憂鬱バレンタイン

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
5 / 12

2/11

しおりを挟む
「どれにするかな」

週末、天気予報は当たり、雪がちらついていた。 
今は千尋と近くのスーパーに買い物に来ている。この間なくなってしまった、タマのおやつも買わなければならない。

「加那はどれがいい?」

千尋はトイレの消臭剤の香りで迷っているらしい。前まで愛用していたものが販売終了してしまったようだ。

「うーん、正直サンプル嗅ぎ過ぎて何がなんだか分かんなくなってるかも」

「実は俺もだ」

加那太は一つ、水色のパッケージを手に取った。

「無難に石鹸の香りで!失敗ないでしょ」

「そうだな、そうするか」

二月は冬で一番冷え込む。温かい鍋が食べたいと加那太は強請った。今は白菜が安いらしい。千尋は大きな白菜を一玉カゴに入れていた。

「これならロール白菜ができるな」

「わぁ、それ僕が大好きなやつ」

千尋の作る肉団子がそもそも美味いのに、スープにしみしみとろとろになった白菜も加われば、最強以外の何物でもない。

「千尋のロール白菜は飲み物」

「いや、頼むからちゃんと噛んでくれ」

千尋に真顔で突っ込まれる。二人は笑った。

「あと食べたいもんあるか?」

「ミートソースパスタ!」

「加那は本当、挽き肉好きだよな」

「大好き。あ、タマのおやつ持ってきて良い?」

「おう、向こうの豆腐のコーナー見てるな」

「はーい」

恐らくは鍋に入れる豆腐を吟味するのだろう。
千尋のことだ。豆腐ではなくて厚揚げをチョイスする可能性もある。鍋の素になるスープは豆乳だと言っていた。どんな鍋が出来るかとても楽しみだ。

「えーと、マグロはこれか」

猫のおやつがスーパーに当たり前のように売っているのは有り難い。加那太が豆腐のコーナーに向かうと、千尋が豆腐の成分表示を眺めていた。グラム数を見ているのだと気が付く。

「それにするの?」

「焼き豆腐でもいいぞ」

「わあ、美味しそう」

千尋は必要な材料を全てカゴに入れ終わったらしい。買い物メモをチェックしている。

「よし、行こう」

レジに向かって会計を済ませる。最近は支払機が無人になって、スピーディになった。
一度に複数人客を捌けるのだから、店側も楽なのだろう。

「加那、早速今夜鍋するか?」

「うん!」

千尋の提案が加那太は嬉しかった。
トランクを開けてカートから荷物を積む。

「加那、これ飲むか?おつとめ品だけど」

千尋が渡してきたのは値引きされているミルクココアだった。

「千尋の分はある?」

「あるぞ」

千尋は何をやらせてもスマートである。
加那太がカートを戻して車に向かうと、千尋が暖房をつけていてくれた。

「今日は休みだから道が混むぞ。早めに来て良かったな」

「うん、本当だね」

雪が舞う中を車は走る。積もりこそしないが冷える。

「お父さん大丈夫かなぁ?」

加那太が思わず呟くと、千尋が頷いた。

「新潟だろ?雪すごそうだよな」

加那太の父親は現在新潟県で単身赴任をしている。時折帰って来る度にこっちに戻ってきてよと加那太は頼んでみるのだが、仕事が楽しいからとなかなか聞いてもらえない。

「まぁ加那パパはたくましいもんな」

「たくましいというか、単純に新潟の海が好きなんだよね」

「確かに新潟の海はいいよなあ」

千尋が同意してくれて、加那太は嬉しかった。

「また遊びに行こうぜ」

「うん」

また、があるのは嬉しいなと加那太の心がほっこりした。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

たまにはゆっくり、歩きませんか?

隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。 よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。 世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...