警察部隊に弱い者は要らん。ただ強く在れ」
「はっ、申し訳ありませんでした!」
ナオは深くお辞儀をした。
「今回の件、神々が関わっているようだが、サーラはどうしている?夢に堕ちているのか?」
「はい。サーラ姉様は去年より数回に渡りアプローチしているようです」
「ナオ、サーラから目を離すな。あの子の力に今回は頼らざるを得ないかもしれない」
「!!」
父親の言葉にナオは驚いていた。サーラが夢に堕ちることを彼は心配していたからだ。だが相手が神々とあれば仕方ないのかもしれない。
「承知致しました」
ナオは再び礼をして部屋を後にした。
「サーラ、大丈夫だよ」
次の日、ナオは病院で支度を整えていた。頭の傷は痛むが仕方がない。サーラはシンと共に朝一番に来てくれた。腰に差した太刀を改めて確認したがとくに異常はないようだった。昨日の夜、念入りに手入れをしたこともある。
警察庁はイリシアにある。ナオの足で一時間程だ。
「また連絡してね」
「気を付けるんだぞ」
サーラとシンに手を振ってナオはアデスの砦を出た。
「隊長!!」
誰かに呼び止められる。ナオがそちらを見ると、警察車両がいた。どうやら迎えに来てくれたらしい。ナオは駆け寄った。
「どうしたの?」
車に乗り込んだナオが尋ねると、部下の青年がため息をついた。もちろんナオより年上である。
「どうしたもこうしたもないですよ。あんた、なにやってんすか?」
「何ってアデスの警備だけど」
「んなこた分かってますよ!提出された映像観ましたけど、あんなでかいやつ一人でどうにか出来るはずないじゃないですか!」
確かに無謀だったかもしれない、とナオは思った。
「あーもー!!俺たちそんなに頼りにならないんすか?隊長が倒れたらどうなるか…」
「ありがと、心配してくれたんだ?」
ふふ、とナオが笑うと部下はまたため息を吐いた。
「心配するに決まってるでしょう。もうあんな無茶やめてくださいね!」
「了解」
イリシアの街並みが見えてきた。車なので当然速い。本部に戻ると皆がナオの周りに群がってきた。
「隊長!よくぞご無事で!!」
「隊長万歳!!」
「皆、僕は本部長に昨日の件について詳しく報告してくる。後で会議をする、準備しといて」
「は!!!」
ナオは階段を上がっている。本部長のいる執務室は建物の最上階に位置していた。部屋のドアをノックすると返事があった。
「失礼致します」
ナオがドアを開けると、途端に静謐な空気が自分を纏う。目の前にあるデスクには誰もおらず、ふと窓の方を見やると初老の男がナオに背を向けて佇んでいた。この人にはまだ敵わないとナオは歯ぎしりしたくなる気持ちを堪えて言う。
「本部長、昨日の件で報告があります」
「負けたのか?」
負け…という言葉にナオはぐっと歯を食いしばった。悔しくないはずがない。周りにはずっと悟られないようにしていたが、昨日の自分は負けたのだ。悔しくて悔しくて仕方がなかった。だが、自分はあくまで警察部隊の隊長である。気を緩める訳にはいかない。
「負けました。私の力量不足です」
男がこちらを向く。彼はナオの父だ。つまり、サーラの父である。立派な髭をたくわえた彼は目を閉じている。
「警察部隊に弱い者は要らん。ただ強く在れ」
「はっ、申し訳ありませんでした!」
ナオは深くお辞儀をした。
「今回の件、神々が関わっているようだが、サーラはどうしている?夢に堕ちているのか?」
「はい。サーラ姉様は去年より数回に渡りアプローチしているようです」
「ナオ、サーラから目を離すな。あの子の力に今回は頼らざるを得ないかもしれない」
「!!」
父親の言葉にナオは驚いていた。サーラが夢に堕ちることを彼は心配していたからだ。だが相手が神々とあれば仕方ないのかもしれない。
「承知致しました」
ナオは再び礼をして部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ドラゴンのおんなのこは強くて可愛くなくちゃつとまりません!
はやしかわともえ
恋愛
ドラゴンの少女、クーのお話です。
逸花、トキなどの既存キャラが出てきます。
フツメン高校生から超絶美人なお姫様に転生して国を開拓する話のスピンオフです。
緩く書いていきます。
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
聖女様に貴方の子を妊娠しましたと身に覚えがないことを言われて結婚するよう迫られたのでもふもふな魔獣と旅にでることにした
葉柚
ファンタジー
宮廷魔術師であるヒューレッドは、ある日聖女マリルリから、「貴方の子を妊娠しました。私と結婚してください。」と迫られた。
ヒューレッドは、マリルリと二人だけで会ったこともなければ、子が出来るような関係を持ったこともない。
だが、聖女マリルリはヒューレッドの話を聴くこともなく王妃を巻き込んでヒューレッドに結婚を迫ってきた。
国に居づらくなってしまったヒューレッドは、国を出ることを決意した。
途中で出会った仲間や可愛い猫の魔獣のフワフワとの冒険が始まる……かもしんない。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる