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「あぐあぐ」

「ドラゴ、しっかり噛むのですよ」

ソータたちはザギヤの公園で食事を摂っている。幸いなことに、パペが大量に食料を持っているため帰れなくても困らない。
ソータは龍にドラゴという名前をつけていた。
ドラゴは大きなハムをむしゃむしゃと食べている。

「本当に赤ちゃんみたいだね、ドラゴ」

レントが頭を撫でるとドラゴがあぎゃ?と首を傾げた。そのあまりの可愛らしさに皆も悶絶しそうになる。

「この子、真龍なんでしょ?そんな高位な神様の赤ちゃんを預かるなんて、ソータすげー!」

「ロニってば。でも真龍の長様は私たちがこうなることを見通していたのかも」

真龍の長ともなれば、未来の予知など容易だろう。ソータはルーゴの言葉を思い出していた。
役に立つと彼は言っていた。ドラゴはまだ生まれたばかりだ。だが真龍であるルーゴが嘘を吐くとは到底思えない。

「あぎゃ?」

ソータを心配したようにドラゴが首を傾げる。

「大丈夫だよ、ドラゴ。ほら、ソーセージだって」

「あぐあぐ」

ドラゴはよく食べた。生まれる際にかなりエネルギーを使ったからだろう。

「にしても、リーナ姫をパペの保存庫に入れるなんて」

「私の保存庫は安全第一です」

パペがはっきり言う。

「まあ、ずっと抱きかかえて連れ回すのも大変だろうしさ、今はいいんじゃない」

レントが言う。それもそうかとエンジが頷いた。

「あ、そう言えばキメルの痕跡があったじゃない、あれってどうなったの?」

ロニに問われ、ソータは頷いた。コツ、と地面を杖で突くと、キメルが残したと思われる痕跡が現れる。杖に記憶させておいたのだ。更にソータは杖で痕跡を叩いた。だんだんと粉が消えていき、何かが現れてくる。

「この丸いのはなんだろう?」

ソータが更に杖を突くと、丸いものが半分になったものも現れた。さらに欠けているものも現れる。

「なんだか、月の満ち欠けみたいだね」

シオウが言うと、あ、と皆が納得した。

「月って言うと、ザギヤは天体観測が有名だけれど」

そこに女の子が必死に走ってくる。その後を慌てた様子の大人たちが数人追いかけてきた。

「リーナ姫様!お待ち下さい!」

「私も妹が見たいの!私も病院に連れて行って!お願い!!!」

「で、ですが…」

ソータたちは顔を見合わせた。ソータは慌てて水で作った仮面を着ける。リーナ姫と自分は外見がとても良く似ているからだ。

「どこの病院?教えて!!!」

リーナ姫が大きな声で喚く。

「姫様…妹様は城では暮らせません」

リーナ姫が大きな瞳を丸くさせた。

「なんで?」

「妹様は聖女になられます」

リーナ姫がそのことに動揺していることが周りからも分かった。大きな瞳にみるみる涙が溜まる。

「じゃ、じゃあ私と一緒に、っひ、暮らせない…の?」

「そうです」

リーナ姫がわんわん泣き出す。周りの人も何事かと顔を覗かせた。

「姫様、分かりました。一度だけ様子を見に病院に行きましょう」

「本当?」

リーナ姫が泣きじゃくりながら聞く。

「ただし、妹様とはこれきりです。姫様、いいですか?聖女になられるということは、とても誇らしいことなのですよ」

「…分かってる」

このやり取りを見ていたソータたちは頷きあった。ソータ自身、不思議な気持ちだ。自分はザギヤの生まれなのだと初めて知った。彼らをソータたちはバレないように追いかけた。しばらく歩くと大きな白い建物が見えてくる。病院だ。城からそこまで離れていなかったのが幸いした。

ソータたちはあくまでも堂々と院内に入った。
中では看護師たちが忙しそうに働いている。医師の姿も見受けられた。産科と書かれている案内ボードを見つけて、場所を確認する。

「ソーちゃんが赤ちゃんだった頃かぁ」

「ソータ、大丈夫か?」

「はい。ドキドキしますが大丈夫です」

リーナ姫たちは奥にある個室に入ったようだ。
ソータたちは個室から少し離れた椅子に腰掛けた。ここなら人も来ないだろう。

「パペ、画面出せる?」

「可能です」

パペが画面を出す。それを皆が周りから覗いた。

✢✢✢

妹が生まれる日を六歳のリーナはずっと楽しみにしていた。母が大事を取って、病院に入院してからは特にである。だが、リーナの周りの大人は日が経つにつれ、リーナに赤ん坊の話をしてくれなくなった。なんでだろう?とリーナは疑問に思ったが、特に聞かなかった。きっと話してくれないのは、自分が見に行きたいとわがままを言うからだろうと思った。

「わがままなんて言わないのにね、ね、くまちゃん」

大好きなクマのぬいぐるみの「くまちゃん」にリーナは語りかけた。この子はリーナの一人遊びにいつも付き合ってくれる。妹が出来たらこの子と一緒に遊ぼうとリーナは今からワクワクしていた。

「早く大きくならないかなぁ。そしたら一緒に公園で遊べるのに」

むうう、とリーナは膨れた。


ある日のことだった。リーナは妹が産まれたことを周りの大人が話しているのを聞いて知った。だが、リーナにはその話をしてくれない。いよいよおかしいとリーナは思った。

「くまちゃん、あたしと一緒に来てくれる?」

クマのぬいぐるみや大事な宝物をピンク色の小さなリュックに入れて背負った。これから自分は、大人に見つからずに病院に行かなければならない。妹に会わせてもらえないなら自分の足で会いに行けばいいのだ。六つのリーナからすればいい提案だと思った。そっと自分の部屋を出て、城を出ようとした時に大人に見つかってしまった。慌てて走ったが、敵うはずもない。公園で捕まってしまった。
大きな声で泣いていると、一度だけなら病院に行ってもいいと大人が言った。自分の妹なのにと怒りそうになったが、ここはいい子にしているべき場面だ。リーナは大人しく大人たちに従った。

病院は城から歩いていける距離だった。リーナは後ろからついてくる誰かたちに気が付いていた。リーナの能力は高い方だと言われている。自分はいずれどこかの王子と結婚して、王位を継がなければならないことも分かっていた。

個室に入る時、そっと後ろを見たが、その誰かたちはいなくなっていた。だが、気配をまだ感じている。なにか楽しいスカッとすることが起きるといいのにとリーナは一人でワクワクしていた。
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