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一日目総括
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「痛っ!」
「大丈夫?樹」
その日の昼食を食べた後の時限、樹は「衣装製作」の授業に出ていた。
これもまた「楽曲創作」と同じく選択科目だ。
風も同じ科目を選択していたようで、近くの席に座っている。
この授業では、衣装をデザインして作るという工程を学ぶ科目だ。
まずは手始めにキットを使ってナップサックを作ることになった。
まずは手縫いでしつけをしていく。
その後はミシンで縫い、強度を高める。
今はそのしつけをしているところだった。
樹は先程から何度も布ではなく、自分の指に針を刺してしまう。
血こそあまり出ないが、痛い思いを何度もして、だんだんこの授業に対するモチベーションが下がってきている。
樹はどちらかと言えば不器用な方だ。
「また指に刺しちゃった…もうやだな」
「樹の指、細いし白くて綺麗だから余計だよねー」
風が視線を上げずにこんなことを言ってきたので樹は驚いた。
「え?なんて?」
尋ね返すと風が視線を上げる。
「樹の手が綺麗って言ったんだけど?」
「そ、そんなこと…風と変わらないよ」
もじもじしていると風に笑われる。
「樹、もうすぐ授業終わるし、頑張ろ!」
「う…うん」
風に励まされて、樹はしつけを無事完了させる事ができた。
「はー、ただいまー!」
樹はなんとか寮の部屋に帰って来ていた。
とにかく一日の密度が濃い。
毎日こんなに濃密なのか、と樹は少し青ざめた。だが、自分はただスポンジのように吸収していくしかない。
ベッドにうつ伏せに倒れ込んで、スマートフォンを見る。
「わ、櫻木先輩から連絡来てる…」
先程、健悟から連絡先を教えろと凄まれたのだった。
もちろん怖くて断れるはずがない。
樹は渋々連絡先を渡したのだ。
メッセージアプリを開くと、健悟から曲作りのイメージを聞かれていた。
午前中に授業があったばかりなので、随分せっかちだなあと思いつつ、返信する。
もちろん、健悟に歌ってもらいたいと先程思ったバラード調の曲イメージを伝える。
それに健悟は驚いているようだった。
「櫻木先輩だから歌える曲を作りたいんです」
そう返したら、しばらく間があって、こんな返信が来た。
『お前がどれだけのものか見せてもらうぜ。
俺に歌えない曲を作るなよ?』
プレッシャーも感じたが、樹は鼻息荒く起き上がった。
制服からジャージに着替える。
そしてアコースティックギターを手に取った。
「ただいまー、樹?何してるの?」
風も帰ってきたようだ。
樹はギターのチューニングを合わせていた。
「お帰り、風。ちょっと弾いてていい?」
「わー、作曲するんだ?」
「うん。うるさかったら言ってね」
樹は思い浮かんだメロデイ通りに指を動かした。
忘れないようにすぐに楽譜を起こす。
「へー、作曲ってそうやるんだ」
「人によると思うけどね」
そんな中ドアがノックされる。
風がドアを開けると克樹だった。
樹に抱き着いてくる。
「いっくーん!会いたかったよー!」
ぎゅむう、ときつく抱き締められる。
「かっちゃん、アイドル科はどう?」
樹の言葉に克樹の表情が強ばる。
「ダンスまじ疲れる。動きが揃ってないって何度も牡丹に同じとこやり直しさせられた」
「あー、大勢でやるダンスは揃ってた方がかっこいいからね」
風が頷いている。
「でもみんな優しい。牡丹もしっかり教えてくれる」
「よかったじゃん」
「いっくんはどんな感じ?」
樹は絆創膏だらけの指を見せたのだった。
「大丈夫?樹」
その日の昼食を食べた後の時限、樹は「衣装製作」の授業に出ていた。
これもまた「楽曲創作」と同じく選択科目だ。
風も同じ科目を選択していたようで、近くの席に座っている。
この授業では、衣装をデザインして作るという工程を学ぶ科目だ。
まずは手始めにキットを使ってナップサックを作ることになった。
まずは手縫いでしつけをしていく。
その後はミシンで縫い、強度を高める。
今はそのしつけをしているところだった。
樹は先程から何度も布ではなく、自分の指に針を刺してしまう。
血こそあまり出ないが、痛い思いを何度もして、だんだんこの授業に対するモチベーションが下がってきている。
樹はどちらかと言えば不器用な方だ。
「また指に刺しちゃった…もうやだな」
「樹の指、細いし白くて綺麗だから余計だよねー」
風が視線を上げずにこんなことを言ってきたので樹は驚いた。
「え?なんて?」
尋ね返すと風が視線を上げる。
「樹の手が綺麗って言ったんだけど?」
「そ、そんなこと…風と変わらないよ」
もじもじしていると風に笑われる。
「樹、もうすぐ授業終わるし、頑張ろ!」
「う…うん」
風に励まされて、樹はしつけを無事完了させる事ができた。
「はー、ただいまー!」
樹はなんとか寮の部屋に帰って来ていた。
とにかく一日の密度が濃い。
毎日こんなに濃密なのか、と樹は少し青ざめた。だが、自分はただスポンジのように吸収していくしかない。
ベッドにうつ伏せに倒れ込んで、スマートフォンを見る。
「わ、櫻木先輩から連絡来てる…」
先程、健悟から連絡先を教えろと凄まれたのだった。
もちろん怖くて断れるはずがない。
樹は渋々連絡先を渡したのだ。
メッセージアプリを開くと、健悟から曲作りのイメージを聞かれていた。
午前中に授業があったばかりなので、随分せっかちだなあと思いつつ、返信する。
もちろん、健悟に歌ってもらいたいと先程思ったバラード調の曲イメージを伝える。
それに健悟は驚いているようだった。
「櫻木先輩だから歌える曲を作りたいんです」
そう返したら、しばらく間があって、こんな返信が来た。
『お前がどれだけのものか見せてもらうぜ。
俺に歌えない曲を作るなよ?』
プレッシャーも感じたが、樹は鼻息荒く起き上がった。
制服からジャージに着替える。
そしてアコースティックギターを手に取った。
「ただいまー、樹?何してるの?」
風も帰ってきたようだ。
樹はギターのチューニングを合わせていた。
「お帰り、風。ちょっと弾いてていい?」
「わー、作曲するんだ?」
「うん。うるさかったら言ってね」
樹は思い浮かんだメロデイ通りに指を動かした。
忘れないようにすぐに楽譜を起こす。
「へー、作曲ってそうやるんだ」
「人によると思うけどね」
そんな中ドアがノックされる。
風がドアを開けると克樹だった。
樹に抱き着いてくる。
「いっくーん!会いたかったよー!」
ぎゅむう、ときつく抱き締められる。
「かっちゃん、アイドル科はどう?」
樹の言葉に克樹の表情が強ばる。
「ダンスまじ疲れる。動きが揃ってないって何度も牡丹に同じとこやり直しさせられた」
「あー、大勢でやるダンスは揃ってた方がかっこいいからね」
風が頷いている。
「でもみんな優しい。牡丹もしっかり教えてくれる」
「よかったじゃん」
「いっくんはどんな感じ?」
樹は絆創膏だらけの指を見せたのだった。
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