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「先に墓参りに行こう」

神々の世界にも夜はあるらしい。キメルは再び幻獣の姿になり、ソータを背に乗せてくれた。
ドラゴはスピスピ眠っている。

「ねえ、キメル?キメルのお母様は?」

そのことについてもソータは気になっていた。父がいれば母もいるのが普通である。

「母さんは父さんが死んだ時、一緒についていった。死んではいないけど多分もう会えない」

「そうなんだ。キメルも私もそういうとこ似てるよね」

「…そうかもしれないな。だから引き合わせてくれたのかもな」

誰に?とソータが尋ねるとキメルが鼻を鳴らす。

「運命の神様ってやつだ。今まで会ったことないけどな」

「本当だ。私も会ったことない」

だろう?とキメルが笑う。しばらく坂道を歩くとぽつん、と石碑が立っていた。

「あれが?」

「あぁ。親父の墓だ。神々は基本的に死なねえ。だから死んだ親父はレアケースなんだ」

ソータを降ろし、キメルが人型になる。花を手向けて墓石に水をかけた。

「ソータ、親父に祈ってやってくれないか?」

「もちろん。お母様にもね」

ソータはその場で跪き祈り始めた。聖女の祈りは死の痛みを和らげてくれる。遺された者の痛みもだ。

「ありがとう、ソータ」

ソータが立ち上がると、キメルに腕を引かれていた。

「よし、爺に戦いを挑むか。ボッコボコにしてやるからな」

「やり過ぎないようにね」

ソータが不安になって言うと、キメルが自信満々に笑う。

「あの爺は殺そうとして殺せるもんじゃねえんだ」

やはりキメルの祖父だ。実力に間違いはない。二人が家に戻ると、既に準備をして待っていた。

「覚悟はいいか?」

「あぁ。かかってきやがれ、クソ爺」

二人が対峙する。どんな戦いが繰り広げられるのだろうとソータはハラハラした。

✢✢✢ 

「く…やっぱりまだついていけないのかよ」

キメルは幻獣の姿で野原を疾走している。後ろからバリバリバリと雷が連続で落ちてくる。キメルの祖父、ラムゥの魔法の力だ。自分との明らかな力量差にキメルは落ち込みそうになった。だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

「逃げ回っているだけでは儂には勝てまい!!」

追撃の雷を放ちながらラムゥが怒鳴った。確かにその通りだ。キメルはズザザと足を止めた。
自分に向かって打たれた雷を自慢の角で受け止め、力を更に溜める。そしてそれをラムゥに向かって放つ。

「ほほ、儂の雷を受け止めるとは」

「俺だっていつまでも子供じゃないんだぜ」

ラムゥが飛び掛かってきたので、キメルも瞬時に人型になり受け止めた。

「魔法が効かないなら接近戦ってわけかよ」

ラムゥの重い拳を受け止めながらキメルは笑った。

「儂は元来こちらの方が得意でな」

キメルは防戦一方だ。

「ぐっ…くそっ…」

ガッ、ガガッと二人の攻防が繰り広げられる。
ソータはそれをハラハラしながら見守っていた。

「負けねえぜ、爺!!」

キメルが隙を狙い、拳をラムゥの腹に鋭く打ち込んだ。

「ぐふっ!ぐうう」

ズザザ、とラムゥが衝撃で後ろに飛ばされるが、なんとかその場に堪えた。

「ふむ…」

ラムゥが唸る。

「この儂に一撃与えるか。儂も耄碌したかもな」

「爺、どうする?まだ続けるのか?」

キメルが構え直す。

「いや、聖女さんがそれどころじゃないが」

ソータはボロボロ涙をこぼしている。

「ソータ!どうした!!」

キメルはソータに駆け寄った。泣いているソータを見るとオロオロしてしまうのは毎度のことだ。

「大丈夫か?ソータ」

「きめる…」

ソータにぎゅうと抱き着かれたので、キメルは彼女の頭を撫でた。

「もう戦っちゃいや」

ふるふるとソータが震えている。どうやら怖かったらしい。キメルはそんな彼女を愛おしく思う。

「大丈夫だ、ソータ。もう戦わないから」

「本当?」

ソータが涙目のまま尋ねると、ラムゥもやってくる。

「うむ、キメルは確かに一人前で間違いないようじゃ」

「ふん、爺、やっと分かったか」

「お前が一人前になれたのはソータさんがいたからだろう。キメル、お前は謙虚さを忘れるな」

「わあってるよ」

「皆さん、お夜食が出来てますよー」

カホがやって来て言った。

「戻るとするかの」

「行こう、ソータ」

「うん」

涙を拭いながらソータは笑った。

「キメル、すごくかっこよかったよ!」

「っ!!」

キメルからすれば不意打ちにも近い。その場に蹲りそうになったが、なんとか堪えた。

「ありがとう、ソータ」

「ふふ」

家に戻り、ソータたちは野菜が挟まったサンドイッチをご馳走になった。スープも数種類の野菜が溶け込んだ特別製だ。

「美味しい」

「あぎゅあ?」

ドラゴがふんふん、と鼻を動かしている。眠っていたが、良い匂いに気が付いたらしい。

「ドラゴ、サンドイッチ食べる?」

「たべ…る!」

少しずつ言語を獲得しているドラゴだ。

「ふむ、真龍の子か」

「はい。一時的に預かっていて」

ラムゥがふうむと唸った。

「何かあったのか?」

キメルが尋ねるとラムゥが眉を顰める。

「真龍の里で何やら揉め事があったようじゃ」

「は?なんでまた?」

「詳しくは儂も知らん。だが、その子の親御さんに挨拶位はしに行った方がいいかもしれん」

「確かにその通りなのです。キメル、真龍の里の場所を知ってる?」

「あぁ。ルーゴとはよく遊んでたからな。そんなことあいつ、一言も言ってなかったのに」

キメルも心配になったらしい。このまま聖域に一度帰ることになった。

「次は式の日取りを決めましょうね」

カホにそう言われてキメルはまた慌て始めていた。

「ありがとうございました」

「あぎゃ」

ソータ、キメル、ドラゴはお礼を言って元の世界へ戻った。
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