引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
86 / 92

86

しおりを挟む
ソータは物陰にいたキメルに駆け寄った。いつの間にか幻獣の姿に戻っている。やはりこの姿でいるほうが楽らしい。

「キメルー!」

「ソータ!無事か?」

ソータは笑って頷いた。キメルに先程もらった名刺を見せる。

「技術の至らない魔剣があるって店主様が仰っていてね。それを造ったヒトの名前が分かったの」

「そこが情報の漏洩先ってことか。真龍族なら誰でも技術の端っこくらいは持ち出せるからなぁ。とりあえず行ってみるか。そのカイガラへ」

カードにはカイガラ横丁 タキナミとかかれている。中央都市を惑星の中心として考えると、そこは、東部に位置する。カイガラには豊かな水資源や高度な魔法技術があるが、最近では資源が底を尽きるかもしれないという指摘もある。世界中どこに行っても、何かしらの問題がある。ソータはそれに対して祈ることしか出来ない。それが聖女としての役割だ。祈り、神々に働きかけ、それで更に人とヒトとを繋ぐ。聖女だからといって、なんでもできるわけではない。前聖女は問題が起こったそんな時、必ず祈っていた。ソータはそれを幼い時から見てきた。今度は自分の番だとソータはいつも思っている。

「カイガラなら一日くらいで行けそうだね」

「いや、半日だな」

「そんなに早く?」

キメルの強気な返答にソータは驚いた。

「チビを迎えに行かなきゃいけないしな」

二週間という期限は長いようで短い。キメルがドラゴのことを意識してくれているのを知り、ソータは嬉しくなった。

「そうだ、このことドラゴに話そうっと。キメルがすごく心配してたよって」

ふふっとソータが意地悪く笑うと、キメルが困ったという顔をする。

「お、俺は心配なんて…」

「照れなくてもいいじゃない。ドラゴはキメルに憧れてるんだよ」

「へ…」

キメルの顔がほんのり赤らんでいることにソータは気が付いた。

「キメル、気が付かなかったの?ドラゴはね、強くて優しくて、かっこいいキメルみたいな大人になりたいんだよ、あとね…」

「そ、ソータ、待ってくれ。それ以上は恥ずかしくて死ぬから」

キメルの顔が真っ赤になっている。ソータはそこで勘弁しておくことにした。死んでもらっては困る。

「ね、キメル。ドラゴともっとお話してあげて?ドラゴ、キメルとどうやって話したら良いか分からないって悩んでいたから」

「あいつ、チビのくせに一丁前に悩みがあるのか…」

キメルがぎりぎりと歯ぎしりしている。

「迎えに行ったら頭に噛みついてやる」

ソータはそれに笑ってしまった。キメルは甘噛みが上手だ。

「キメル、カイガラ横丁に行ってみよう!」

「ああ。何か見つかると良いな」

ソータがキメルに跨ると、キメルはぐんぐんスピードを上げる。確かにこれなら半日で目的地に到達出来そうだ。

「向こうに着いたら張り込みだ。ソータ、体は大丈夫か?」

「聖女の体力舐めないでよね。騎士様と同じ訓練をするんだよ?」

キメルが鼻を鳴らす。

「確かにその通りだな」

キメルは東に向かって走った。ソータがぎゅ、とキメルにしがみつく。

「ねえ、キメル。もし、技術が漏洩していたとして、私たちはどうするべきなの?」

「そうだな。まずはルーゴに知らせて、そこからは真龍族の判断だ。今回の件に関して真龍族はあまり関わりたくないと思っているから、判断も早いと思う」

「…自分たちの大事な技術なのに?」

ソータが首を傾げると、キメルが笑った。

「誰がやったか分からないし、自分ももしかしたら片棒を担がされてる可能性もあるからな。後ろめたい気持ちは皆が持っている」

「そんな…」

「今、どれだけその大事な技術が蔑ろにされていたか、あいつらはよく思い知るだろうよ」

ソータは頷いた。

✢✢✢

波音が聞こえる。ソータたちはカイガラの砂浜にいた。横丁はここから少し歩いた場所にある。

「タキナミって名前…かな?」

「そうだな、屋号かもしれないし、ちょっと聞いてみるか」

「うん」

二人はカイガラ横丁にいる人に片っ端から聞いてみることにした。聞いたところ、どうやら、タキナミは名前らしい。変わった人だと皆、口を揃えて言った。

「タキナミ様、変わった人だって言うけれどそんなになのかな?」

「まぁ覚悟はしておいた方がいいかもしれないな」

教えてもらった建物を二人は目指す。無事に見つけて、ソータはホッと息をついた。水色の屋根が特徴的である。

コツコツとノッカーでドアを叩くと、中で物音がする。

「ふぁーい」

かちゃり、とドアが開く。中から出てきたのは丸い縁の眼鏡を掛けた女性だった。明るい茶髪は鳥の巣のようだ。

「ど、どちらさまですかー?」

「あの、タキナミ様ですか?魔剣を作られてるって聞いて来ました。見せていただいても構わないですか?」

「え…魔剣?あ、あれは、その…」

タキナミは明らかに動揺している。ソータはほぼ強引に中に押し入った。キメルも悠々と付いてくる。

「これ…」

ソータは魔剣を見つけた。手に取ると確かな重みがある。

「ふむ…」

キメルも唸った。

「あ、あああ!あの!!それはまだ試作品といいますか、えーと!!!」

「タキナミ様?」

ソータは彼女を見上げた。タキナミがごくりと喉を鳴らす。

「この技術、どうやって学んだのですか?」

「あ…最初は真龍族の方に教えていただきました。あとは自分なりにアレンジして」

「独学でこれか…」

彼女の魔剣は素晴らしかった。少なくともこの間中央都市で見た魔剣よりレベルが数段上がっているのは間違いない。

「キメル」

「あぁ、ちょっと張ってみるか」

「うん」

タキナミはぽかんとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

処理中です...