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日が昇る前にソータたちが元の世界に戻ると、聖域は既に騒がしかった。森にいる動物たちが集まっている。フクロウがソータの腕に留まった。そして彼は翼を広げながら鳴いた。
「ホー!!」
(キメル様、おめでとうございます!!)
どうやらキメルが一人前になったことが伝わっているらしい。キメルはいつもの幻獣の姿に戻っている。
「お前ら、夜なんだし、大人しく寝てろよ」
鼻を鳴らしながらキメルは言ったが、間違いなく照れ隠しである。動物たちはそれぞれが花を一輪ずつ咥えていた。
「ホー!」
(これより、キメル様のお祝いパーティーを始めたいと思います!ソータナレア様に代表として、開会宣言をお願い致します!)
急に役割を振られたソータは一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。ほかでもない、大好きなキメルのパーティーだ。フクロウの隣に並ぶ。
「キメルはすごく頑張って、お祖父様に勝利したのです!みんな、沢山褒めてあげてね!パーティー楽しもう」
「ホー」
(ソータナレア様、ますますお美しくなって。)
フクロウの瞳からポロリと涙がこぼれた。動物たちが花をソータに渡していく。皆お祝いの言葉も一緒に述べていった。
「はい、キメル」
ソータは皆からもらった花で冠を編んでキメルの頭に載せた。
「ソータ、皆ありがとな」
聖域に生っている甘い木の実を皆で分け合って食べた。普段であれば、眠っている時間だ。なんだか感情が昂っている。
「あぎゅあ」
ドラゴがふああと大きな欠伸をして目を開けた。
「ドラゴ、起きたの?木の実食べる?」
「たべる」
ソータが葉の上に山盛りになっている木の実を一つとってドラゴに渡した。
「あぐあぐ」
「ホー」
(この方が真龍の。)
フクロウがソータの肩に留まって言った。
「そうなの。少し休んだら真龍の里に行くつもりなんだけど」
「ホー」
(真龍の里ですか。ソータアレア様、どうかお気をつけて。)
「ありがとう」
しばらく皆で雑談をしながら木の実を食べ、パーティーは終わりの時を告げる。
「ホー」
(では最後にキメル様よりまとめの一言をお願いします。)
キメルは少し考えて口を開いた。
「この森は前より開かれた場所になった。人間は信用ならねえと思っていたが、俺自身少し変わって来ている。人間がこの森で、もし困っていたら様子をよくみてやってくれ。俺もそうする」
動物たちが歓声を上げた。こうして聖域のパーティーは終わりを告げた。
「ソータ、疲れただろ?」
ソータは一人礼拝堂で祈っていた。キラキラとソータの周りを光が包む。聖女にしか出来ない特別な『祈り』だ。キメルが近寄ると、ソータは振り返り微笑む。
「キメル、私嬉しかったの」
何が?とキメルが問う前にソータがキメルの首に抱き着いた。
「人間のこと、ちょっとでも見直したって思ってくれたんでしょ?」
「色々な奴に会ったしな。俺も少しずつ変わらないとって思っただけだよ」
嬉しいとソータがますます抱き着く。
「キメル大好き!!」
「あぁ、俺もお前が好きだ」
二人は礼拝堂を出て、茂みに座った。ソータがキメルの腹にもたれかかる。聖域の森は再び静けさを取り戻している。
「ふぁあ」
ソータが欠伸をすると、キメルが笑った。
「でかい欠伸だな」
「うん。だって眠たいんだもの」
「ドラゴもしばらく起きないだろうし、寝ろ」
「うん…」
すー、とソータが眠り始めた。キメルも目を閉じた。目は閉じているが、しっかり周りの気配は探る。ふと小さな気配が動くのを感じた。キメルが目を開けると、ドラゴがひょこりと顔を覗かせた。
