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一章

十一話・クッキー

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「ルビィ、自分でご飯食べられるんだな。偉いぞ」

「ルビィ、ご飯好き!!美味しいね。ニンゲンっていいね!」

「そうだな」

朝からのほほん、とした空気が漂っている。シンはいつものように明け方から仕事に出掛けている。サーラも食事を終えたら畑に向かう予定だ。幼いルビィをどうしようかサーラが考えていると、アムデルが一人でやってきた。どうやらそっと抜け出してきたらしい。アムデルは威厳もありながら少しお茶目な人だとサーラは理解している。

「サーラ、その子は?」

アムデルの疑問は最もだ。サーラは立ち上がった。

「はい。精霊の少女です。昨日顕現したばかりらしくこの世界にはまだ不慣れで…」

「良いでしょう」

アムデルの言葉にサーラは首を傾げた。アムデルが扇で口元を隠す。

「この子は私が監視をします。サーラ、あなたは引き続きシンの手伝いと飾りを作りなさい」

「は…はい!!」

アムデルの有無を言わさない様子に、サーラは慌てて着替えに向かった。着替えながらサーラはアムデルの様子を思い出す。

(義母さま、嬉しそうだったな。子供大好きだもんな)

幼い頃からアムデルはなにかと自分を気にかけてくれた。サーラは夏に生まれた。そのため、夏祭りのためサーラ一家がアデスに来た時にアムデルがサーラのためにケーキを焼いてくれたのだ。それがどれほど嬉しかっただろう。アムデルの事だ。ルビィの相手にはうってつけである。サーラはシンのもとへ急いだ。

✢✢✢

「私はアムデル。あなたの名は?」

「る…ルビィだよ」

「クッキーは食べますか?」

「それは食べたことないけど、食べるの大好き。美味しいもん」

「では朝食を食べきったら作りましょう」

「う?うん」

アムデルはどこにしまっていたのか書類の束を取り出して仕事を始めた。ルビィはそれを横目に朝食を食べ進める。

「ねぇ、アムデル。ルビィのこと怖くないの?」

「何故怖がる必要が?」

「だって、ルビィ、精霊だよ?ニンゲンとは違うんだよ?」

「ルビィは人間が怖いのですか?」

ルビィは俯いた。

「みんな優しい人だって思う。でも怖いニンゲンもいるから気を付けなさいってお父様が言ってた」

「そうですね」

アムデルがルビィの頭を撫でる。そんなアムデルにルビィはにっこり笑った。

「ルビィ、一つだけ分かったよ」

「なにが分かったのですか?」

「アムデルは優しいニンゲンだね」

アムデルは口元を扇で隠すのだった。
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