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 結婚祝いのパーティーは前夜祭より遥かに盛大に行われている。リーナとダミアンは客たちとずっと話しているようだ。

「美味いな、これ」

 キメルが器用に肉の塊を前足で持ってがぶがぶと食らいついている。

「キメル、もしかしていつもより小さい?」

「室内サイズだ」

 なんでもないようにキメルはそう言うが、なんだそれはとソータは思わず突っ込みそうになった。ソータは腕を組んでキメルを見つめる。

「キメル、私が知らないこと、実はいっぱい知っているでしょう?」

 う、とキメルが青ざめてゴホゴホし始めたのでソータも慌てた。馬(キメルは馬ではないが)の誤嚥死など今まで聞いたことがない。

「大丈夫?キメル?」

「ああ。美味くて咽せた、さてと食うか」

「キメルー」

 ソータはキメルの脇を思い切りくすぐった。これ以上はぐらかされたらもう耐えられない。

「わ、分かった。ちゃんと話す!でもこういうのって時を選ぶんだよ」

 キメルが何を言っているのかソータにはさっぱり分からない。

「何?その時を選ぶって」

 一応尋ねたらキメルが頭をぶるっと震わせた。そして柄にもなく小声で言う。

「まあ俺と二人で墓参りに行きませんか?ってことだ」

「墓参り?」

「そう。今は祝いの席だし、あとでちゃんと話すから」

 今はキメルの言葉を信じるしかない。ソータは渋々引き下がった。

「ソータ!」

 急に名前を呼ばれてそちらを見るとリヒとフレンだった。

「あ、兄様たち」

 ***

「うん、おいしー!さっすがお城の料理は違うなあ」

 リヒが骨付きのチキンにかぶりついている。キメルもだ。むしゃむしゃと器用に食べている。

「リヒ、遊びに来たんじゃないんだぞ」

 フレンが嗜めるがリヒはもう一個だけと肉を掴んだ。それにフレンがやれやれとため息を吐く。

「なんでお二人が?」

「あぁ、お前たちに一応報告をと思ってな」

「ソータ、そのローブ似合ってるね。可愛いよ」

「こら、リヒ。話を脱線させるな」

「何があったんだ?」

 キメルがもしゃもしゃ肉を食べながら尋ねる。

「ダイダイの強盗事件があっただろう?」

 ソータは思い出してきていた。皆で、闇神を祓った件である。結局あの事件は犯人が謎のまま終わっていた。

「で、今回の件でパペが連れてきた男がその件に関わっていたんだ」

 リーナに成りすましていたあの男が、とソータは
 驚いた。

「今芋づる式に引っ張ってるよ」

 リヒがのんびり言う。次は生クリームがたっぷり載ったケーキをもぐもぐ食べていた。

「首謀者はハ・デスを復活させたかったんだろう。力量が足りなくて、さすがに契約まではできなかったみたいだけど。それに、契約できたとしても今はハ・デスに全然力がないからがっかりしたろうけどな。あいつも、ハ・デスも無理やり力を回復しようとしたし…やれやれ」

 フレンが困ったように笑う。

「まあそんなところだ。ソータ、お姉さんに会えて良かったな」

「フレン兄様は私のお姉様がお姫様だって知っていたのですか?」

「いや。まぁ、噂程度にはな」

「教えてくれてもいいのに」

 ソータが膨れると、フレンが参ったなと頭を掻く。

「ソータ、君はこれからもっと、色々なことを知るよ。もしかしたら傷付くこともあるかもしれない。それでも前に進んで」

 リヒは優しく、だが厳しく言った。

「リヒがまともなこと言った」

 フレンが驚いている。

「僕はお兄さんだからねー」

 リヒはふふ、と笑った。

「ソータ、ゼリーがあるぞ」

 キメルは食べる手を止める様子がない。ソータは頷いた。今は楽しもう、そう思ったのだ。

 ✢✢✢

「ソータ、もう行かなくちゃいけないの?」

 パーティーが終わり、城を出ようとしたらリーナに引き止められた。ソータは彼女に向き直った。そして笑う。

「リーナ姉様、大丈夫。また会えるのです」

「ソータ…そうね。また会えるものね」

 リーナにぎゅっと抱き締められて、ソータも彼女の背中に腕を回した。会ってまだ間もないはずなのに、ずっとこうしていたような感覚だった。

「お姉様、また」

「うん、またね!」

 ソータが手を振ると振り返してくれる。彼女にはずっと幸せでいて欲しい。ソータは祈る。色々な人の幸せを。

✢✢✢

ソータたちは飛空艇でカリアシュヤを出て中央都市に引き返していた。エンジたちは明日、アオナへ帰るらしい。フレンとリヒはリーナの誘拐事件について詳しく調べるらしい。異次元が生まれ、世界に歪みができた可能性があるからだ。聖騎士団は神々にまつわることを専門としている。

「なんか色々起きたねえ」

ロニがしみじみ言った。

「貝殻を沢山頂けたのは有り難かったです」

シヴァが所望していた量、きっちり手に入れた。
ソータは眠たくて仕方がなかった。うつらうちらしている。

「ソータナレア様、個室でお休みください。到着したら起こしますから」

「ありがとう、そうする」

ソータは部屋に入りローブを脱いでベッドに入った。疲れているのは、魔力をリーナに流し入れたからだろう。だんだん回復してきている。ソータは眠りに就いていた。

ふと目を開けると、真っ暗だった。そばに誰かがいる。キメルだ。ソータは起き上がった。

「ソータ、お前の時間をくれないか?」

「キメルとお墓参りに行くんだよね?」

「あぁ。お前には黙っていたが、俺は神だ」

する、とキメルが人型になる。ソータは驚いてしまった。あの時自分を抱えて助けてくれた人だ。キメルはすぐさま幻獣の姿に戻る。

「俺は人間が嫌いだった。でもソータと一緒にいてソータが大好きになったんだ。これからもそれはずっと変わらない」

「キメル、神様だったんだ。なんで私に黙っていたの?」

「俺は半人前だからな」

キメルが困ったように笑う。キメルほどの力を持っていても半人前なのか、とソータは驚いた。

「俺は一人前の神になりたい。そして、聖女であるお前を手伝いたい」

「キメル、ありがとう」

ソータが抱き着くとキメルも鼻を鳴らした。
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