「あぎゅあ?」
「どうした?チビ助」
ドラゴが取り出したのは一輪の小さな花だった。
「ぎゅ、あげる」
「!!」
ドラゴが花をキメルのたてがみに差す。
「お前、優しいな」
「ぎゃ?」
ドラゴはよく分からなかったらしい。再びソータの背負っていた布の中に潜り込み眠り始めた。
キメルも再び目を閉じた。
✢✢✢
「ん!」
ソータが伸びをしているのをキメルは見ていた。
「おはよう、キメル。ドラゴは…寝てるね」
「おはよう、ソータ」
「あれ?キメル、そのお花どうしたの?」
「チビがくれたんだ」
ソータがそれを見て笑う。
「嬉しいね!」
「あぁ、まあな。ソータが編んでくれた花輪も嬉しかった」
ソータはキメルの頭に載っていた花輪に触れた。
「ずっとこのままであって欲しいけど、お花は萎れちゃうもんね」
「命は儚いからな」
ソータは花輪にドラゴがくれた花を綺麗に挿した。
「ドラゴ、気が付くかなぁ?」
ふふ、とソータが笑っていると、もぞりとドラゴが顔を出した。
「あぎゃ?あ!」
どうやらもう花輪に気が付いたらしい。ドラゴの瞳がキラキラしている。
「きれい…!」
ソータはドラゴを抱き上げた。
「ドラゴ、もう気が付いちゃったの?すごいね」
「ソータ、すき」
ぎゅううとドラゴがソータに抱き着いている。
「とりあえず何か食いながら、真龍の里を目指すか」
「うん、そうだね。一体何が起きているんだろう?」
「まぁあまりいいことじゃなさそうだけどな」
「私、真龍の里のこと、あまり知らなくて」
「真龍の里の存在はあまり知られてないよな。自分たちの血筋を絶やさないためらしいけど」
「へええ。私、そんな所に入れるの?」
「ソータはドラゴをたまごから孵して育ててるんだぞ。十分資格あるだろ」
「そっか」
「よし、木の実取りつつ行くぞ」
「うん!」
ソータはキメルの背に跨った。キメルが軽やかに走り出す。
「ホー!!」
(キメル様、おめでとうございます!!)
どうやらキメルが一人前になったことが伝わっているらしい。キメルはいつもの幻獣の姿に戻っている。
「お前ら、夜なんだし、大人しく寝てろよ」
鼻を鳴らしながらキメルは言ったが、間違いなく照れ隠しである。動物たちはそれぞれが花を一輪ずつ咥えていた。
「ホー!」
(これより、キメル様のお祝いパーティーを始めたいと思います!ソータナレア様に代表として、開会宣言をお願い致します!)
急に役割を振られたソータは一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。ほかでもない、大好きなキメルのパーティーだ。フクロウの隣に並ぶ。
「キメルはすごく頑張って、お祖父様に勝利したのです!みんな、沢山褒めてあげてね!パーティー楽しもう」
「ホー」
(ソータナレア様、ますますお美しくなって。)
フクロウの瞳からポロリと涙がこぼれた。動物たちが花をソータに渡していく。皆お祝いの言葉も一緒に述べていった。
「はい、キメル」
ソータは皆からもらった花で冠を編んでキメルの頭に載せた。
「ソータ、皆ありがとな」
聖域に生っている甘い木の実を皆で分け合って食べた。普段であれば、眠っている時間だ。なんだか感情が昂っている。
「あぎゅあ」
ドラゴがふああと大きな欠伸をして目を開けた。
「ドラゴ、起きたの?木の実食べる?」
「たべる」
ソータが葉の上に山盛りになっている木の実を一つとってドラゴに渡した。
「あぐあぐ」
「ホー」
(この方が真龍の。)
フクロウがソータの肩に留まって言った。
「そうなの。少し休んだら真龍の里に行くつもりなんだけど」
