カラスの月夜

はやしかわともえ

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俺はまた鴉になっていた。
茉莉也の式神と戦うのはなかなか力の消耗が激しいらしい。
鴉の姿だと茉莉也たちと話が出来ないから不便だ。俺はぴょん、と机に飛び乗った。
それにしても暇だな。三人は買い物にでかけている。俺は留守番というわけだ。鴉にだってそれくらいはできる。

「月夜、ただいまっ!」

薫くんが駆け寄ってくる。
俺達は少しずつ仲良くなってきていた。


「月夜!一緒にお菓子食べようぜ!」

「こら、薫。まず手を洗って」

「はーい」

茉莉也の言うことは素直に聞くんだな。俺は笑いそうになってしまった。
鴉が人間みたいに笑ったら不気味かな。
洗面台で薫くんは言われた通り、手を洗って、うがいをしていた。
えらいな。

「兄ちゃん!ちゃんとやったからね!お菓子ちょうだい!」

「はい。月夜にあげるのはいいけど」

「小さく砕けばいいんでしょ?俺だってわかってるよ」

「うん」

茉莉也は母親のような顔で頷く。
薫くんが本当に可愛いんだな。

薫くんが砕いて俺にくれたのはクッキーだった。

「カア!」

なんて美味いんだ!もりもりとクッキーを貪る。

「月夜って結構食いしん坊だよね」

ふと薫くんに言われる。

「ホントだ」

茉莉也が吹き出す。俺もその通りだと思った。
仕方ないじゃないか、下界の食べ物が美味しすぎるんだ。

「さ、夕飯作ろっと」

「俺も手伝う!」

俺も手伝いたいけど鴉じゃな。
せめて邪魔にならないようにどこかにいよう。
今日は満月か。

(ん?満月?)

俺は外に飛び出した。
光が俺に集まってくる。
だんだん人間の姿に戻ってきた。

俺の名前に月が入っているのは、俺が月の加護を受けているからだ。
前に女将さんにそう言われた。


「茉莉也!」

台所に戻ると、茉莉也が何かを炒めている。

「あれ?月夜戻れたんだ?」

「今だけだが」

「よかった。いっぱいおかずがあるんだよ。月夜に食べてもらおうっと」

「よろこんで」

夕飯はすごく豪華だった。
薫くんがテストで100点をとったお祝いらしい。
学校というところは、いろいろなことを勉強すると聞いた。
俺も一度は行ってみたかった。

「月夜、これがテストだよ」

薫くんが俺にテストを見せてくれた。
俺は文字の読み書きは少ししかできない。
だから酒処・茜の仕事もぎりぎりだった。
アカネちゃんがいかに俺に配慮してくれていたのかがわかる。

「すごいなあ。俺には一つもわからない」

そのテストは算数だと聞いた。
数字がびっしり並んでいて、見ているだけでいやになる。

「じゃあ、俺が暇なときに教えてあげるよ」

「本当か?」

「うん」

薫くんは優しいなあ。

「薫、お風呂わいたよ」

「入ってくるー」

茉莉也がお茶を淹れてくれた。

「薫、すっかり月夜になついたね」

「いい子だな、薫くんは」

茉莉也が笑って俺の頭を撫でた。

「月夜もいい子」

茉莉也にドキドキしてしまう。好きだなあ。

「月夜は月の光で力を得られるんだね」

「ああ、そうみたいだ。でも鴉の時は夜は天界にいたから」

「なるほど」

茉莉也が俺をぎゅう、と抱きしめる。

「久しぶりだ。月夜のにおい」

茉莉也に抱きしめられて恥ずかしさが先行する。

「茉莉也、あの」

「月夜、人間にちゃんと戻れるまでもう少しおとなしくしてなね」

「ああ」


それから、俺は自分の力を確かめた。確かに力の絶対量は増えている。
俺は強くなりたい。茉莉也を守るために。
ん?
不思議な気配を俺は感じた。立ち上がってそちらに向かう。

(庭?)

ガララとガラス戸を開けると誰かがいた。

「青鬼?」

「よかった、月夜。ようやく会えた」

青鬼がそのまま家に飛び込んでくる。

「どうしたんだ?」

「悪鬼が、悪鬼が復活したんだ!」

「え?」

「まさかお前、悪鬼も忘れているのか?」

「すまない。そうなんだ」

青鬼はため息をつく。

「茉莉也姫にこのことを伝えてくれ。俺はまだ行く場所がある」

「わかった」

青鬼は走って行ってしまった。

「月夜?」

茉莉也がやってくる。

「茉莉也、今青鬼が来て」

俺は青鬼の話を伝えた。

「そうなんだ。ついにこの時が」

「茉莉也?」

茉莉也は俺をまた抱きしめる。

「今は力を回復しよう。大丈夫、悪鬼はすぐには動けないからね」

茉莉也はなにか知っているのか。
記憶を取り戻せたらいいのに。
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