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加那太は自分の部屋で着替えている。今日は千尋と約束していたデートの日だ。
せっかくのデートなのだから、可愛い服を着ようと前日にコーディネートを考えておいたのだ。白い大きめのセーターに灰色チェックのワイドパンツ。アイボリーのファーコート。足元は茶色のブーツだ。暖かさを重視しながらも可愛さも含んだかなり自信のあるものだった。マフラーは淡いピンク。千晶が前にくれたものを着ける。
加那太が部屋を出ると、ダウンジャケットを着た千尋がいた。千尋は黒を着ることが多い。下は細身のデニムだった。いつもの黒いスニーカーと合わせるのだろう。
「可愛いな、ソレ」
「ふふ、でしょう?」
二人はどちらからともなく手を繋いだ。二人で出掛ける時はこうして手を繋ぐ。いつの間にか出来た暗黙のルールである。
駅に着き、交通カードで中に入る。ここからさほど離れていないショッピングモールが目的地だ。すでに車内は人で溢れかえっている。
「加那、俺に掴まってろ」
「うん、ここガタガタするもんね」
毎回ここを通る度に千尋に掴まっている気がする。目的地である駅まではあっという間だった。二人はコンコースを抜けて、ショッピングモールに入店した。スマートフォンの時計を確認すると予定よりも早く着いていた。チケットを買う列に並ぶ。
「何見るんだ?」
「これ。雨の中の君にってやつ」
「なんだか切なそうなタイトルだな」
「うん、切なくてすごくキュンキュンするみたいなの!」
「加那好きだもんな、キュンキュン」
ふは、と千尋が笑う。
「もー、ちゃんと内容も面白いって評判もいいんだよ?有名監督だし脚本だって」
「いや、キュンキュンしている加那が可愛いなって」
千尋にそう言われて、顔が急に熱くなった。
「あ…そっちか、そっちねー」
照れながら必死に言い訳していると、列が前に進む。加那太たちも前へ進んだ。チケットを無事に買い、今度はドリンクを買う列に並んでいる。
「加那、キャラメルポップコーンにするか。バターましましで付けるだろ」
「ふわぁ、なんてカロリー爆弾。食べるけども」
「飲み物はどうする?」
「コークって言いたいけどここはアイスティーにする」
「お、今更カロリー調整か」
「一応気になるんだもん。だって年齢が年齢だし?」
加那太の言葉に千尋がまた笑っている。そしてぎゅっと腰を抱き寄せられた。今日の千尋はボディタッチが多いような気がする。気のせいだろうか。
「加那」
優しく手を掴まれてにぎにぎされる。まるであやされているようでちょっと照れ臭い。
「もー、千尋。僕は赤ちゃんじゃないよ」
むすっと膨れて見せたが、千尋は笑った。購入したチケットとフード類を持って席に着く。
「わああ、楽しみ」
「周りカップルばっかりだな」
「え」
千尋が隣に腰かけながら言う。加那太は思わず周りをきょろきょろ見回してしまった。確かに男女のペアが多いような気がする。女の子だけというグループもいたが、おそらく主演の男性俳優が目的だろう。
「まあ映画がそういうテーマだもんな」
「ゴチラの方が良かった?」
加那太は慌てた。ゴチラは特撮物で、そちらも面白いと評判だった。CMでよく予告が流れて来る。
「いや、普通に加那とこれ観たいけど」
ひええと加那太は心の中で叫んだ。千尋のイケメンぶりが今日は特に際立って見えたからだ。
「僕とこれ観て楽しいかな?」
自信がなくなって言うと千尋に頭を撫でられる。
「面白いに決まってるだろ」
加那太の胸にほわっと温かいものが湧きだしてきた。こういう千尋が小さな頃から大好きで、大人になった今も変わらず大好きである。
「千尋、ダイスキ」
たまらず言うと千尋にじっと見つめられた。
「俺もだよ」
駄目だと加那太は座席に崩れ落ちるように座っている。
千尋が今日は格好良すぎる。
いつもイケメンでそれだけで心が持ってかれてしまうというのに。