「ホー」
(真龍の里ですか。ソータアレア様、どうかお気をつけて。)
「ありがとう」
しばらく皆で雑談をしながら木の実を食べ、パーティーは終わりの時を告げる。
「ホー」
(では最後にキメル様よりまとめの一言をお願いします。)
キメルは少し考えて口を開いた。
「この森は前より開かれた場所になった。人間は信用ならねえと思っていたが、俺自身少し変わって来ている。人間がこの森で、もし困っていたら様子をよくみてやってくれ。俺もそうする」
動物たちが歓声を上げた。こうして聖域のパーティーは終わりを告げた。
「ソータ、疲れただろ?」
ソータは一人礼拝堂で祈っていた。キラキラとソータの周りを光が包む。聖女にしか出来ない特別な『祈り』だ。キメルが近寄ると、ソータは振り返り微笑む。
「キメル、私嬉しかったの」
何が?とキメルが問う前にソータがキメルの首に抱き着いた。
「人間のこと、ちょっとでも見直したって思ってくれたんでしょ?」
「色々な奴に会ったしな。俺も少しずつ変わらないとって思っただけだよ」
嬉しいとソータがますます抱き着く。
「キメル大好き!!」
「あぁ、俺もお前が好きだ」
二人は礼拝堂を出て、茂みに座った。ソータがキメルの腹にもたれかかる。聖域の森は再び静けさを取り戻している。
「ふぁあ」
ソータが欠伸をすると、キメルが笑った。
「でかい欠伸だな」
「うん。だって眠たいんだもの」
「ドラゴもしばらく起きないだろうし、寝ろ」
「うん…」
すー、とソータが眠り始めた。キメルも目を閉じた。目は閉じているが、しっかり周りの気配は探る。ふと小さな気配が動くのを感じた。キメルが目を開けると、ドラゴがひょこりと顔を覗かせた。
「あぎゅあ?」
「どうした?チビ助」
ドラゴが取り出したのは一輪の小さな花だった。
「ぎゅ、あげる」
「!!」
ドラゴが花をキメルのたてがみに差す。
「お前、優しいな」
「ぎゃ?」
ドラゴはよく分からなかったらしい。再びソータの背負っていた布の中に潜り込み眠り始めた。
キメルも再び目を閉じた。
✢✢✢
「ん!」
ソータが伸びをしているのをキメルは見ていた。
「おはよう、キメル。ドラゴは…寝てるね」
「おはよう、ソータ」
「あれ?キメル、そのお花どうしたの?」
「チビがくれたんだ」
ソータがそれを見て笑う。
「嬉しいね!」
「あぁ、まあな。ソータが編んでくれた花輪も嬉しかった」
ソータはキメルの頭に載っていた花輪に触れた。
「ずっとこのままであって欲しいけど、お花は萎れちゃうもんね」
「命は儚いからな」
ソータは花輪にドラゴがくれた花を綺麗に挿した。
「ドラゴ、気が付くかなぁ?」
ふふ、とソータが笑っていると、もぞりとドラゴが顔を出した。
「あぎゃ?あ!」
どうやらもう花輪に気が付いたらしい。ドラゴの瞳がキラキラしている。
「きれい…!」
ソータはドラゴを抱き上げた。
「ドラゴ、もう気が付いちゃったの?すごいね」
「ソータ、すき」
ぎゅううとドラゴがソータに抱き着いている。
「とりあえず何か食いながら、真龍の里を目指すか」
「うん、そうだね。一体何が起きているんだろう?」
「まぁあまりいいことじゃなさそうだけどな」
「私、真龍の里のこと、あまり知らなくて」
「真龍の里の存在はあまり知られてないよな。自分たちの血筋を絶やさないためらしいけど」
「へええ。私、そんな所に入れるの?」
「ソータはドラゴをたまごから孵して育ててるんだぞ。十分資格あるだろ」
「そっか」
「よし、木の実取りつつ行くぞ」
「うん!」
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