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二章

五話・潜入

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「うっわ、ガチ宗教って感じ」

「シン、うるさいよ」

数日後、サーラとシンは幸せのたみの本部にいた。もちろん本部はアデスにある。サーラは髪色を黒く染め、シンは眼鏡とむさ苦しい髭をつけて変装をしている。二人は名前を出せないが、とある国の王族だと言ってこの幸せのたみに潜り込んだのである。初めは怪しまれるかとヒヤヒヤしたサーラだったが、シンが持ってきた金を握らせるとあっさり入団できた。幸せのたみでは修行と称して、施設に寝泊まりする信者もいるらしい。ナオは護衛と称して中に入った。

施設の一番巨大なフロアは祈りの間だと幹部らしき人物から説明された。信者たちが必死に何かを祈っている。サーラは辺りを探った。幼い頃から精霊と暮らしてきたせいか、精霊の気配を辿るのは得意だ。

「シン、この辺りに精霊がいる」

小声で囁くとシンが頷いた。

「すみません、お手洗いはどちらでしょうか?案内してください」

「はい!どうぞこちらへ」

シンが幹部を引き付けている間にサーラとナオは行動を開始した。

「サーラ、もしかして、例のルビィって娘?」

「あぁ、あの子は姿を消せる。あの子とすごく似た気配がする」

サーラは目を閉じた。心で何度も彼女に呼び掛ける。

『ルビィ、私だ。サーラだ。応えてくれ』

もう時間がない、と思った瞬間だった。

「サーラ!!」

「ルビィ!!」

ルビィは人間の少女の姿をしていた。紅い目は持っているがウサギの耳はない。二人は抱き合った。

「よく無事だったな!」

「ルビィ、逃げたの。二人に心配を掛けるって分かってたけどハンマーが怖かった」

「ハンマー?」

ナオが首を傾げる。

「ナオ、とにかく姿を隠そう」

「ん、サーラにお嬢さん、ちゃんと僕に掴まっていて」

幸せのたみの施設をナオはいとも簡単に抜け出していた。これが警察組織が誇る隊長の実力である。

✢✢✢

一方その頃、シンは幹部と話していた。

「幸せのたみを結成された方はさぞかし徳を積まれているのでしょうね。お会いになったことはあるんですか?」

シンの言葉に幹部は気を良くしたのか、ぺらぺらと喋ってくれた。

「トップのナナセ様は本当に人格者なんです。このような私を幹部にしていただいて」

ナナセ…とシンは反芻した。サーラが夢の中で見た人物の一人だろうか。シンはナナセについて詳しく話すように頼んだが、それ以上は幹部も知らないようだ。

(頭が回るやつみたいだな)

自分の情報を語らせないよう、意図してやっているのだろう。幹部も格好がつかないと思ったのか取り繕うように言う。

「ナナセ様は本当に美男子で、信者のファンも多数いるんです」

さて、とシンは辺りを窺った。誰もいないことを確認する。もちろんカメラからも死角である。シンは幹部の首に華麗に蹴りを入れていた。もちろん常人がそれに耐えきれるはずもない。あっさりと気絶する。シンは走り出した。

「シン、本当スマートじゃないんだから」

どこかでナオは見ていたらしい。シンの腕を掴んで高く跳んだ。

「見てたならやってくれればいいのに」

「シンは男でしょ。僕はサーラと可愛い女の子のためにいるんだよ」

なにも言い返せなかったシンである。

「シン!ルビィが無事だったんだ!」

サーラが手を振っている。

「よかった、本当によかった!」

改めてルビィの無事を喜んだのだった。
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