72 / 92
72
しおりを挟む
「っ…はぁ…くそ…いてえなぁ…あの女マジ許さねえ…」
キメルは苦しみに喘ぎながらなんとか歩いていた。男たちに鞭で散々打たれ腹や背中を蹴られた。お陰で、体中が痛い。だがちゃっかり男たちに枷を壊させていた。枷が壊れた瞬間、魔法でそれを悟らせないように工夫したのだ。どうやら男たちは作られた木偶のようだった。キメルの魔力にすら気付かない。ここは地下だ。キメルは地上を目指そうとしていたが感覚がなかなか戻らない。
「…あれはリーナじゃない。じゃあ誰だ?」
キメルはずっとおかしいと感じていた。リーナはあの女より、遥かに賢い。まず、自分に会ったら名前を呼んで笑顔で抱き着いてくるだろう。ソータ以外にそれが出来る女性はそうそういない。
「リーナは…ソータのとこか」
リーナは神の生まれ変わりだ。同じ神であるキメルとは根深い所で繋がっているから分かる。ともかく、ソータの所にリーナがいるなら安心である。では、自分を拐ったリーナは誰なのか?
「くそ、腹減ったな」
壁にもたれ、キメルはズルズルと崩れ落ちた。体力的にも限界である。今、意識を失うのはまずい。そう思ったがまぶたが自然に下がってくる。キメルは知らず知らずのうちに、意識を飛ばしていた。
✢✢✢
「リーナ姫は本当にすごいな」
エンジが彼女の描いた地図を眺めながら言った。リーナ姫の描いた地図の正確さに驚いたらしい。
「はい。地形もほぼ一致してますね。子供が描いたとは思えません」
パペが頷く。
「なんで秘密基地が、月って名前なんだろ?」
ロニが首を傾げると、エンジが笑った。
「姫の秘密基地は、天文台の地下にあるみたいなんだ」
「え!あぁ!なるほど!!」
ロニが納得したと手を打つ。幼いリーナ姫の足で行ける場所だ。城からあまり離れていない場所に天文台はあった。
「キメル…」
ソータがぎゅ、と胸の前で拳を握ると、ロニにその手を優しく握られる。
「大丈夫だよ、ソータ。だってキメルだよ?」
「うん、そうだね」
ロニはいつもこうして自分を励ましてくれる。それがとても有難い。
天文台というだけあって、この建物の中に、大きな望遠鏡があるようだ。中に入ると、上に続く螺旋階段と地下に繋がる階段があった。リーナ姫の秘密基地はそこにあるのだろうか。一行は階段を下った。
地下の道はフォッシルの塔で経験したが、こちらの方はしっかり空調が効いており過ごしやすい。
しばらく歩くと道が二又に分かれている。ソータはキメルを思念伝播の魔法で呼んだ。だが彼からの反応はない。
「キメル、もしかしたら倒れているのかも」
「…もしここに敵さんがいると厄介だな」
ううむ、とエンジが唸る。
「丁度6人いますし、3人ずつ別々に分かれましょう。皆さん思念伝播の魔法は使えるようですし」
パペの提案に皆が頷いた。
「ソータナレア様、シオウ様、ロニで一組。エンジ様、レント様、私で分かれましょう」
「分かった。キメルを見つけたり敵が出てきたら報せる」
「承知なのです」
ソータたちは左の道、エンジたちは右の道を探索することになった。
地下の道には時折ぼんやりした灯りがあるが、それだけではさすがに暗い。ソータは魔法で辺りを照らして進んだ。
「キメルはどこにいるのかな」
「もし、乱暴なことをされていたら許しません」
ソータが杖をぎゅっと握りしめて言うと、ロニがぎょっとしたように言う。
「ソータがめちゃくちゃ怒ってる」
「ソータさんにとってキメルさんは大事な人だから」
シオウは優しい。
「分かるなー!」
「あぎゃ」
急にドラゴが走り出していく。
「待って!ドラゴ!!」
「急いで追いかけなくちゃ!」
3人はドラゴを追った。ドラゴは足が短いが速い。彼はてちてち走る。
「あぎゃ!!」
しばらく行った先で、ドラゴが鳴いている。ソータたちが近寄ると鍵らしきものが落ちていた。
「どこの鍵かな?」
「この下にもまだ地下があったからそこのかもね」
シオウがふんわり言う。
「え、シオウ兄ちゃん、もうここの地図覚えてるの?」
「一応」
ロニが尊敬の眼差しでシオウを見つめて言った。
「シオウ兄ちゃんすげー!」
「私は地図が好きだからね。とりあえず奥まで行ってみようか」
「はい」
ソータたちは奥まで行ってみた。特に変わったものはない。とりあえず引き返すことにした。
「望遠鏡のスケールがでかすぎて俺、びっくりなんだけど」
ロニが驚くのも分かる。望遠鏡の動力源が地下にまで及んでいるのだから。
「確かに世界で一番大きい望遠鏡だといわれているからね。宇宙進出もそこまで遠くないのかも」
「そうなのですか?すごい」
「お、戻ってきたか」
エンジたちが声を掛けてくる。なんだか表情が険しい。
「何かあったの?」
シオウが尋ねるとエンジが頷いた。
「あぁ。パペが警戒してる。もしかしたらキメルもいるかもしれない。どうも地下に行けるらしいんだ。ただ鍵がかかっていて」
「キメル…エンジ様、地下のなら鍵をおそらく見つけました」
エンジが表情を明るくした。
「本当か!」
「さっすがソーちゃん!」
レントも笑う。
「早速行ってみましょうか、皆で」
皆が頷く。
キメルは苦しみに喘ぎながらなんとか歩いていた。男たちに鞭で散々打たれ腹や背中を蹴られた。お陰で、体中が痛い。だがちゃっかり男たちに枷を壊させていた。枷が壊れた瞬間、魔法でそれを悟らせないように工夫したのだ。どうやら男たちは作られた木偶のようだった。キメルの魔力にすら気付かない。ここは地下だ。キメルは地上を目指そうとしていたが感覚がなかなか戻らない。
「…あれはリーナじゃない。じゃあ誰だ?」
キメルはずっとおかしいと感じていた。リーナはあの女より、遥かに賢い。まず、自分に会ったら名前を呼んで笑顔で抱き着いてくるだろう。ソータ以外にそれが出来る女性はそうそういない。
「リーナは…ソータのとこか」
リーナは神の生まれ変わりだ。同じ神であるキメルとは根深い所で繋がっているから分かる。ともかく、ソータの所にリーナがいるなら安心である。では、自分を拐ったリーナは誰なのか?
