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キラキラアレンジ
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(アレンジってこういう風に改めて考えると、難しいな)
カチカチと時計の秒針が進む音がする。
ここは図書室だ。
樹はここで、空いた時間に簡単なバイトをするようになっていた。
今は、もうすぐ行われる中間考査に向けて、課題をしようと思ったが、どうしても曲のことが気になる。
樹はそっと教科書を閉じた。
今は勉強をする気にはなれない。
そして考える。
自分達が作っている曲は、正にアイドルに相応しい曲だ。だが、今の自分達に相応しいのだろうか、とも思う。
(俺達は俺達で、今までのアイドルとは違うんだよな)
「樹、曲はどうなった?」
そっと声を掛けられて、樹は顔を上げた。
そこにいたのは楓だ。
「あ、秋月先輩」
「今、ちょっといいか?」
「は…はい」
樹は教科書をカバンにしまい、立ち上がった。
二人がやって来たのは談話室だった。
風が奥の机で衣装を作っている。
彼は、自分の空いた時間を衣装作りに充てているらしい。
風の本気度に樹は負けていられないと思う。
忙しそうなので、敢えて彼には声を掛けなかった。向こうも気が付いていないようだ。
「連れてきたぞ」
「あぁ、サンキュ」
そこに居たのは健悟だった。
彼の前にはあらゆる音楽関係の資料が広げて置いてある。全てアイドルの記事のようだ。
「櫻木先輩、これは…?」
健悟が椅子の背もたれに寄りかかる。
「楓とアイドルの勉強してたんだよ。あー、疲れた」
そんな健悟の様子に樹は笑ってしまった。
ジロリと健悟に睨まれて、頑張って諌める。
「おい、樹。お前、余裕なのか?俺達って正直言って方向性バラバラだぞ」
「確かにな」
楓まで噴き出している。
どうやら樹につられてしまったようだ。
健悟が前のめりに座る。
「おい、高山P、お前の所見を聞かせろ」
樹は頷いていた。
✣✣✣
「はい、お茶です」
「悪いな、風。巻き込んじまって」
「いえ、全然。むしろ巻き込んでもらった方が嬉しいです」
風が淹れてくれた熱いお茶を、樹は一口啜った。
ここには「seasons」に関わる全員が集まっている。
「で、プロデューサー様は俺達になんの話があるってんだ?」
健悟が煽るように言うが、それに乗ってやる必要はない。
「俺、思ったんです。俺達は今までのアイドルと同じである必要はないって。
だって、俺達って生きてるだけでキラキラしてますし」
「はぁ?」
健悟が首を傾げている。
そっか、と真城が手を打った。
「確かに被写体の皆さんはキラキラしてるよ!どんな人もね」
「えー、じゃあ僕もキラキラしてるのー?」
風が驚いたように言うので、樹はもちろんと頷いてみせた。
「えぇ、じゃあ俺達はどうすれば?」
克樹が困ったように言う。
樹は談話室に置いてあった貸し出し自由なギターを手に取った。
チューニングをして、樹は歌い始める。
何度も、何度もなぞった曲だ。
ここに来るまで、樹はいくつかアレンジを思いついていた。
それを加えて歌ってみせる。
まるで天啓のようだった。
皆が自分らしく輝ける曲にしたかった。
樹は少しオーバーなくらいにここにいるパフォーマーらしく歌ったつもりだ。
「いっくん、カッコいいー!」
克樹の視線に樹は照れてしまった。
他の皆を見渡すと、ぽかんとしている。
「え、今のめっちゃカッコよくなかった?」
真城が困ったように言う。
健悟がそれに頷いた。
「やはり樹殿にはプロデューサーとしての才覚があるのだろうな」
「さすがいっくん!」
「おい、樹。
これでいくぞ」
ジロリと健悟に睨まれて、樹はいつも通り縮こまったのだった。
カチカチと時計の秒針が進む音がする。
ここは図書室だ。
樹はここで、空いた時間に簡単なバイトをするようになっていた。
今は、もうすぐ行われる中間考査に向けて、課題をしようと思ったが、どうしても曲のことが気になる。
樹はそっと教科書を閉じた。
今は勉強をする気にはなれない。
そして考える。
自分達が作っている曲は、正にアイドルに相応しい曲だ。だが、今の自分達に相応しいのだろうか、とも思う。
(俺達は俺達で、今までのアイドルとは違うんだよな)
「樹、曲はどうなった?」
そっと声を掛けられて、樹は顔を上げた。
そこにいたのは楓だ。
「あ、秋月先輩」
「今、ちょっといいか?」
「は…はい」
樹は教科書をカバンにしまい、立ち上がった。
二人がやって来たのは談話室だった。
風が奥の机で衣装を作っている。
彼は、自分の空いた時間を衣装作りに充てているらしい。
風の本気度に樹は負けていられないと思う。
忙しそうなので、敢えて彼には声を掛けなかった。向こうも気が付いていないようだ。
「連れてきたぞ」
「あぁ、サンキュ」
そこに居たのは健悟だった。
彼の前にはあらゆる音楽関係の資料が広げて置いてある。全てアイドルの記事のようだ。
「櫻木先輩、これは…?」
健悟が椅子の背もたれに寄りかかる。
「楓とアイドルの勉強してたんだよ。あー、疲れた」
そんな健悟の様子に樹は笑ってしまった。
ジロリと健悟に睨まれて、頑張って諌める。
「おい、樹。お前、余裕なのか?俺達って正直言って方向性バラバラだぞ」
「確かにな」
楓まで噴き出している。
どうやら樹につられてしまったようだ。
健悟が前のめりに座る。
「おい、高山P、お前の所見を聞かせろ」
樹は頷いていた。
✣✣✣
「はい、お茶です」
「悪いな、風。巻き込んじまって」
「いえ、全然。むしろ巻き込んでもらった方が嬉しいです」
風が淹れてくれた熱いお茶を、樹は一口啜った。
ここには「seasons」に関わる全員が集まっている。
「で、プロデューサー様は俺達になんの話があるってんだ?」
健悟が煽るように言うが、それに乗ってやる必要はない。
「俺、思ったんです。俺達は今までのアイドルと同じである必要はないって。
だって、俺達って生きてるだけでキラキラしてますし」
「はぁ?」
健悟が首を傾げている。
そっか、と真城が手を打った。
「確かに被写体の皆さんはキラキラしてるよ!どんな人もね」
「えー、じゃあ僕もキラキラしてるのー?」
風が驚いたように言うので、樹はもちろんと頷いてみせた。
「えぇ、じゃあ俺達はどうすれば?」
克樹が困ったように言う。
樹は談話室に置いてあった貸し出し自由なギターを手に取った。
チューニングをして、樹は歌い始める。
何度も、何度もなぞった曲だ。
ここに来るまで、樹はいくつかアレンジを思いついていた。
それを加えて歌ってみせる。
まるで天啓のようだった。
皆が自分らしく輝ける曲にしたかった。
樹は少しオーバーなくらいにここにいるパフォーマーらしく歌ったつもりだ。
「いっくん、カッコいいー!」
克樹の視線に樹は照れてしまった。
他の皆を見渡すと、ぽかんとしている。
「え、今のめっちゃカッコよくなかった?」
真城が困ったように言う。
健悟がそれに頷いた。
「やはり樹殿にはプロデューサーとしての才覚があるのだろうな」
「さすがいっくん!」
「おい、樹。
これでいくぞ」
ジロリと健悟に睨まれて、樹はいつも通り縮こまったのだった。
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