ブーとブザーが鳴り響く。予告が流れ始めた。
せっかくのデートなのだから、可愛い服を着ようと前日にコーディネートを考えておいたのだ。白い大きめのセーターに灰色チェックのワイドパンツ。アイボリーのファーコート。足元は茶色のブーツだ。暖かさを重視しながらも可愛さも含んだかなり自信のあるものだった。マフラーは淡いピンク。千晶が前にくれたものを着ける。
加那太が部屋を出ると、ダウンジャケットを着た千尋がいた。千尋は黒を着ることが多い。下は細身のデニムだった。いつもの黒いスニーカーと合わせるのだろう。
「可愛いな、ソレ」
「ふふ、でしょう?」
二人はどちらからともなく手を繋いだ。二人で出掛ける時はこうして手を繋ぐ。いつの間にか出来た暗黙のルールである。
駅に着き、交通カードで中に入る。ここからさほど離れていないショッピングモールが目的地だ。すでに車内は人で溢れかえっている。
「加那、俺に掴まってろ」
「うん、ここガタガタするもんね」
毎回ここを通る度に千尋に掴まっている気がする。目的地である駅まではあっという間だった。二人はコンコースを抜けて、ショッピングモールに入店した。スマートフォンの時計を確認すると予定よりも早く着いていた。チケットを買う列に並ぶ。
「何見るんだ?」
「これ。雨の中の君にってやつ」
「なんだか切なそうなタイトルだな」
「うん、切なくてすごくキュンキュンするみたいなの!」
「加那好きだもんな、キュンキュン」
ふは、と千尋が笑う。
「もー、ちゃんと内容も面白いって評判もいいんだよ?有名監督だし脚本だって」
「いや、キュンキュンしている加那が可愛いなって」
千尋にそう言われて、顔が急に熱くなった。
「あ…そっちか、そっちねー」
照れながら必死に言い訳していると、列が前に進む。加那太たちも前へ進んだ。チケットを無事に買い、今度はドリンクを買う列に並んでいる。
「加那、キャラメルポップコーンにするか。バターましましで付けるだろ」
「ふわぁ、なんてカロリー爆弾。食べるけども」
「飲み物はどうする?」
「コークって言いたいけどここはアイスティーにする」
「お、今更カロリー調整か」
「一応気になるんだもん。だって年齢が年齢だし?」
加那太の言葉に千尋がまた笑っている。そしてぎゅっと腰を抱き寄せられた。今日の千尋はボディタッチが多いような気がする。気のせいだろうか。
「加那」
優しく手を掴まれてにぎにぎされる。まるであやされているようでちょっと照れ臭い。
「もー、千尋。僕は赤ちゃんじゃないよ」
むすっと膨れて見せたが、千尋は笑った。購入したチケットとフード類を持って席に着く。
「わああ、楽しみ」
「周りカップルばっかりだな」
「え」
千尋が隣に腰かけながら言う。加那太は思わず周りをきょろきょろ見回してしまった。確かに男女のペアが多いような気がする。女の子だけというグループもいたが、おそらく主演の男性俳優が目的だろう。
「まあ映画がそういうテーマだもんな」
「ゴチラの方が良かった?」
加那太は慌てた。ゴチラは特撮物で、そちらも面白いと評判だった。CMでよく予告が流れて来る。
「いや、普通に加那とこれ観たいけど」
ひええと加那太は心の中で叫んだ。千尋のイケメンぶりが今日は特に際立って見えたからだ。
「僕とこれ観て楽しいかな?」
自信がなくなって言うと千尋に頭を撫でられる。
「面白いに決まってるだろ」
加那太の胸にほわっと温かいものが湧きだしてきた。こういう千尋が小さな頃から大好きで、大人になった今も変わらず大好きである。
「千尋、ダイスキ」
たまらず言うと千尋にじっと見つめられた。
「俺もだよ」
駄目だと加那太は座席に崩れ落ちるように座っている。
千尋が今日は格好良すぎる。
いつもイケメンでそれだけで心が持ってかれてしまうというのに。
ブーとブザーが鳴り響く。予告が流れ始めた。
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