6 / 58
一章
六話・事件
しおりを挟む
「シン!大変なんだ!」
ノックをしながらサーラは叫んだ。シンも只事ではないと感じたのだろう。すぐに部屋へ招き入れてくれた。ここはシンの書斎である。英雄の冒険譚から野菜の作り方まで様々な本が棚に並べられている。サーラはシンに抱き着いていた。先程見た無惨な死体を思い出すと酸っぱい物がせり上がってくるような嫌な感覚を覚える。
「サーラ、大丈夫?顔が真っ青」
「賊が殺られた」
「はい?」
シンの反応は当然だろう。もどかしかったがサーラは順を追って説明した。
「サーラ、力を使ったんだね?」
「ナオが心配だったんだ」
シンから力を使う時は相談してからにして欲しいとサーラは頼まれていた。だが居ても立っても居られなかったのだ。
「今頃ナオたちも死体を見つけてると思うよ」
「私は犯人を見ている」
「影だけね」
シンの的確な指摘にサーラは声を詰まらせた。その通りなのだ。せっかく力を使ったのに、ナオの力になれない。こんなに歯痒いことがあるだろうか。
「シン、私はどうしたらいい?」
「とりあえずナオに事情を話そう。巨大な影だったんでしょ?」
「ああ。確か大木くらいはあったな」
それは…とシンが呟く。
「シン?」
「もしかしたら神々かもしれないね」
「神々?」
アデスとイリシアには未だに神々が存在するとされている。不思議なことがままあるのもこの国で言えば、神々がいるからという一言に尽きる。人間を装い、彼らは静かに暮らしているという認識がアデスとイリシアの両国民の暗黙の了解だ。
「とりあえず、ナオに連絡してみる。サーラはもう休んで」
「でも…」
サーラが食い下がるとシンに優しく頭を撫でられる。
「サーラ、自分じゃ気が付いてないかもしれないけど、結構疲れてるよ。明日から飾り作りに行きたいんでしょ?ブドウの収穫だって結構大変なんだからよく休んでおかないと」
「あ、あぁ」
シンのことだ。自分をこれ以上この件に関わらせてくれないだろう。サーラはとぼとぼ寝室に戻って着替えをした。今頃ナオは…そう思うと気持ちが暗くなる。そんなのは自分らしくない、とサーラは頭を振った。もう寝てしまおう。朝になれば少し気持ちがマシになっているかもしれない。サーラはベッドに潜り込んだ。目を閉じると凄惨な現場がありありと思い浮かぶ。あの時は血の匂いがした。はっきり思い出せる。
もし犯人が神々だとして、何故あそこまでしなければならないのか。モヤモヤ考えていたが、サーラの体力はそこで尽きたのだった。
ノックをしながらサーラは叫んだ。シンも只事ではないと感じたのだろう。すぐに部屋へ招き入れてくれた。ここはシンの書斎である。英雄の冒険譚から野菜の作り方まで様々な本が棚に並べられている。サーラはシンに抱き着いていた。先程見た無惨な死体を思い出すと酸っぱい物がせり上がってくるような嫌な感覚を覚える。
「サーラ、大丈夫?顔が真っ青」
「賊が殺られた」
「はい?」
シンの反応は当然だろう。もどかしかったがサーラは順を追って説明した。
「サーラ、力を使ったんだね?」
「ナオが心配だったんだ」
シンから力を使う時は相談してからにして欲しいとサーラは頼まれていた。だが居ても立っても居られなかったのだ。
「今頃ナオたちも死体を見つけてると思うよ」
「私は犯人を見ている」
「影だけね」
シンの的確な指摘にサーラは声を詰まらせた。その通りなのだ。せっかく力を使ったのに、ナオの力になれない。こんなに歯痒いことがあるだろうか。
「シン、私はどうしたらいい?」
「とりあえずナオに事情を話そう。巨大な影だったんでしょ?」
「ああ。確か大木くらいはあったな」
それは…とシンが呟く。
「シン?」
「もしかしたら神々かもしれないね」
「神々?」
アデスとイリシアには未だに神々が存在するとされている。不思議なことがままあるのもこの国で言えば、神々がいるからという一言に尽きる。人間を装い、彼らは静かに暮らしているという認識がアデスとイリシアの両国民の暗黙の了解だ。
「とりあえず、ナオに連絡してみる。サーラはもう休んで」
「でも…」
サーラが食い下がるとシンに優しく頭を撫でられる。
「サーラ、自分じゃ気が付いてないかもしれないけど、結構疲れてるよ。明日から飾り作りに行きたいんでしょ?ブドウの収穫だって結構大変なんだからよく休んでおかないと」
「あ、あぁ」
シンのことだ。自分をこれ以上この件に関わらせてくれないだろう。サーラはとぼとぼ寝室に戻って着替えをした。今頃ナオは…そう思うと気持ちが暗くなる。そんなのは自分らしくない、とサーラは頭を振った。もう寝てしまおう。朝になれば少し気持ちがマシになっているかもしれない。サーラはベッドに潜り込んだ。目を閉じると凄惨な現場がありありと思い浮かぶ。あの時は血の匂いがした。はっきり思い出せる。
もし犯人が神々だとして、何故あそこまでしなければならないのか。モヤモヤ考えていたが、サーラの体力はそこで尽きたのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる