男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ

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ぬいぐるみ

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ゲームセンター内に入ると、ゲーム音で騒がしい。だが直に慣れてくる。

「いっくん、見てみて!」

他のゲーム機を見ていた樹は、克樹の方へ走り寄った。

「何かあった?」

「これ、いっくんが好きなキャラじゃない?」

確かに克樹の言う通り、樹の好きなキャラクターだった。なかなかこのキャラクターのグッズが出ないとファンの間から言われていたことを思い出す。樹はそのぬいぐるみをガラス越しに見つめた。出来はかなりいい。
このぬいぐるみでラストなのか、奥の棚は空だった。
克樹もゲーム機内の、ぬいぐるみの位置を確認している。
UFOキャッチャーは克樹の得意なゲームだ。
だが、とても大きなぬいぐるみだ。
簡単には取れないだろう。樹は財布の中身を思い出していた。
小遣いは大事に使うように両親から厳命されている。今月は新しい漫画や文房具も欲しい。
どうしようか迷っていると、克樹がニッと笑った。財布から500円玉を取り出している。

「やってみよ!」

樹が止める間もなく、克樹はマシンに500円玉を放っていた。
プレイ回数は6回。

「かっちゃん、大丈夫なの?」

「任せて!」

そんな兄の笑顔にドキドキしてしまう。

(かっちゃんってやっぱりかっこいいな)

改めてそう思う樹である。
克樹の操作は全て的確だった。
やはり上手い。
ぬいぐるみを絶妙な位置へずらしていく。

「ラストでいけるかなー」

「頑張れ!かっちゃん!」

克樹はぬいぐるみをアームで掴んだ。
ぬいぐるみがゆるゆると持ち上がる。

「いっけー!」

ぽすん、とぬいぐるみが取り出し口に落ちてくる。2人はお互いを見つめ合った。

「取れた?」

「うん、取れたよね?」

克樹が取り出し口からぬいぐるみを取り出す。

「すごい!かっちゃん!!」

「いっくん、どうぞ」

「ありがとう!!」

樹はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
近くで見ると、より出来の良さが分かる。

「わぁ、可愛い。本当にありがとう!」

「いっくん、太鼓の鉄人で対戦しよ!」

「うん!」

2人はしばらくリズムゲー厶やレースゲームなどの対戦ゲームを堪能した。
腕時計を見ると、いつの間にか16時になっている。

「かっちゃん、大変!制服!」

「あ!もうそんな時間か!行こう!」

2人は走って駅を目指した。
こうやって一緒にいられるのもいつまでだろう、と樹はふと考えてしまう。

克樹がアイドルになれば尚更だ。
それなら自分がプロデューサーになればいい、と強気な自分は言うが、本当にそれが可能かどうか時々不安になる。
芸能界の仕事は甘くない。勉強すればするほど、実感する。

(俺はどうしたら…)

「いっくん、大丈夫?」

「かっちゃん…俺」

克樹が自分を優しく抱き締めてくれた。

「大丈夫、俺がいるし!」

ぎゅうううーと抱き締められて、ホッとする自分がいる。

「なんだよソレ…」

思わず笑ってしまったら、克樹も笑った。

「俺はいっくんの一番の味方だから!」

「うん、ありがとう。かっちゃん」

克樹の言葉は嬉しい。だが少し傷付いてしまう。克樹が自分を特別視してくれるのは自分の弟だからであって、樹だからというわけじゃない。
そんな繊細すぎる自分が、樹は嫌いだった。

「かっちゃん、早く制服取りに行こ」

「うん、行こう!」

2人は朝、出発した時と同じように手を繋いで歩き出した。
樹は隣の克樹を見上げる。
克樹の大きな手が大好きだ。
それはこれからもずっと変わらないのだろう。
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