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一章
四話・出動
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「なぁ、シン。私も祭りの飾りを作ってみたい!」
アムデルから夏祭り開催の許可を得たサーラは早速夏祭りのプログラムを作ろうと張り切っていた。実行委員会もシンによってすでに作られている。あとは細々としたものを決めるだけだ。
「飾りかー。あれはアデスのおばあちゃんたちが作るやつだからな」
「難しいのか?」
サーラが首を傾げるとシンが笑う。
「サーラはコツコツ作業好きだから向いてるかもね。いいよ。明日から中央地区の会館に行っておいで」
「ブドウの収穫も朝出来るよな?」
「サーラは好きだねえ、昔から」
「外の世界は広くて楽しいんだ」
シンはそんなサーラをぎゅっと抱きしめた。
「世界が見たいなら僕と一緒に見よう?」
サーラは自分の顔が熱くなるのを感じる。
シンはそれだけカッコいい。サーラが体を固くしていると、額にそっとキスされる。
「サーラ、好きだよ」
「あ…」
「はい、ストップ」
サーラは急なことに何が起きたのか分からなかった。いつの間にか誰かに横抱きに抱えられてしまっている。
「な、ナオ!!」
「僕のサーラに何シてくれてるの?シン」
彼はサーラの弟であり、警察部隊の隊長として組織をまとめあげている。まだ13歳だ。だがその実力は確かである。サーラを溺愛するがあまり、よくこうして急にやってくる。
「な…なにもしてないよ」
シンがぼそぼそ、と言うと、ナオの青色の瞳がシンを映し出す。シンはそれに固まる他ない。
「サーラ、乱暴にしてごめんね。二人に報告があって来た」
ナオはサーラを下ろしながら言った。シンも表情を引き締める。
「イリシアの山岳地帯に賊が出ている。なんとか摘発したいけど結構相手が強くって苦戦してる。アデスにも侵入する可能性が高い」
「もうすぐ夏祭りで人の出入りも激しくなるのに」
シンの言葉にナオは頷いた。
「分かってる。ただ裏から糸を引いてるやつがいる」
「え?」
「ワニダっていう議員がどうもくさい。イリシアとアデス両方を掌握しようとしている可能性が高い」
「めちゃくちゃだ…」
「まだ可能性っていうだけ。僕はこれからまた現場に行く。二人も気を付けて」
「ナオ!」
弟の後ろ姿にサーラは声を掛けた。ナオが振り返る。
「お前も気を付けるんだぞ」
ナオはふんわりと笑った。
「ありがと、サーラ」
ナオは音もなくいなくなっていた。
「シン、私たちに何か出来ないのか?」
「うーん。警察が動いてるからね。一般人の僕たちには何も」
「そんな」
「大丈夫。ナオは強いし警察も優秀だよ。信じよう?」
「あ、あぁ。そうだな」
「僕たちは安全な夏祭りを開催することに集中しよう。いい?」
「分かった」
サーラは渋々頷いた。
アムデルから夏祭り開催の許可を得たサーラは早速夏祭りのプログラムを作ろうと張り切っていた。実行委員会もシンによってすでに作られている。あとは細々としたものを決めるだけだ。
「飾りかー。あれはアデスのおばあちゃんたちが作るやつだからな」
「難しいのか?」
サーラが首を傾げるとシンが笑う。
「サーラはコツコツ作業好きだから向いてるかもね。いいよ。明日から中央地区の会館に行っておいで」
「ブドウの収穫も朝出来るよな?」
「サーラは好きだねえ、昔から」
「外の世界は広くて楽しいんだ」
シンはそんなサーラをぎゅっと抱きしめた。
「世界が見たいなら僕と一緒に見よう?」
サーラは自分の顔が熱くなるのを感じる。
シンはそれだけカッコいい。サーラが体を固くしていると、額にそっとキスされる。
「サーラ、好きだよ」
「あ…」
「はい、ストップ」
サーラは急なことに何が起きたのか分からなかった。いつの間にか誰かに横抱きに抱えられてしまっている。
「な、ナオ!!」
「僕のサーラに何シてくれてるの?シン」
彼はサーラの弟であり、警察部隊の隊長として組織をまとめあげている。まだ13歳だ。だがその実力は確かである。サーラを溺愛するがあまり、よくこうして急にやってくる。
「な…なにもしてないよ」
シンがぼそぼそ、と言うと、ナオの青色の瞳がシンを映し出す。シンはそれに固まる他ない。
「サーラ、乱暴にしてごめんね。二人に報告があって来た」
ナオはサーラを下ろしながら言った。シンも表情を引き締める。
「イリシアの山岳地帯に賊が出ている。なんとか摘発したいけど結構相手が強くって苦戦してる。アデスにも侵入する可能性が高い」
「もうすぐ夏祭りで人の出入りも激しくなるのに」
シンの言葉にナオは頷いた。
「分かってる。ただ裏から糸を引いてるやつがいる」
「え?」
「ワニダっていう議員がどうもくさい。イリシアとアデス両方を掌握しようとしている可能性が高い」
「めちゃくちゃだ…」
「まだ可能性っていうだけ。僕はこれからまた現場に行く。二人も気を付けて」
「ナオ!」
弟の後ろ姿にサーラは声を掛けた。ナオが振り返る。
「お前も気を付けるんだぞ」
ナオはふんわりと笑った。
「ありがと、サーラ」
ナオは音もなくいなくなっていた。
「シン、私たちに何か出来ないのか?」
「うーん。警察が動いてるからね。一般人の僕たちには何も」
「そんな」
「大丈夫。ナオは強いし警察も優秀だよ。信じよう?」
「あ、あぁ。そうだな」
「僕たちは安全な夏祭りを開催することに集中しよう。いい?」
「分かった」
サーラは渋々頷いた。
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