「くそ、腹減ったな」
壁にもたれ、キメルはズルズルと崩れ落ちた。体力的にも限界である。今、意識を失うのはまずい。そう思ったがまぶたが自然に下がってくる。キメルは知らず知らずのうちに、意識を飛ばしていた。
✢✢✢
「リーナ姫は本当にすごいな」
エンジが彼女の描いた地図を眺めながら言った。リーナ姫の描いた地図の正確さに驚いたらしい。
「はい。地形もほぼ一致してますね。子供が描いたとは思えません」
パペが頷く。
「なんで秘密基地が、月って名前なんだろ?」
ロニが首を傾げると、エンジが笑った。
「姫の秘密基地は、天文台の地下にあるみたいなんだ」
「え!あぁ!なるほど!!」
ロニが納得したと手を打つ。幼いリーナ姫の足で行ける場所だ。城からあまり離れていない場所に天文台はあった。
「キメル…」
ソータがぎゅ、と胸の前で拳を握ると、ロニにその手を優しく握られる。
「大丈夫だよ、ソータ。だってキメルだよ?」
「うん、そうだね」
ロニはいつもこうして自分を励ましてくれる。それがとても有難い。
天文台というだけあって、この建物の中に、大きな望遠鏡があるようだ。中に入ると、上に続く螺旋階段と地下に繋がる階段があった。リーナ姫の秘密基地はそこにあるのだろうか。一行は階段を下った。
地下の道はフォッシルの塔で経験したが、こちらの方はしっかり空調が効いており過ごしやすい。
しばらく歩くと道が二又に分かれている。ソータはキメルを思念伝播の魔法で呼んだ。だが彼からの反応はない。
「キメル、もしかしたら倒れているのかも」
「…もしここに敵さんがいると厄介だな」
ううむ、とエンジが唸る。
「丁度6人いますし、3人ずつ別々に分かれましょう。皆さん思念伝播の魔法は使えるようですし」
パペの提案に皆が頷いた。
「ソータナレア様、シオウ様、ロニで一組。エンジ様、レント様、私で分かれましょう」
「分かった。キメルを見つけたり敵が出てきたら報せる」
「承知なのです」
ソータたちは左の道、エンジたちは右の道を探索することになった。
地下の道には時折ぼんやりした灯りがあるが、それだけではさすがに暗い。ソータは魔法で辺りを照らして進んだ。
「キメルはどこにいるのかな」
「もし、乱暴なことをされていたら許しません」
ソータが杖をぎゅっと握りしめて言うと、ロニがぎょっとしたように言う。
「ソータがめちゃくちゃ怒ってる」
「ソータさんにとってキメルさんは大事な人だから」
シオウは優しい。
「分かるなー!」
「あぎゃ」
急にドラゴが走り出していく。
「待って!ドラゴ!!」
「急いで追いかけなくちゃ!」
3人はドラゴを追った。ドラゴは足が短いが速い。彼はてちてち走る。
「あぎゃ!!」
しばらく行った先で、ドラゴが鳴いている。ソータたちが近寄ると鍵らしきものが落ちていた。
「どこの鍵かな?」
「この下にもまだ地下があったからそこのかもね」
シオウがふんわり言う。
「え、シオウ兄ちゃん、もうここの地図覚えてるの?」
「一応」
ロニが尊敬の眼差しでシオウを見つめて言った。
「シオウ兄ちゃんすげー!」
「私は地図が好きだからね。とりあえず奥まで行ってみようか」
「はい」
ソータたちは奥まで行ってみた。特に変わったものはない。とりあえず引き返すことにした。
「望遠鏡のスケールがでかすぎて俺、びっくりなんだけど」
ロニが驚くのも分かる。望遠鏡の動力源が地下にまで及んでいるのだから。
「確かに世界で一番大きい望遠鏡だといわれているからね。宇宙進出もそこまで遠くないのかも」
「そうなのですか?すごい」
「お、戻ってきたか」
エンジたちが声を掛けてくる。なんだか表情が険しい。
「何かあったの?」
シオウが尋ねるとエンジが頷いた。
「あぁ。パペが警戒してる。もしかしたらキメルもいるかもしれない。どうも地下に行けるらしいんだ。ただ鍵がかかっていて」
「キメル…エンジ様、地下のなら鍵をおそらく見つけました」
エンジが表情を明るくした。
「本当か!」
「さっすがソーちゃん!」
レントも笑う。
「早速行ってみましょうか、皆で」
皆が頷く。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?
sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。
わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。
※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。
あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。
ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。
小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる