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一章
三話・アムデル
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アデスには現女王がいる。彼女の名前はアムデルといった。夫のデュースを四年前に亡くしながらも、彼女による政治の手腕は変わらなかった。国民からも厚い支持を受けている。アムデルがいてこそのアデスだと謳われるくらいに。最近嫁いできたサーラをアムデルは心配していた。サーラを実の娘のように可愛がっているからこそである。女王という立場はアムデルに強さを求める。それをアムデルも重々承知していた。謁見の間でサーラがワンピースの両端を摘んでお辞儀をする。そんな彼女がアムデルは可愛くて仕方がない。今にも玉座から立ち上がってサーラを抱きしめてやりたいところだが、ここは一応、公の場だ。アムデルはなんとか堪える。サーラが膝をついたまま言う。
「女王陛下、おそれながら申し上げます。間もなくアデスにも厳しい夏が参ります。国民の発破をかけるため納涼の儀式をしたいのですが」
つまり砕けて言うと、夏祭りがしたいというだけだ。アムデルはこの会話が毎度もどかしくてたまらなくなる。そんなアムデルを夫のデュースは優しく笑って受け止めてくれたものだ。アムデルは口元を扇で隠した。サーラの可愛らしさに思わず頬が緩むのだ。
「よい。好きにせよ」
「ありがとうございます」
サーラが謁見の間から去るのをアムデルは見送った。義理の娘なのにこんなにも距離があるのが寂しい。アムデルは政務のために謁見の間を後にした。本当ならサーラともっとコミュニケーションが取りたい。隣にいる秘書官をチラリと見やると彼女は首を横に振った。どうやらまだこなさなければならない仕事があるようだ。アムデルは仕方がないと割り切ることにした。
「祭りの時は…」
そう言葉を紡ぐと、ようやく秘書官は頷いたのだった。
「女王陛下、おそれながら申し上げます。間もなくアデスにも厳しい夏が参ります。国民の発破をかけるため納涼の儀式をしたいのですが」
つまり砕けて言うと、夏祭りがしたいというだけだ。アムデルはこの会話が毎度もどかしくてたまらなくなる。そんなアムデルを夫のデュースは優しく笑って受け止めてくれたものだ。アムデルは口元を扇で隠した。サーラの可愛らしさに思わず頬が緩むのだ。
「よい。好きにせよ」
「ありがとうございます」
サーラが謁見の間から去るのをアムデルは見送った。義理の娘なのにこんなにも距離があるのが寂しい。アムデルは政務のために謁見の間を後にした。本当ならサーラともっとコミュニケーションが取りたい。隣にいる秘書官をチラリと見やると彼女は首を横に振った。どうやらまだこなさなければならない仕事があるようだ。アムデルは仕方がないと割り切ることにした。
「祭りの時は…」
そう言葉を紡ぐと、ようやく秘書官は頷いたのだった。
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