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一章

十二話・ルビィ

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「え?母さんがルビィの面倒を見てるの?」

畑に向かったサーラはシンにありのままを話した。シンは首に巻いたタオルで額の汗を拭いている。

「絶対ランさんにキレられるやつじゃん」

ランというのはアムデルの秘書官を務める厳格な女性である。まだ二十歳そこそこだが、優秀であるのは間違いない。

「ま、不味かっただろうか?」

「うーん。でも母さんのことだから言い出したら聞かないだろうし、ちょっと様子を見てみよう」

息子であるシンがそう言うのだからサーラも従うことにする。二人はブドウの世話を始めた。
途中でトマとリズも合流する。

「姫様、昨日の娘、どうなりました?」

トマに気安く尋ねられて、サーラは嬉しくなった。

「あぁ、義母さまが面倒を見てくれているぞ」

「アムデル様が?ランさんがよく許可したな」

トマの言葉にサーラはどう答えようか迷った。
許可など出ていないのである。

「ランさんというのはそんなに厳しい人なのか?」

サーラの言葉にトマは頷いた。

「アムデル様のスケジュールを全部決めてるのはランさんだし、とにかくビシバシやるっていう噂が」

「へ、へえ」

ますますアムデルのことが心配になったが、サーラはアムデルを信じている。上手くやるだろう、と判断した。それから黙々と作業した。秋にはまた新しい品種が収穫できる。まだ早朝なので涼しい方だが、汗は噴き出してくる。サーラは垂れてくる汗をタオルで拭きながら作業をした。

「サーラ、ありがとうね」

氷水の入ったタライにやかんを浸けてある。やかんの中にはお茶が入っているのだ。シンがサーラにお茶の入ったコップを差し出してくる。サーラはそれを受け取ってごくごく飲んだ。乾いた喉にそれは心地よく染み渡る。

「私は飾り作りに行ってくるな」

「うん、気を付けてね」

サーラは城に着替えに戻った。城中になんだかいい匂いが漂っている。バターの匂いだとサーラはピンときた。匂いの元を辿る。そこにはルビィとアムデルがいた。ルビィはクッキーに齧りついている。アムデルはそれを嬉しそうに見ていた。

「美味しいー!」

「良かったです」

「義母さま。クッキーを焼いたのですか?」

「サーラ、あなたも食べなさい」

「いただきます」

サーラは椅子に座ってクッキーに手を伸ばした。チョコチップの入ったクッキーだ。一口齧るとバターの風味が口いっぱいに広がる。そしてチョコチップの甘み。

「美味しいです」

「よかった」

アムデルがにっこり笑った。

「サーラ、夏祭りで何かが起きるかもしれません
。でも、慌てず冷静にいるんですよ」

「はい」

アムデルの忠告にサーラは頷いた。

「アムデル様!!探しましたよ!」

「あら、ラン。ちゃんとメモは残しましたよ」

アムデルが楽しそうに言う。

「旧アデス文字を使うなんてずるいですよ!」

「ふふふ」

アムデルはランに連行されていった。

「アムデル、大丈夫かな?」

ルビィが心配そうに言うのが、サーラはおかしくていよいよ噴き出してしまった。

「義母さまは本当にお茶目だな。大丈夫だよ、ルビィ」

「それならいいんだけど」

「ルビィ、私と飾り作りに行くか?」

「うん!」

サーラは着替えてルビィと出掛けた。
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